南カリフォルニア出身のアーティスト・Cameron Lewによる音楽プロジェクト・Ginger Rootが最新アルバム『SHINBANGUMI』をリリースした。2020年10月にリリースされたアルバム『Rikki』以来4年ぶり、2022年9月にリリースされたEP『Nisemono』以来2年ぶりとなる今作について、Cameron Lewは「これがGinger Rootのサウンドだと100%自信を持って提示できるアルバムになった」と話す。
初めてのジャパンツアーに「FUJI ROCK FESTIVAL ’23」出演。Ginger Rootが振り返る日本との関係
ー2023年は初めての来日ツアーと初の「FUJI ROCK FESTIVAL ’23」出演がありました。初めての日本ツアーで覚えていることはありますか?正直とても緊張しました。日本の音楽や文化が本当に大好きなので、日本での初ライブに来てくれたお客さんをがっかりさせたくない気持ちが強かったです。時差ボケもあって、あまり詳しいことは覚えていないのですが、みなさん優しくてすごく楽しい時間を過ごせました。ステージに立ってライブが始まっても緊張は解けなくて(笑)。あっという間の経験でしたが、“本当に夢が叶ったんだな”と、一生忘れられない経験です。ー日本での2回目のライブは「FUJI ROCK FESTIVAL ’23」でした。


イエロー・マジック・オーケストラが教えてくれた“アジア人の僕にもできる”という可能性
ー初のジャパンツアー以降、影響を公言しているイエロー・マジック・オーケストラ(以下、YMO)の細野晴臣さんのラジオにも出演し、日本での活動も増えています。日本で過ごす時間が増えたことで創作制作活動への変化はありますか?アメリカと日本を行き来する生活は自分にとってバランスが良く、制作にもポジティブな影響があると思います。アメリカの生活と日本の生活は全く違うので、日本にいるときにアメリカが恋しくなることもありますが、だからこそ帰った時に“よしやるぞ!”という気持ちになれるんです。日本に来るときも毎回新しい街や景色に出会えるし、久しぶりに会う友達と久しぶりに日本語で会話できる。どちらもエネルギーを再びチャージできる場所。そういう意味で日本は第二の故郷と言えるかもしれません。ーYMOに出会った高校生の当時のことを覚えていますか? 何に衝撃を受けたのでしょうか?当時はWeezerのようなパワーポップにハマっていたので、YMOのディスコミュージックやシンセサイザーを取り入れたスタイルがとても新鮮に聴こえたんです。それに3人がアルバム『SOLID STATE SURVIVOR』で着ていた人民服に、囲んでいた麻雀卓。自分は中国系のアメリカ人なので、YMOが取り入れた中国のエッセンスに親しみを感じました。



Ginger Rootらしいサウンドにたどり着いた『SHINBANGUMI』は“これまでに影響を受けたカルチャーが凝縮された”アルバム
ー『SHINBANGUMI』について教えてください。前作『Rikki』テーマは「記憶」でしたが、今回はどんなテーマで制作したのでしょうか?『SHINBANGUMI』は、“これがGinger Rootのサウンドです”と100%自信を持って提示できるアルバムになりました。『Rikki』は、まだ本当の自分らしさを見つけられていなくて、音楽的にもセッションっぽさがあり曖昧な部分があったアルバムだったかもしれない。でも、過去2作品のEP『City Slicker』と『Nisemono』があったおかげで、ようやくGinger Rootらしいサウンドに辿り着くことができました。本当の自分らしさに辿り着くまでは簡単ではなかったけど、そのフェーズを乗り越えたことで満足のいくアルバムになったと思います。ー日本では“80年代の日本のレトロカルチャーを彷彿させるアーティスト”として広く知られるようになりましたが、『SHINBANGUMI』のインスピレーションになったものがあれば教えてください。『SHINBANGUMI』のインスピレーションは、自分がこれまでの人生で出会ったもの全てです。ファンクやソウル、アメリカのポップスに日本の歌謡曲やシティポップ。ポール・マッカートニーのようなシンガーソングライターもよく聴くので、今回のアルバムのリファレンスを1つに絞ることは野暮かもしれないです。

過去の流行をそのままパクるんじゃなく、新しいものを生み出す。それが“Ginger Root”というジャンル
ー日本の昔の文化に目を向けると、NewJeansが平成のカルチャーや渋谷系の文脈で語られたり、Night Tempoがシティポップを取り上げたりと、日本のカルチャーが国境を超えていろんなアーティストのリファレンスになっています。Ginger Rootさんにはどのように映っていますか?Y2Kの再流行のように、カルチャーはおよそ30年ごとに繰り返されます。実は、日本だけでなくアメリカでも2000年代のカルチャーが再び流行っていて、この流れは局地的なものではないし、場所も関係ないんです。流行のフェーズは常に繰り返されますが、忘れてはいけないのは、それを否定しないこと。パクるのではなく、過去に流行ったものから新しいものを生み出すこと。
ー残念ながら坂本龍一さんも高橋幸宏さんも亡くなられてしまいましたが、YMOから学んだことを次世代へ繋ぐことは自分のミッションだと思いますか?もちろんです。YMOは僕の人生の一部であり続けるし、高校時代に聴いていたとても大切なバンドであることは変わりません。

Ginger Rootのミュージックビデオさながらの空気感で「Ginger Rootユニバース」を一緒に楽しみたい
ー前回の来日ツアーよりも格段に知名度が増し、日本のファンとの関係性はより強固なものになっていると思います。2025年に控えるツアーはどのようなものになると思いますか?初めてのジャパンツアーでは“演奏を失敗しないように”とか“お客さんをがっかりさせたくない”という気持ちが強かったので、普段のアメリカのライブのように細かい部分にまでこだわりきれませんでした。2025年のツアーは2回目なので、前回よりももっと良い演奏を披露したいし、ディティールももっとこだわりたい。演奏はもちろん、コントとかも仕込んで映像も凝ったものにできたらと思ってます。

アルバム『SHINBANGUMI』
2024/9/13 RELEASE1. Welcome2. No Problems3. Better Than Monday4. There Was A Time5. All Night6. CM7. Only You8. Kaze9. Giddy Up10. Think Cool11. Show 1012. Take Me Back (Owakare No Jikan)13. Pre-Giddy Up Demo**日本盤ボーナス・トラック(CD)

Ginger Root
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シンガーソングライター、プロデューサー、マルチ・インストゥルメンタリスト、ヴィジュアル・アーティストのCameron Lew(キャメロン・ルー)による、南カリフォルニア州ハンティントンビーチ発のソロ・プロジェクト。2017年に、自らが“アグレッシブ・エレベーター・ソウル”と呼ぶ作品『Spotlight People』をリリース。その後もコンスタントにリリースを重ね、2023年にはチケットが即完売した初来日ツアーや「FUJI ROCK FESTIVAL ’23」への出演など、独自の世界観で音楽ファンを魅了。日本を含めグローバルに活動を展開し続けているアーティストの一人だ。