
中国にある新疆(しんきょう)ウイグル自治区の出身。どんな場所で、どんな人たちが暮らしているのか、ぱっとイメージが湧く人は今の日本にどのくらいいるだろうか。今回取材したPAKは、新疆ウイグル自治区から日本にやってきて2年弱になろうとしている。何度も旅行に来た日本を気に入り、留学生として日本で暮らすことになった。 PAKは「自分は“アジア人”だけど、見た目が“アジア人”ぽくない」と語る。

行先は自分で決めてきた
ーまず、あなた自身について教えてください。PAKです。歳は21歳で、出身は中国の新疆ウイグル自治区です。日本に来たのは2020年の11月くらいです。幼い頃からアニメが大好きで、『NARUTO』や『クレヨンしんちゃん』はよく観ていました。特に『NARUTO』は腕にタトゥーを入れるくらい大好きです。何回も日本に旅行に来たことがあって、名古屋、大阪、奈良、京都、東京といろいろな場所に遊びに行きました。最初はアニメの影響だったと思うのですが、だんだん日本に留学したくなりました。

差別を受けたと思ったことはないけれど…。
ー日本に留学する前後でイメージにギャップがあったことや驚いたことはありますか。日本人の友達が家に来て「お邪魔します」とか「ここに座ってもいい?」とかって丁寧に聞いてくれるのですが、地元ではこんな習慣はないので、勉強になりました。「お邪魔します」くらいは言うこともあるけれど、私の国では友達の家でも自分の家のようにすぐ横になる人も多いので、違いを感じましたね。あとは、旅行に来ていたときは街がきれいで食べ物もおいしいという、自分の中の日本のイメージそのものだったのですが、日本で生活するようになると違うものも見えてきました。東京にいると時々、電車で酔っぱらいの人が床で寝ているのですが、それを見ても誰も関わらない様子などはギャップでした。それはかわいそうだなとは思いますが、日本は良くも悪くも「自分のことは自分のことだから、他の人と私は関係ない」、そんな意識が強いように感じました。ー今回の特集では「日本における“アジア人”差別」について色んな方の経験談をお聞きしているのですが、PAKさんは日本で人種的ルーツを理由に差別を受けた経験はありますか。私自身は差別を受けた経験はないと思っています。私に直接差別的な意見を言ってきたり、喧嘩を売ってきたりする人はいません。見た目で「強そう」とか「怖そう」と思われるみたいで、それも理由の一つかもしれないです。

ーPAKさんご自身は個人的な差別は受けたことがないとのことですが、日本の社会のなかで人種的な差別があるなと感じる瞬間はありますか。部屋を借りるときに「外国人はだめ」という話をよく聞きます。私自身も大変でした。気になっていた部屋が、外国人だからという理由で借りられないことがありました。借りる部屋が決まったあとも、日本人の保証人が必ず必要だと言われて、日本に来たばかりでそんなことを頼める友人はいないので困りました。
自分は自分のために生まれているのだから
ーモデルとしての活動の中では「男らしさ」や「女らしさ」にとらわれない表現をしたいとお話しされているのを拝見したのですが、それについても詳しく教えてください。地元では、男性が“女性向け”の服装をしていると日本よりも厳しく叱られたり、周りの人々に舐められたり、嘲笑われてしまったりします。もちろん男の人が化粧するのもだめだし、女性も“男性の服”は着られません。でも日本に来て、そういった雰囲気がないので性別による「らしさ」にとらわれない表現ができると思いました。人生は1回だけだから好きなことをやらないと。自分は自分のために生まれているのだから、本当は他の人が何を言うかは関係ないと思っています。でも人種的な差別に関してもファッションに関しても、誰かに何かネガティブなことを言われるとやっぱり落ち込むと思うので、そういうことを言われないような雰囲気を自分で作っている面もあるかもしれません。ーもし、周りに差別を受けている人がいたり、自分の身に差別が降りかかるようなことがあったらPAKさんはどう対応しますか。小さいころから今まで、私はたまたま他の人に舐められたり差別されたりする経験はしてこなかったけれど、もし差別されたらと思うと考えるだけで悲しいです。

日本に暮らす外国人、あるいは“アジア人”はみんなつらい経験をしているのではないか。それもまた1つの偏見だったのかもしれない。たしかに外国人が賃貸物件を借りにくい問題など、PAKもシステマティックな差別には例に漏れずぶつかってしまっている。しかし、PAK本人が語るように、個人的で直接的な言葉や行動として差別を受けたことがない“アジア人”がいるのもまた事実であろう。ここまでの複数の取材からも分かるように同じ“アジア人”と言っても、それぞれ異なる経験をし、異なる苦しみを抱え、異なる印象を日本に抱いている。差別はしてはならない、それは揺るぎようのないことだが、「○○人」と一括りにせずに「人それぞれ」に丁寧に向き合い、対話していく必要がある。

PAK
PAK モデル 21歳。中国・ウイグル自治区出身。東京の大学でファッションビジネスを学ぶ傍ら、モデルとして活動。ISSEYMIYAKEのコレクションビジュアルに起用されるなど、ハイブランドや雑誌媒体からのオファーも多い。エキゾチックなイメージと細身高身長なプロポーションを活かし、”モデル”のイメージや可能性を更新している。