「家計の正解」を追い求める夫婦は失敗しやすい…?の画像はこちら >>


家計を見直したり将来必要なお金を備えたりする際、ほとんどの人は効率的な運用方法やお得にお金を使う方法を探すだろう。

「実は、『家計の正解』を追い求めると、うまくいかないケースがあります。

家族の将来のために家計を見直すのであれば、『家族の納得感』を優先することのほうが大切だと考えられます」

そう話すのは、『一度始めたらどんどん貯まる 夫婦貯金 年150万円の法則』(青春出版社)の著者で1級ファイナンシャル・プランニング技能士の磯山裕樹さん。優先すべき「家族の納得感」とは、どのようなことを指すのだろうか。

「家計の正解」よりも「家族の納得感」を重視

「『家計の正解』は世のなかにたくさんあります。例えば、『長期・積立・分散投資』『保険は掛け捨て、運用はNISAやiDeCoなどの証券口座』といったことが挙げられますが、これらはお金を最大限貯めるための正解で、『こうしたほうが得だよ』というものです。資産運用の観点からすると正解だといえますが、果たしてその方法が家族に幸せをもたらしてくれるのかと考えると、必ずしもそうとはいえないでしょう」(磯山さん・以下同)

住宅ローンを例に挙げて考えてみよう。理論的には、低金利で住宅ローンを契約し、手元に残った現金を運用して利益を得るという方法が正解といえるだろう。

「『家計の正解』で考えると、返済期間を最長に設定して返していくのが得だといえます。ただし、人によっては借金を抱えていることに不安や負担を感じることもあるでしょう。なるべく早く完済したいと考えるのであれば、頭金を多く入れたり繰り上げ返済をしたりしたほうがいいといえます」

「家計の正解」が、すべての人にとって正解となるわけではないということだ。

「いつ、どこで、何にお金を使うのかを考えるうえで、重要になるのが『家族の納得感』です。理論的な正解ではなく、家族が納得したうえでお金を使えるように、それぞれがしたいことや目標を共有する必要があります。家族と話し合わずに『家計の正解』に飛び付き、結果的に失敗したり想定と違う方向に進んだりすると後悔してしまいますが、家族と話し合って決めた行動であれば、多少失敗しても『自分たちで決めたことだもんね』と納得できますし、失敗しない努力を家族全員でできるようになるはずです」

「家族の納得感」を追求していくことで、最終的に「家計の幸適化(さいてきか)」に結び付くという。

「『家計の幸適化』とは、家族の幸せにお金を集中することです。

我慢して節約するのではなく、家族が本当にしたいことにお金を回すことで、結果的にお金が貯まります。子どもの教育にお金を集中させれば、子どもが特待生になって授業料減免になるかもしれません。僕は毎日なんとなく買っていた500円程度のコーヒーをやめて水筒を持つようにしたら、年1回家族旅行に行けるようになりました」

家族の幸せにつながるお金の使い方が見えてくると、自然とそこに集中させるようになり、いままでなんとなくしていた無駄遣いが少なくなっていくのだ。

「家族=大切な人」が笑顔になれるお金の使い方

磯山家が行きついた「家計の幸適化」はどこにあるのか聞いてみると、「『家族=大切な人』と定義し、大切な人たちにお金を集中させること」という回答が返ってきた。

「妻や子どもたち、両親などの血のつながった家族にお金を使うことはもちろんですが、もっと大きな意味でのつながりを大切にすることが我が家の幸せだと感じたんです。だから、子どもが保育園に通っている頃に、家族ぐるみでお付き合いできる一生涯の友人を意識的につくりました。保育園の送り迎えで仲よくなったママやパパとは、子どもが別々の小学校に上がったいまでも関係が続いていて、その人たちと一緒にお金を使っています」

それぞれの家に集まってごはんを食べたり、ゲーム大会をしたり、お泊まりしたり。家族が楽しむ時間であり、友人関係が深まる場でもある。

「1万円くらいでパーティーができて、家族みんなが楽しめるってすごいなって思います。子どもたちもテーマパークに行くよりも楽しそうだし、我が家にとっての幸せってこれなのかなって」

地域の友人も巻き込むという形に至るまでには、妻や子どもたちとだけ楽しむ時期もあったそう。

「子どもだけにお金を使ったり、家族で旅行に行ったりしていたこともあったんですが、飽きてきちゃったんですよね。家族でいい旅館に泊まるのも、それはそれで楽しいんだけど、何か足りないなと思ったんです。もともと社交的な妻が家に友人を呼んでいる姿を見たときに、自分も心から『この人のために何かしたい』と思える友人をつくれば、もっと楽しいんじゃないかって思ったんです。

以前の僕は尖ってて、気心の知れた友人がいなかったので(苦笑)」

実際に友人をつくって家族ぐるみで遊んでみると想像していた以上に楽しく、家族も喜んでくれたため、これが磯山家の幸せの形になったのだ。

「最近は家族で旅行するときも、人に会うことを目的にして行き先を考えたりしています。『この人に会いたいから、東京に行こう』とか『大学時代の友人と一杯飲むために、ここに行こう』って考えるのが楽しいし、家族でいろんなところに行くきっかけにもなるのかなと感じています」

気になったものを試すことで「家族の幸せ」が見つかる

家族にとっての幸せや本当にやりたいことを見つけるには、いろいろなことを試してみる期間も必要とのこと。磯山家では、炊事をラクにするサービスを試したことがあるそう。

「料理の負担を少しでも軽減できるならと、家事代行を頼んだりミールキットを使ってみたりしたんですが、どれも我が家には合わなかったんです。家事代行をお願いするにしても家には誰かしらいなければいけないし、好みの味付けにならないこともあって、それまでと違った負担やストレスが出てきてしまったんですよね」

磯山家には合わない方法だったが、家庭によっては「家事代行で料理をつくってもらっている間に、別の家事ができてラク」「このミールキットの味付けは、子どもたちの好みにぴったり」と感じる場合もあるだろう。口コミや評判、損得だけで選ぶのではなく、実際に試してみることが大事。

「教育でもレジャーでも、まずは小さく試してみて、家族に合わないと思ったらやめるという繰り返しでいいと思います。いろいろな情報を見つけて、少しずつ試してみるという積み重ねの先に、家族が本当にやりたいことがあるはずです。何事も1回始めたらずっと続けなければいけないわけではないので、気になったものからチャレンジしてみましょう」

家族の幸せを見つけることができれば、そこにお金を集中することで余分な出費が自然になくなり、家族の笑顔を増やすことにもつながる。「お得なお金の使い方」を探すのではなく、まずは家族と向き合ってみよう。

(取材・文/有竹亮介)

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