“はまぎん”こと横浜銀行が展開しているウェブサイト「はまぎん おかねの教室ウェブサイト」は、子どもから大人まで、おかねや資産形成の基礎知識について学べる内容になっている。
「はまぎん おかねの教室ウェブサイト」https://www.boy.co.jp/boy/brand/okane/index.html
このサイトを手掛けた金融教育ディレクター兼横浜銀行行員の橋本長明さんに、前編では経歴や活躍について聞いた。
金融教育の課題は「学校教育への参入」

「金融教育のやりがいは、私にとっての“ikigai”とイコールかもしれません。金融教育やブランディングの活動を行ううえで、『人や社会が楽しくなったり、何かを考えたりするきっかけ創り』という軸を決めて取り組んでいるんです。この軸に当てはまることに挑んで、実現するとやりがいを感じますね」(橋本さん・以下同)
そのモチベーションとなっているのが、前編でも触れた講座の受講生や著書の読者からのコメント。
「一人ひとりの感想が大好きなんです。大きなメディアに取材されて、その記事を見た人から『すごいね』と言われるより、私の講座を受けたり本を読んでくれたりした人のコメントのほうが何倍も喜びを感じます。一人ひとりの生活が良くなっていかないと、全体は良くならないと思っているので、私が発信したことが刺さっていることを実感できるのがうれしいんです。

独自の金融教育メソッドを構築し、発信し続けてきた橋本さん。だからこそ感じている課題もある。「学校教育への参入」と「担い手不足」だ。
「学習指導要領に金融教育の内容が入ったことで、学校教育に受け入れられた実感はあります。ただ、現場の先生たちが腹落ちしないことには、学校における金融教育は実現しないとも感じています。先生たち自身は金融教育を受けてきていないし、苦手意識があるものを教えるのは難しいだろうとも思います。
横浜銀行では2023年に入ってから、横浜国立大学と連携して金融教育に取り組んでいる。
「横浜国立大学は教育学部附属校を数多く有する教育の研究校でもあるため、取り組む意義も強いと感じています。実は、私自身も東京学芸大学附属小・中学校で育ったため、類似する横浜国立大学の仕組みなどは体感してきました。現在は『はまぎん おかねの教室』を用いて、横浜国立大学では教職大学院、教育学部といった担い手向け、寄付講座では経営学部生向けに、附属横浜中学校では6コマ310分の長尺授業でおかねの知識を届けています。さらに今後は、附属鎌倉中学や附属横浜小学校での授業も予定しています」
この講座のきっかけとなったのが、橋本さんの取り組みだ。
「横浜国立大学の学長、教育学部長におかねに関する授業をレクチャーする機会をいただいたんです。そこで気に入っていただけて、附属の小・中学校、大学院、特別支援学校の全校長、副校長を集めていただくという大きな機会をもらいました。全身全霊でおかねの基礎教育や金融教育の必要性をレクチャーし、結果的に多くの校長・副校長にも気に入っていただき、各学校で授業をさせてもらえるようになりました。その期待に応えるべく、気持ちを込めて授業を開発し、熱気を帯びた講師を務めています」
子どもと一緒に親も見直したい「おかねの使い方」

家庭での金融教育に関しては「まだベストの回答が見つかっていない」。
「親子向けのワークショップも開いているので、そこで子どもはもちろんですが、保護者の方にも理解していただき、家庭に日々の教えを持ち帰ってもらうのが、現段階では一番なのかなと思っています。ワークショップで伝える話のひとつに、おこづかい帳の使い方があります。子どもが小さければ、おこづかい帳を付けるだけでも有効ですし、おこづかい帳に付けた買い物を『ニーズ(必要なもの)』と『ウォンツ(欲しいもの)』に分けることで、金銭管理の感覚や浪費の防止の意識も身に付きます。親子でおこづかい帳を見ながら、『今月は何を買った?』『これはニーズ? ウォンツ?』『このおかねはどこから来たものだと思う?』と、会話も広げていけるでしょう」
横浜銀行の同僚が子どもを連れて橋本さんのワークショップに参加したところ、小学2年生の子どもが日々の生活で「これはニーズかな? ウォンツかな?」と、考えながらおこづかい帳を付けるようになったという。
「おかねの使い方に正しい解はないので、ニーズとウォンツの尺度は個々に違っていいと思います。例えば、友達にプレゼントをあげる行為をニーズとする子もいれば、ウォンツとする子もいて、どちらも間違っていません。大切なのは、『今日はウォンツを我慢しよう』などと自分を律する心を持つことです。単にニーズとウォンツに分けるのではなく、『ウォンツにお金を使っていいのか』と考えてみること。子どもに『ゲームを買うために5,000円貯める』などの目標を立てさせると、お金の使い方を見直しやすくなるでしょう」

そんな橋本さんもかつては浪費家だった。「日銀入行後、家計簿を付け始めると、浪費が減り、貯蓄も成功。しかし、自宅を購入するというひとつの大きな目標を達成すると家計簿を止めてしまい、また浪費癖が。そこで、2013年にリリースした『おこづかいちょう』の開発にあたって、改めておこづかい帳を付け始め、その後も付け続けている現在、10年前から支出を3分の1ほどに減らすことができた。親も子どもと一緒におかねの使い方を見直してみるといいだろう。
「講座やワークショップを受けてくれた大人が、『ニーズ』『ウォンツ』の考え方に反応するケースは多いんです。『いままでウォンツで浪費ばかりだったな』って(笑)。
「“夢”は言葉にすることで叶う」

長く金融教育の普及に携わってきた橋本さん。金融教育ディレクター兼横浜銀行行員としての今後の目標は、これまでと変わらず「“おかねの基礎教育”を全国に広めていくこと」。
「『はまぎん おかねの教室』をはじめとするコンテンツづくりはしっかりやってきたので、そのコンテンツを活用した金融教育の拡大に努めることが第一です。あと、担い手教育ももっと積極的に行っていきたいと思っています。先ほども話したように、学校における金融教育は担い手不足の問題を抱えているので、教員や教育学部生を対象としたセミナーを増やし、“おかねの基礎教育”を理解してもらうことで、私や横浜銀行の分身を増やしていきたいんです。今年実施した何回かの教員セミナーではいたく腹落ちしていただく先生が必ず現れ、自身の学校で自ら『おかねの基礎教育』を実践してくださっています」
担い手教育が神奈川県から徐々に広がり、全国に届いていくと、担い手不足の問題は解消され、学校での金融教育がさらに進んでいくだろう。
金融教育ディレクターとしての目標だけでなく、個人としての目標も掲げ、日々のモチベーションとしている。
「日銀退職後から5つの夢を掲げているんですが、そのうちのひとつ『出版社から本を出す』は叶ったので、新たに『大学の客員教授になる』という目標を加えました。いまでも大学や専門学校など多くの学校で授業をしていますが、現状は最大300分ぐらいと、知識や想いを伝えるには授業時間が足りないんです。
橋本さんの活動の根底には「人や社会が楽しくなったり、何かを考えたりするきっかけ創り」という軸がある。今回のインタビューでも、聞いているこちら側が考えさせられる瞬間がいくつもあった。改めて、自分や家族のおかねの使い方を見直してみるとしよう。


(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/森カズシゲ)