1974年、総理就任から約2年を迎えた田中角栄氏が、新潟県人大会で語った「五つの大切なこと」と「十の反省」。戦後日本のあり方を見つめ、人間の条件を問う言葉である。


作家・山岡荘八氏を迎え、約50分にわたり率直かつ真剣な議論が交わされた本対談。約50年の時を経て、田中氏が当時語っていたことをシリーズで振り返る。今回は、首脳外交や五切十省について語った言葉を振り返る。(全6回/5回目)

■「ブラジルへ移民するか…」

【田中角栄 #5】元首相が語った“首脳外交”と“五切十省”「肝心なことは14、15歳で教えるべき」 約50年の時を経て振り返る田中角栄×山岡荘八
田中角栄氏と山岡荘八氏

山岡荘八:
「我々、その県民の方の側から見ると、やっぱあなたは新しい時代を作る太閤様(豊臣秀吉)なんですよ。だから、そういうつもりで一つ体に気をつけて下さい。」

田中角栄:
「今度そのブラジル行く時にね、私は子どもの時に、高等小学校の頃でしたかな。「ブラジルへ移民するか」と言うんで、母親を困らせた時があるんですよ。ところがそれから40~50年経って、これからブラジル行けるって言うんで、非常に胸を膨らませるところもあるんですよ」

山岡荘八:
「私も実は満州事変の起こった年に満州の奥へ入ろうと思いまして、行きそこなったんですよ。酒が好きなもんですから、上海の紡績会社の社員として入っていくつもりだったんですよ。大阪で荷物(ゴム靴や仁丹)を先に送って、3人で行くはずの汽車賃で酒を飲んじゃったんです。1人だけやって送って、残りの2人は友達の商業学校の先生をしていた土佐へ行って金を借りようと思ってたから、それで命助かったもんなんですよ。あの頃、日本にいたしょうがないって気がしていましたから」

【田中角栄 #5】元首相が語った“首脳外交”と“五切十省”「肝心なことは14、15歳で教えるべき」 約50年の時を経て振り返る田中角栄×山岡荘八
驚く田中角栄氏

田中氏は、ブラジルに行った新潟県人の話をする。その人が首相官邸に来た際に、田中角栄氏はこう話した。

「僕は本当はアマゾン行くつもりだったんだと。

アマゾンは母親が遠すぎるからと言って泣くもんだから、じゃ北海道にしようかということだったんだけどね。北海道も行かないうちに東京で途中下車してしまったんだっていう話をしましたら、本当に笑ってましたが、知った人がいっぱいブラジルへ行ってますよ」

12~13年前からカナダへ3~4回、日加経済閣僚で行った田中氏。太平洋戦争の時、バンクーバーから東海岸に強制移住させられた日本人たちが、その後「ちゃんとたくましい生活拠点を築いてました」と語る。

田中角栄:
「現地人とかから評価が非常に高いですよね。ブラジルに行く時にね、ブラジルの大学とかそういうところで日系の学生が非常に優秀だと。ハワイに行く時にも、ハワイの大学の優秀なのはみんな日系でしょ?それも何回も言われてきましたよ。しかし、今度行く時にはね、日本人としての優秀性というよりも、ブラジル人としての日系に対してお互いに協力してやろうと。もう向こうはもう大臣にもなってるし、大学の総長にもなってるし、大変なんですからね」

山岡荘八:
「スケールを切り替えなきゃダメですね。日本人即世界人でなきゃ。世界人でね。」

田中角栄:
「日本人即世界人、いつでも日本に働いたら儲けたら日本にしょって帰ってくるようじゃダメなんだね。だから、アマゾンへ行く人なんかは、まず墓地を先買おうと。それで共同の墓石をまず立てようと。
やっぱりスペイン人でもポルトガル人でも、イギリス人でもみんなそうなんですな。向こうへ行くとまず一番初めに教会を作るんだそうですな。有り金出して全部教会を作る。それでもう再び帰らないということだから、現地人との間に非常にうまくいくんだな。この頃の日本人っていうのは世界どこでも非常に評価されてますし、トラブルは急速になくなりましたね。反省してきてるわけですね。もう政府もこれからそういう荒っぽいことはさせませんから。儲けるだけ儲けてこうなんていうこと絶対させないと。非常に将来的な長い視野に立ってね」

■「五切十省」は日本酒のように発酵する

【田中角栄 #5】元首相が語った“首脳外交”と“五切十省”「肝心なことは14、15歳で教えるべき」 約50年の時を経て振り返る田中角栄×山岡荘八
はにかむ田中角栄氏

山岡荘八:
「やっぱりね、この五つの大切等の反省が人間の中へ染み込んで、染み込んだ日本人が増えていくか増えていかないかの問題ですよ。」

田中角栄:
「だから、いろんなことを教わるし教えなければならんが、本当はね、肝心なことは肝心なことはね、14、15歳で教わるべきでしょうな。」

山岡荘八:
「日本が忘れなきゃですね、世界共通の道徳の基準ってのはそこに置かなきゃならないんだっていうことが、もう忘れさえしなきゃですね、私は当然ーーみんなの中で発酵してくる。やっぱ日本酒みたいなもんだと思うんですよ。自然に発酵してくる。それで、もう自然に発酵してきてもいいだけの果実も得られるようになってるわけですからね。

貧乏でしょうがない時には人を騙して食ってこなきゃならないかも分からないけど、今もそうでなくてもできるようになっているんだから、そいつのやりやすいような世の中と、実は豊かなんだからそんなにアコギなことはしなくてもいいんだよっていうことと、それからこの間みたいな無責任な問題を起こさないーーああいう問題を起こさないようなですね。それをやっていただければもう十分だと思うんですね」

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