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海外旅行のバイブルとして、多くの人に愛されている『地球の歩き方』。ひとつの国やエリアに焦点を当て、観光地に加えてその国の文化や料理、お土産などに関する情報を網羅しているガイドブックだが、近年は国内版や歴史にフォーカスを当てたシリーズなども刊行している。



そのなかで、いま話題を集めているのが『地球の歩き方 オルカン』。「オルカン」という愛称で親しまれている投資信託「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」をテーマに展開するガイドブックだ。

“旅×投資信託”という異色のコラボは、どのようなきっかけでスタートしたのだろうか。当時、統括編集長を務めていた地球の歩き方取締役の宮田崇さんに聞いた。

「オルカン」の生みの親がひらめいた異色コラボ

重版決定の話題の本『地球の歩き方 オルカン』誕生秘話


「『地球の歩き方 オルカン』の第一歩となった日は、いまでも覚えています。2024年6月6日、当社ホームページのお問い合わせ窓口から、『オルカンをつくった代田と申します』というメールをいただいたんです。投資経験が豊富な総務部長がいち早く『すごい人からメールが来てるよ』と騒ぎ始めて、私たちも確認したんですが、オルカンの生みの親である三菱UFJアセットマネジメント特別業務顧問の代田秀雄さんからの連絡だったんです」(宮田さん・以下同)

問い合わせ窓口からの連絡だったため、最初は「本人なのか?」と疑う気持ちもあったそうだが、三菱UFJアセットマネジメントに確認をすると代田氏本人だということがわかった。

そもそも、なぜ代田氏は『地球の歩き方』に連絡をしたのだろうか。

「最初のメールにも書かれていたのですが、『世界中の銘柄を扱っているオルカンと世界中の国々のガイドブックを出している地球の歩き方は、親和性が高いのではないか』というひらめきから、一緒に本を出したいと思ってくださったと聞きました。投資と旅って一見関連性がなさそうですよね。でも、刊行当初の46年前から現在までの『地球の歩き方』を見ていくと自由の女神の入場料の推移がわかり、自ずと物価が上がり続けていることが見えてきます。蓄積された旅の情報から、『今日の100円は、数年後には100円の価値がなくなる可能性がある』というインフレの理論などを理解できるのではないかという発想でつながったのです」

重版決定の話題の本『地球の歩き方 オルカン』誕生秘話


さらに、「海外旅行に行けるだけの財力がある人は、お金の使い方や資産運用にも関心が高いのではないか」という代田氏の直感もあったという。

宮田さん自身も20年以上の投資経験があり、「オルカン」についてもっと知りたいという気持ちから、総務部長とともに代田氏に会いに行ったそう。



「代田さんの直感に加え、かつて『地球の歩き方』の営業を担当していた総務部長も『面白いものができるかもしれない』って乗り気だったんです。この2人がピンときているということは、いままでとは違う何かができるんじゃないかということで、制作に踏み切ることになりました」

“「オルカン」を知って投資するまで”を網羅するガイドブック

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制作がスタートしたものの、経済・投資という普段とは異なる切り口で国やエリアを紹介していくため、掲載する情報の選別は難航したそう。その過程で、大切にしたことがあるとのこと。

「『地球の歩き方』は、“旅人が日本の空港を飛び立つところから、無事に日本の空港に降り立つまで”をまとめたガイドブックです。英語がしゃべれなかったり聞き取れなかったりする人でもこの本を持っていれば、現地の見どころや宿泊施設、お土産まで把握できる1冊でありたいと思っています。その前提は変えずに、『オルカン』そのものを知って投資するまでのすべてを網羅するガイドブックを目指しました」

巻頭では「オルカン解体新書」と題し、「オルカン」の特徴や歴史、運用に携わっているスタッフの座談会などが掲載されている。その後の1章では指数に関する知識がまとめられ、「オルカン」での投資の基礎を固めることができる。

2章では、エリアごとに各国の産業や経済の中心となっている都市に関する情報を掲載。「オルカン」が連動を目指す指数「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)」に組み入れられている47カ国が紹介されており、北米・南米エリアから始まっているが、まずはアジア・オセアニアエリアの「日本」から見ていくとわかりやすいという。

「日本で盛んな産業など、なんとなく実感している方は多いと思うので、書かれている内容を理解しやすいと思います。実際に『オルカン』に組み入れられている銘柄の一部も紹介していて、日本だとトヨタ自動車やソニーグループ、日立製作所など、一度は聞いたことのある企業ばかりでしょう。各国の銘柄も、それらの企業と同等の力のある企業だということがわかります。例えば、イタリアを見てみると、フェラーリなどの有名企業に加えてイタリア炭化水素公社という石油・ガス会社が組み入れられていて、意外な産業が盛んだということが見えてきます」

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一部の国・エリアでは産業や組み入れ銘柄だけでなく、「オルカンゆかりの街を訪ねる」というコーナーで世界を代表する経済都市を紹介している。



「インドでは“インド第二のシリコンバレー”と呼ばれるハイデラバードを紹介しています。一般的な観光ガイドブックにはあまり掲載されない街といえますが、旅が好きな人にも楽しんでいただけるよう、注目の施設や観光情報も紹介しています。『人が集まる都市だから、面白い施設がありそうだな』『お金持ちも多いだろうから、高級レストランもあるかも』といったように、旅先の候補として考えてもらえたらうれしいですね」

最後の5章では、証券口座の開設方法や「オルカン」で積立投資をするための設定方法など、具体的な手法が詳しく解説されている。「オルカン」を知ったうえで、実際に投資を始める入り口の部分だ。

「大前提にあるのは“ユーザーファースト”です。三菱UFJアセットマネジメントとのコラボで生まれた本なので、紹介する証券口座も三菱UFJ系列の証券会社となるのが普通かもしれませんが、本を読んですぐに投資したいと思った場合に本当にラクな選択肢は何か考え、ネット証券の楽天証券を例に出しました。口座開設や設定の方法を具体的に載せているので、参考にしていただけたらと思います」

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旅と経済・投資を絡めた情報はまだまだ掲載されている。注目したいのは、各章の間に載っている「旅とお金コラム」。

「旅先で1日過ごすのに必要なお金の話や海外の医療費に関する話など、物価や為替の学びにもなるようなコラムを掲載しています。『地球の歩き方』がこれまで培ってきたものを活かせた部分です。個人的に気に入っているのは、各国の物価の指標といわれる『ビッグマック指数』に関するコラム。私たちにとってマクドナルドはリーズナブルな印象ですが、国によっては高級店として扱われることもあるため、実は当てにならないものと紹介しています。

ハードルの高い経済の話も、旅に絡めることで身近に感じてもらえるのではないでしょうか」

もうひとつ、宮田さんおすすめのコーナーがあるという。各ページの左下に記載されている三菱UFJアセットマネジメント社員の声だ。

「我々が“旅好きの方々に寄り添う仕事をしている人”であるように、三菱UFJアセットマネジメントの皆さんは“投資をする方々に寄り添う仕事をしている人”だと感じたので、そんな皆さんが実践している投資について聞いてみたいと思ったんです。日々の生活や小さな目標のために投資をしている様子に、共感していただけるのではないでしょうか」

編集部の想定を大幅に超えるスピードで話題に

重版決定の話題の本『地球の歩き方 オルカン』誕生秘話


2025年8月28日に発売してから2週間足らずで、早くも重版が決まった『地球の歩き方 オルカン』。

「実は、我々編集部としてはまずは様子見かなという雰囲気だったんです。しかし、書店からの事前注文が想定よりも多く、いつもは初版の部数に厳しい販売部も『今回は書店の注文に応えましょう』とノリノリだったんです。データをもとに部数を決めている販売部がそう言うなら問題ないんだろうと、想定の3倍で初版を刷ったのですが、すぐに重版が決まり、とても驚いています」

販売部の判断も、お金や投資に関する書籍のニーズが高まっていることを踏まえたうえでのものだったのだろう。

「『地球の歩き方 オルカン』の感想をSNSにアップしてくださっている方がたくさんいるのですが、皆さんのコメントが温かくて、愛される本になっているんだと実感しますね。いまは『オルカン』のファンの方や『オルカン』に投資している方が読んでくださっている印象ですが、皆さんが発信してくださることで、これから投資を始める方やまだ『オルカン』に詳しくない方にも届いていくのではないかと思っています」

近年、改めて紙のガイドブックのよさも見直されているため、この本も投資初心者にとってのバイブルとなるかもしれない。

「当社でアルバイトをしていた大学生の子が『地球の歩き方』を読んだときに、『これって良質な検索結果の集合体ですよね。これを見てからSNSで調べます』って話していたんです。よくよく聞いてみると、同じように使っている子が一人二人ではないことがわかって、ネット上に情報があふれているいまこそ、一次情報としての価値があると再確認できたんです。

『地球の歩き方 オルカン』も初心者が知りたい情報が詰まっているので、ぜひ入り口にしていただけたらうれしいです」

『地球の歩き方 オルカン』は、「オルカン」はもちろん、投資や経済についてより深く知りたいと感じている人にとって必読の一冊といえそうだ。

重版決定の話題の本『地球の歩き方 オルカン』誕生秘話


(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)

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