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インターネット上で個人間取引ができる「暗号資産」が注目を集めている。金融危機に強いという側面があることから、リスクヘッジとして用いられるケースもあるようだ。

資産運用の手段のひとつとして取り入れるのもいいだろうか。

「『暗号資産が金融危機に強い』という話は、部分的に誤解があると考えています」

そう話すのは、マネックス証券 暗号資産アナリストの松嶋真倫さん。どこに誤解があるのだろうか。また、暗号資産を資産運用に取り入れるとしたら、どのようなポートフォリオを描くといいか、聞いた。

正しくは「ビットコインは金融危機に強い」

「暗号資産」を資産運用に取り入れるのはアリ? ナシ?


「暗号資産のなかでも、ビットコインは金融危機に強いといえます。一方、そのほかの暗号資産に関してはリスクが高い資産にあたるので、金融危機のタイミングで真っ先に売られるものと認識しておいたほうがいいでしょう」(松嶋さん・以下同)

基本的に、暗号資産はハイリスクハイリターンな資産。そのなかで、なぜビットコインだけが金融危機に強いといえるのだろうか。

「ビットコインは金に似た性質を持つ資産という認知が広がっていることが、大きなポイントです。“デジタルゴールド”と呼ぶ人もいて、『いずれは金に取って代わる資産になるのではないか』という議論も出てきているほどです」

金は地球に埋蔵されている量が決まっており、特定の発行者が存在しない資産という点から、金融市場の影響を受けにくいといわれている。

ビットコインは、正体不明の著者の論文をもとに開発者グループ「サイファーパンク」の有志メンバーが開発を進めたもので、特定の国や企業が介在していない資産となっている。また、事前に設定されたプログラムによって2100万枚という発行数の上限が決まっており、一定間隔で一定量が発行される形になっていることから、金に似た性質を持つ資産と捉えられているのだ。

「ビットコインは発行数があらかじめ決められているので、需要が大きくなれば、その分価値が高まる構造になっています。また、発行者が存在せず、特定の国や企業が意図的に価値を変動させるようなこともないため、『金融危機に強い』といわれるのです」

「暗号資産」を資産運用に取り入れるのはアリ? ナシ?


暗号資産は2024年末時点で2万4000種類あるが、ビットコイン以外のほとんどは発行数が固定されていない、または発行者が明確に存在しているという。



「ビットコイン以外の暗号資産は、発行者となる国や企業の意向によって発行数や発行するタイミングが変わるリスクがあります。また、発行者が企画したプロジェクトを進める資金を集めるために暗号資産を発行するケースも多く、海外では『株式と同じではないか』と指摘されています。国や企業は金融危機の影響も受けるので、『金融危機に強い資産』とはいえないでしょう。暗号資産市場の理想形はビットコインなので、将来的にはほかの暗号資産も発行者に依存せず、分散的に運営される形になるかもしれません」

初めての暗号資産は「ポートフォリオの5%」から

「暗号資産」を資産運用に取り入れるのはアリ? ナシ?


資産運用の一部に暗号資産を組み入れるとしたら、まずはビットコインがいいというわけだ。

「ただし、ビットコインといえども、ほかの資産と比べるとボラティリティ(価格変動性)が高いという点は否定できません。資産運用を行うのであれば、まずは株式や債券、投資信託などを活用したうえで、それでも余剰資金があるのであれば、追加投資としてビットコインをポートフォリオに加えてもいいのかなと思います」

さまざまな資産を組み合わせて運用していく場合、ビットコインはどの程度の割合で組み入れていくといいだろうか。

「一般的によくいわれることですが、あまり触れたことのない領域かつリスクの高い資産は、多くても5%程度に抑えておくと安心でしょう。ビットコインの将来性に期待して保有しておきたいけれど、暗号資産には詳しくないという場合は、まさにこのケースに当てはまると思います」

松嶋さんは「その資産に対する興味関心の度合いや詳しさによって、保有する割合を変えてもいい」と話す。

「暗号資産やビットコインに対する関心が高く、仕組みを理解し、最新の情報も追っていけるようであれば、資産全体の10%程度など、多少大きなポジションを取ってもいいと思います。暗号資産に限らず、重要なのはその資産にどれだけ興味を持てるかという点です」

ビットコインでの運用では、「長期投資」もポイントになるという。

「ビットコインを含む暗号資産は、短期的な値動きが激しい資産なので、急落した際に不安になって売却してしまうというケースがあります。しかし、長期的に見ると、暗号資産市場は今後5~10年で広がっていく可能性が高く、金融市場全体のなかでも大きな存在感を見せると考えられるので、積立の形で長く運用していくことを考えてみてほしいと思います」

暗号資産投資のカギになり得る「暗号資産ETF」

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ここまで暗号資産での運用方法について聞いてきたが、海外ではもっと手軽に暗号資産を保有できるようになってきているようだ。

「アメリカやオーストラリアでは、暗号資産を運用対象とするETFが承認されています。

従来のETFのルールに沿って取引や管理ができるので、新たに暗号資産用の口座をつくる必要がなく、個人間での直接取引に対する不安感も払しょくされるでしょう。そのため、アメリカでは企業や機関投資家もETFを用いて暗号資産市場に参入し始めています」

日本でも暗号資産ETFが出てくれば、証券口座でビットコイン投資などができるようになるが、まだ議論の途中にある。

「日本の法律上、暗号資産ETFの組成は難しいので、法改正が必要になります。ただ、法改正には時間がかかり、早く進んだとしても数年はかかると予想されます」

現在は海外の暗号資産ETFを国内で取引することはできないが、世界の流れに乗り、日本でも取引できるようになることを期待したいところだ。

「国内でも、金融機関が暗号資産プラットフォームのようなものの開発に着手しているので、暗号資産市場は着実に大きくなっていくと考えられます。このトレンドに取り残されないようにすることも、投資家として重要ではないかと考えています」

リスクはあるものの、リターンも大きい暗号資産。分散投資のひとつとして、まずはポートフォリオの5%程度を保有するところから始めてみるのもいいだろう。

「暗号資産」を資産運用に取り入れるのはアリ? ナシ?


(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)

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