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市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。ロボティクス・ドローン編第8回は、農業や物流、建設分野など、さまざまな場面での活用が進み始めている「ドローン」の最前線を追う。



国内外で新たなドローンメーカーが立ち上げられ、多様な機能を搭載した機種も続々と登場しているが、現状どの程度活用が進んでいるのだろうか。また、今後はどのような業界で取り入れられていくのか、「ドローンジャーナル」編集長の河野大助さんに聞いた。

6年で7倍以上に成長している「ドローン市場」

『ドローンジャーナル』編集長が見据える「ドローンビジネス」のこれから


そもそもドローン市場は、どのくらいの規模に広がってきているのだろうか。「ドローンジャーナル」を運営するインプレスのシンクタンク部門・インプレス総合研究所が発表した『ドローンビジネス調査報告書2024』によると、調査を開始した2017年度に503億円だったところから、2023年度には3854億円まで伸びている。さらに2024年度には4684億円、2028年度には9054億円に達すると予想されるそう(※)。

※『ドローンビジネス調査報告書2024』におけるドローンビジネスの市場規模は、機体・サービス・周辺サービスの3つで構成される。機体市場は飛行タイプのドローンだけでなく、ローバー型やボート型のドローンも含む。

『ドローンジャーナル』編集長が見据える「ドローンビジネス」のこれから
出典/インプレス総合研究所『ドローンビジネス調査報告書2024』

「インプレス総合研究所ではドローン市場を『機体』、ドローンを活用した『サービス』、ドローンに関する保険やスクール、アフターメンテナンスなどの『周辺サービス』の3つに分けて捉え、なかでも『サービス』の市場が大きくなると見込んでいます。2016年に市場動向を予想した際は、土木・建築、点検、農業、物流などの分野での活用が進むのではないかと考えていました」(河野さん・以下同)

実際にドローン活用が進んでいるのは「点検」「農業」「土木・建築」の分野という調査結果が出ている。

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(画像キャプ)
出典/インプレス総合研究所『ドローンビジネス調査報告書2024』

「作業者の高齢化などを理由に人員確保が難しい分野は、いままで人力で行っていた業務をドローンに置き換えた際のメリットがわかりやすい。そうした分野は、導入も早いと考えられます。例えば『点検』の分野は、ソーラーパネルや一般住宅の屋根など、高い位置に設置されたものを空飛ぶドローンの下部に搭載したカメラで真上から撮るシンプルな方法を用いて浸透していきました。橋梁の点検も早くから取り組まれてきました。

国内に73万強もある橋梁は、海や川に架かっていたり山間部にあったりして、毎回人が点検するのは大変です。ドローンのカメラでスクリーニングできれば、作業負担は軽くなりますよね。同じ理由で風力発電の風車やダム、高層ビルなどの点検もドローンに置き換わると推測されます」

「農業」の分野では、農薬散布をドローンが代替し、2023年度には散布面積が延べ100万ヘクタールを超えた。農業人口の高齢化が進み、農薬散布などの力仕事が難しくなっているという理由に加え、ドローンに置き換えることで人が農薬を吸ってしまうリスクを軽減できるという点も評価され、活用が進んでいるという。

「『土木・建築』の分野も間違いなく活用が進んでいるのですが、建設業者さんによって活用状況を公表されないケースがみられます。そのため、調査の数字は本来の市場の現状よりやや小さくなっているかもしれません。例えば、建設現場の測量、工事進捗の把握、運搬などで活用されているようです」

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今後の予想を見てみると、「点検」「物流」「その他のサービス」が伸びていきそうだが、どのようなサービスが出てくるのだろうか。

「いま進んでいるホットな分野でいくと、『屋内空間の点検』『運搬』『ドローンショー』の3つですね。『屋内空間の点検』は以前から活用が期待されていた分野で、国内メーカーのLiberawareなどが小型ドローンを開発し、検討が進められています。Liberawareのドローン『IBIS』は、これまで内部の撮影ができなかった福島第一原子力発電所1号機原子炉格納容器の調査に活用されたそうです。また、ブルーイノベーションが取り扱う『Elios』も暗く狭い場所、かつ非GPS環境でも安定して飛行できるため注目されています。今後はさまざまなドローンメーカーやサービサーが参入し、商業施設の天井裏や地下ピットなどの狭い空間の点検も、実施しやすくなると考えられます」

ドローンでの「運搬」が期待されているのは、山間部で行われる工事や点検の現場など。

急斜面の山道で数十キログラムの資材を運搬するのは相当な労力がかかったが、ドローンで運ぶことで負担が大きく軽減される。鉄塔やダムなどの工事で活用されているとのこと。

「いい意味で予想を裏切られたのが『ドローンショー』です。テーマパークのショーや花火大会などにドローンが用いられていますよね。地方自治体がイベントでドローンを飛ばしたりしているので、今後ますます盛り上がると思います。特に日本は漫画やキャラクターなどのIP(知的財産)が強いので、ドローンショーとうまく組み合わせると市場は拡大していくとみられます」

「災害対応」「林業」での活用にも期待

『ドローンジャーナル』編集長が見据える「ドローンビジネス」のこれから


2024年10月に開催された「第3回ドローンサミット」では、「これから期待される、社会課題ソリューション」として、「建設」「農業」以外に「災害対応」や「林業」というキーワードも出ていた。この分野での活用も進んでいくのだろうか。

「『災害』の分野は間違いなく進んでいて、2024年1月の能登半島地震はドローンが本格的に活用された最初の現場だったのではないかと思います。孤立した地域に物資を運んだり、倒壊した家屋の内部調査を行ったり、地滑りや土石流の危険がある場所を定点観測したりと、さまざまな場面でドローンが取り入れられましたし、今後もさらなる活用の可能性を秘めていると考えられます」

ただし、「災害対応」の分野においては、その場になって急にドローンを動かせるものではないという。

「平時にも利用していないと、災害時にうまく使いこなすことはできないでしょう。物資の輸配送などで常時ドローンを飛ばすことによって、その地域の環境を把握することができ、緊急時に飛ばすルートなどの判断を行いやすくなります。災害前の状態も動画や写真で保存できるので、被害状況なども把握しやすくなります。平時での活用こそ、『災害対応』の分野の課題といえるでしょう」

「林業」の分野では、苗木の運搬などは以前から行われていたそう。

今後注目されているのは、森林調査での活用。国が進めている「J-クレジット制度(※)」に参入する企業が森林管理を行う際、ドローンが導入される可能性もあるという。

※省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量をクレジットとして国が認証する制度。創出されたクレジットは、経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成やカーボン・オフセットなど、さまざまな用途に活用できる。

「人力で広大な森林を調査し、CO2等の吸収量を算出するのは労力がかかるため、センシングツールとしてドローンが活用されるのではないかといわれています。ドローンが測定し、森林の資源量を解析するという活用法になるでしょう。山間の森林であれば基本的に人がいないので、ドローンを飛ばしやすいという点も相性がいいと考えられます」

「機体」「周辺サービス」市場も活性化の兆し

『ドローンジャーナル』編集長が見据える「ドローンビジネス」のこれから


最後に、ドローン市場全体の今後についても河野さんに聞いた。

「建設現場や山間部での搬送、災害発生時など、人が行きづらい場所や危険を伴う場所での活動において、ドローンの活用は間違いなく増えていくと考えられます。さらに、AIなどの技術も組み合わさるとドローンにできることが増えていくので、市場規模がぐっと大きくなっていく可能性もあります」

その過程で注目すべきは、国内のドローンメーカーとのこと。

「オールマイティな海外メーカーのドローンと比べて、国内メーカーのドローンは特化型が多い印象です。例えば、Liberawareの小型ドローンは人が入れない狭小空間でも問題なく使用できます。サービスも多様化していて、年間数百万円でドローン使い放題のサブスクサービスを展開しているところも出てきています。

国内メーカーはこれから力を増してくるはずなので、要注目です」

ドローン活用が進むことで、周辺サービスも重要になってくる。

「ドローンを飛ばす際は、目的に応じて注意すべき点が変わってきます。例えば、ドローンを利用した点検といっても、対象の構造物はさまざまです。構造物ごとに点検に必要なデータは異なり、その必要なデータをドローンによって取得するための操作技術が必要になってきます。目的に応じた操作を行い、ドローンを活かすための人材の育成が重要になるので、それぞれの業務分野に必要なドローンの飛行技術を提供するドローンスクールなども増えていくでしょう。ドローンを巡って、さまざまな展開が待っていると思います」

ドローン活用の事例を目にする機会が増えたが、まだまだ始まったばかり。物流や点検など、日々の生活に欠かせないツールになっていくことだろう。

(取材・文/有竹亮介 撮影/鈴木真弓)

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