戦記君流・教育投資のキーワードは「インカムゲイン」&「目標」...の画像はこちら >>


子ども1人にかかる教育費は、一般的に1000万円以上といわれている。授業料無償化が進んでいるが、私立校を目指したり習い事に通ったりすれば、その分だけ教育費は必要になってくる。



教育費を備える手段のひとつが「投資」だ。コツコツと貯めるだけでなく運用することで、目標を達成する可能性を上げることができる。

そこで、2020年からブログで自身の長期・積立・分散投資を記録し、実子の教育費を投資で確保している戦記氏(以下、戦記君)に、教育投資の経験とコツについて聞いた。

インデックス投資の有用性の実証を目指した投資

幼い頃、証券会社に勤務した経験のあった父親から「自分で働くな。人を働かせるな。お金を働かせろ」と言われたという戦記君。小学生の時点で、資産運用の重要性に気付いていたそう。

「私が小学生だった1985年(昭和60年)当時はまだ投資ができなかったので、貯蓄での運用でしたが、昭和の終わりは金利が高く、定期預金で年5%くらいあったんですよ。だから、お年玉を貯金すると通帳の数字がどんどん増えていって、面白かったんですよね。金利に金利が付く複利効果の力に驚きました。無駄遣いをせずに貯める子どもだったので、小学校卒業時点で20万円ぐらいになっていた記憶があります」(戦記君・以下同)

普通預金よりも定期預金のほうが金利が高いことや複利効果も知った戦記君はその後も貯金を継続し、大学時代には家庭教師のアルバイト代も貯めて200万円まで増やしたという。そのお金を使って半年間イギリスに留学し、TOEICのスコアを劇的に上げて、2000年に総合商社に就職。その後、社会人になってから証券口座をつくり、投資を開始したそう。



「教育投資も前々から考えていたことですが、教育費を目的として投資を開始したのは2020年です。2016年に開始したブログをアメブロから独立し、個人のドメインに変更したタイミングですね。当時考えたのは『分配金で教育費を賄う』という手法で、1億円を元手にS&P500に連動するETFを用いた長期・積立・分散投資を実行しました」

戦記君が、アメリカを代表する企業約500社の時価総額をもとに算出される指数「S&P500」に限定した投資を行っているのには、いくつかの理由がある。

「チャールズ・エリスの著書『敗者のゲーム』で記されているインデックス投資(株価指数の値動きに連動した運用を目指す投資)の有用性を実証したい、という思いがありました。2020年時点で調べてみたところ、日本人で1億円以上の金額でS&P500での積立投資を行い、結果を公表している人がいなかったため、自分で教科書通りにやってみようと考えたんです。S&P500の分配金利回りは大体年1.5%前後だったので、1億円投資すれば1年で150万円の分配金が入ってくるという計算もありました」

さらに、2020年当時はアメリカの経済も順調で、金融教育的にもアメリカは日本より優位に立っているというトレンドがあったことも影響したという。

「いち日本人としてそのトレンドが悔しかったこともあり、アメリカ人が働いた結果の余剰資産として配られる分配金を受け取り、日本の子どもに投資するというお金の使い道を考えました。金融投資のリターンで人材投資を行うイメージです」

安定性の高い「インカムゲイン」を重視する

戦記君は教育投資を行うにあたって、目標金額を設定。中高6年間の学費+塾代で約1000万円、私立大学理系4年間の学費で約600万円、合計1600万円を目標に2020年8月から「S&P500」に連動するETFでの投資を開始。

約3年後の2023年6月に、1600万円の利益確定を完了した。さらに運用を継続し、2023年12月には私立大学医学部に進んだ場合に追加で必要になる1700万円(合計2300万円)も確保。2024年5月には、私立大学医学部の最高学費を賄える金額である合計5550万円を確保した。

戦記君が教育投資で重視したのは「分配金」。

投資というと、資産を売却することで得られる利益「キャピタルゲイン」を意識するものだが、戦記君は資産を保有している間に得られる利益「インカムゲイン」に重きを置いたのだ。

「S&P500に連動するETFの分配金利回りは大体年1.5%前後です。つまり、そのETFを保有しているだけで、1.5%の分配金が手に入るということです。分配金を受け取るためにETFを保有していると考えると、目の前の株価の高騰や暴落が気にならなくなります。また、キャピタルゲインより安定しやすいので、目標達成の道を描きやすいんです」

インカムゲインで教育費を準備する際、ポイントとなるのが「ETFを活用すること」だという。

「投資信託によっては分配金が出るものもありますが、多くの商品で分配金が自動的に再投資されてしまうので、実感を得にくいんですよね。その点、ETFの分配金は再投資されずに支払われるので、目標に向けて備えやすいといえます。ただし、S&P500などで米国株に投資する場合は、日本とアメリカで二重に課税されてしまうため、確定申告を行って還付を受けなければインカムゲインの恩恵が減ることには注意が必要です」

インカムゲインを狙うのであれば、国債や社債などの債券も選択肢に入りそうだが、戦記君は「投資初心者にはおすすめしない」と話す。

「国債は満期保有が前提となっていて、長期間換金ができないので、初心者には向かない資産だといえます。特定の会社の債券である社債は、個別株投資と同等のリスクがあると考えられ、企業分析や勉強が必要です。そう考えると、分散投資ができて、満期がないので永久に保有可能で、四半期に1回分配金が入ってくるETFのほうが運用しやすいのではないでしょうか」

結果的に戦記君の教育投資は「想定以上にうまくいった」とのこと。現在も運用を継続しているが、トランプショックが起きても慌てることはなかったそう。



「トランプショックの影響で、1カ月で利益が約4000万円減ったときがありましたが、それまでに積み上げてきたものがあるので、損はしていないんです。むしろ、株価が下がったタイミングは追加投資してインカムゲインを増やすチャンスと捉えているので、働いて稼いだ分を投資に回せばいいと考えています。暴落したとしても市場に残り、追加投資を考えることが目標達成のポイントだと思います」

まず行うべきは「明確な目標」を立てること

投資のコツを聞くと、「目標を定めること」という答えが返ってきた。

「『いつまでにいくら準備する』という明確な目標がないと、ひたすらお金を稼ぐという無意味な行為になりますし、目の前の暴落でうろたえてしまいやすいんです。そういう意味で、教育投資は目標に設定しやすいので、投資を始めるきっかけにもなると思います」

なぜ目標を明確にできるかというと、教育にかかる費用は読みやすいからだという。

「例えば、家を買う場合、エリアや間取り、購入するタイミングなどによって価格は大きく変わりますよね。車なども同様のことがいえます。一方、教育費は私立中高一貫校の学費が年間60万円、塾代が年間60万円など、大体の相場が決まっていて、想定を大きく上回ることは考えにくいんです」

子どもの希望も踏まえて進路を考えていくと、自ずと必要な教育費が見えてくる。そして、親の収入だけでは足りない部分を投資で補っていく、という考え方ができるのだ。

「漠然とお金を増やそうと考えるのではなく、何にいくら使うかを明確にしたうえで、必要な金額を備える投資を行うことが大切です。そうすることで目標に向けて継続しやすくなるだけでなく、堅実な投資を行うようになるので、値動きに一喜一憂しにくくなります。さらに、教育投資は家庭内での金融教育につながるという効果もあります。

運用結果を親子で議論できますから。まずは、将来の教育費を明確にするところから始めてみましょう」

投資の基本を学ぶきっかけになるであろう「教育投資」。後編では、教育投資が金融教育につながる理由や、教育を実践するヒケツを戦記君に伺う。

(取材・文/有竹亮介)

編集部おすすめ