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力強い攻めを基調とする張豊猷八段に対し、実利派でシノギを得意とする志田達哉七段。「今日の対局者は対照的ですよね」と記録の本木克弥七段が言う。棋風だけではない。比べれば比べるほど対照的だ。
張はどんな棋士かと聞くと、ほとんどの棋士仲間が「熱い人」と答えるほど、明るい雰囲気で情熱的に話す。
もの静かな志田は、インターネット上で「志田七段の声を聞いたことがない」と、ファンの間でも話題に上るほど口数が少ない。
ボクシングなどで身体を鍛えるなど、囲碁以外にも積極的な張。志田に趣味を聞くと、頭を抱えて悩まれてしまった。ただ、囲碁以外に目が向かず趣味もないというのは、志田に限ったことではなく、最近の若手によくある傾向だ。
対局が始まっても対照的だった。石をそっと置く志田と、気合い十分に石音高く打ちつける張。解説の秋山次郎九段が「張八段が攻め、志田七段がシノぐ展開」と予想したとおりのスタートとなった。
■1譜 攻める作戦
志田達哉七段は2回戦で余正麒七段との碁を大逆転でものにした。また張豊猷八段は、高尾紳路九段の大石を召し捕る力強さを見せつけ、3回戦に進んできた。
黒番の志田は、黒1、5、7のミニ中国流の布石だ。
白8のカカリに黒が9と一間にハサむと、早速、張は考慮時間を使う。白10のハサミ返しは、張がしばしば試みているという。「張さんは最近、序盤でよく工夫しています」と秋山次郎九段。
白16の小ゲイマジマリに、志田は黒17とスソからカカる。白は19とツケたり29とサガって隅を守るのもあるが、白18とコスミツケて白20と左辺を止める作戦だ。白26の犠打により、白28とオサえて封鎖し、白30までで一段落した。
ここで黒が31と消す。「見慣れない手で面白い発想ですね」と秋山九段。
白36では「1図の白1、3と出切っていこうかと思った」と張。しかし黒12までとして黒を生かすより、全体を攻める方策を取った。
白38のコスミツケに、黒は39とノビて頑張った。
黒39では、手を抜いて下辺の大場に向かうか、「左上の白が堅いので、2図の黒1、3を決めて5と構えるのもあったと思います」と秋山九段。
※投了までの記譜と観戦記はテキストに掲載しています。
■『NHK囲碁講座』2016年3月号より