ポルノ大国、日本。毎年数多くのAV、特に異性愛者の男性向けのAVが国内で制作され、海外にも出回っている。
「私は今が絶好調で幸せなのに」
高校卒業後に1年間の貯金生活を経て19歳のときに上京した水川は、突然セクシー女優としての活動を始めることとなった。AV女優というと偏見の対象となることもあるが、もともと性への関心が高いタイプだったと語る彼女は、それほどの葛藤や戸惑いもなく活動を始めたという。彼女は自身の仕事についてを両親や兄弟、そして地元の友人にもオープンに話している。 「セクシー女優の人は、結構隠すじゃないですか。でも私はそれを言ったことによって人生損したことはないんですよ。

自分の仕事には自信を持っていると語る彼女だが、Instagramを覗いてみると、あるハイライトが目に入った。「Sex 教え」とタイトルがつけられたそれには、「男はAVの真似したら絶対だめ」と書かれていた。自身も出演するAVについて、このような投稿をするのはなぜなのだろうか。
AVと現実のセックスの乖離への違和感
セクシー女優としての活動を始める前から性経験は豊富だった水川だが、実はAVを見たことがなかった。「朝8時くらいから夜の11時くらいまで、工事現場みたいな感じ」だという長丁場の厳しい現場に加え、AVの内容自体も彼女のイメージとは違ったようだ。当初は「AVを見たことなくて、だからこそ逆になんの抵抗もなく飛び込んだ」という水川は、次第にAVと現実のセックスの乖離への違和感を持つようになる。 「男性はAVしか見ないで、それが良かれと思って勘違いであのアグレッシブな感じになっちゃうじゃないですか。

水川は、自身の感じた違和感を元にSNSでの発信を続けていた。性教育が足りないと言われる日本においては、AVは男性にとって唯一のセックスの教材と言っても過言ではないだろう。そんななかでAVに出演しながらもAVの問題点を指摘する彼女に、フォロワーの男性たちからも驚きの声が上がった。これまで気付くことのなかった問題を指摘された男性たちの反応はポジティブであった。 「みんなやっぱり勘違いしているだけで、AVによって女の理想と男の理想に誤差が生まれている。投稿に対しては『勉強になります』みたいな感じが多いですね。『だったら男性は何を見ればいいですか』とか、『どこから問題?』とか勉強熱心なんです」

このような経験を踏まえて、水川は2020年8月から性教育のためのPodCast番組・Mi So Hornyの配信を始めた。
セックスではしちゃいけないことを知る方が大事
Mi So Hornyでは、ゲストを招いての対談や水川による質問解答コーナーなどが設けられている。どの回でもオープンに性に関するトピックが語られ、すぐに反響を呼んだ。全部で85万もの番組があるといわれるPodCastにおいてTOP100ランキング入りも果たしている。 SNSフォロワーの96%が男性だという水川だが、このPodCastでは女性の視聴者が約3割を占める。
「フェミニズムの回はすごくよく聞かれました。モデルでフェミニストのulalaさんを招いたのですが、私も勉強になりました。ulalaさんはアメリカでの経験をもとに、日本のDVDは、“幼い系”が売れることにカルチャーショックを受けたというか、カルチャーの違いがあるって話をしてくれました」 水川と同じ業界で働く女性たちを招いた放送もあり、かなりオープンに「エロ」や「性」についてのトークが展開される。視聴者からは、普段は人と話すことのできないようなセックスのテクニックやコツに関する質問が送られてくる。しかし、何をするべきかよりも「しちゃいけないこと」を話す方が大切なのではないかと水川は言う。 「セックス中に何を喜んでもらえるかっていうのをみんな聞きたがるんですけど、しちゃいけないことを知る方が大事」

No means No 、セックスを楽しむ前に、お互いが何をされたら嫌なのかについて話し合うことは重要なポイントだ。水川の明るい「エロ」トークのなかには性的同意や避妊に関するトピックもさりげなく織り交ぜられている。「私はピルを飲んでいるんですけど」と何気なく話しだす水川だが、まだまだ避妊といったらコンドームのイメージが強い日本においては、新たな視点となることだろう。 徐々に増えてきた性教育に関する会話はフェミニズムなどの文脈で語られることが多く、現状は女性のフォロワーが多数のコンテンツが多いように見える。

「相性は合わせていくものですよ」
彼女のPodCastがここまで急速に人気が出たのはなぜだろうか。それは、「性」に関する話題は多くの人が知りたい情報でありながらも、オープンに語られることが少なかったからだろう。 「日本は本当にセックスについて話さないですね、みんな。もっとフランクになって、みんな語り合おうよって思うんですけど。変なんですよね、AV大国なのにセックスエジュケーションの部分が欠けていて、知識がない」 セックスやパートナーシップについての質問を多く寄せられる水川は、学校教育の場だけではなく、それぞれのカップル間や家族間でもよりオープンに性について語られる必要性があると話す。彼女自身もパートナーとのセックスにおいてすれ違いが起こることもあったが、話すことで解消できたという。 「相性合わないってよく言うけど、相性は合わせていくもんですよ。相性が本当に合う人ってそもそもほとんどいないぞって思うんです。何百人何千人とやってきたけど、初めから相性が合ったのはたった1人だった。

また、彼女は自身の仕事であるAVが男性に誤解を与えやすく、女性を傷つける原因にもなることを繰り返し指摘する。近年、女性向けとしてロマンチックなストーリー重視のAVが発売されているが、男性向けAVにもこのようなカテゴリーがあってもいいのではないかと語る。 AVだけをもとにした男女間のセックスでは、すれ違いが起こりやすい。だからこそ、水川のいうようなオープンな対話が必要だ。とはいえ、現状の日本ではオープンに性について話すことが難しいと感じる人も少なくないだろう。そんなときの手がかりとして、もしくはパートナーとの会話のきっかけづくりとしてMi So Hornyを聞いてみるのはいかがだろうか。

1995年生まれ、大阪出身。2016年よりセクシー女優として活動を開始。2020年8月より性について話すPodCast「Mi So Horny」の配信を開始。▷水川スミレ Instagram / Twitter ▷Mi So Horny Apple Podcast / Spotify / Instagram / Linktree