ネットで見かけておもしろかった”小学校で習うのに読めない漢字クイズ”があったので、みなさんにも。「具だくさんなスープ」「道具」「具材」「具合」などに使う「具」という漢字、小学3年生で習いますが、送り仮名に「に」を付けて、「具に」という読み方があるそうです。
さて、この「具に」。一体、なんと読むのでしょう?もちろん、「ぐに」ではありません。…そもそも「具」に、「ぐ」以外の読み方ってありましたっけ?

【小学校で習うのに読めない漢字クイズ】「北く」の読み方、わかる?もちろん「きたく」ではないよ!

小学校で習うのに読めない漢字クイズ♪

【問題】
「具に」なんと読むでしょう?

thinking time♪





正解は「つぶさに」でした。

つぶさに…。聞いたことはあるけれど、使った記憶はないよなぁ。

どんな意味なのでしょう?

「具(つぶさ)に」は、①細かくて、詳しいさま。詳細に ②すべてをもれなく。ことごとく という意味だそうです。

「具に調べる」「具に報告する」「具に検討する」などと使うみたいです。

会社で上司に報告する際、「具に調べた結果、いくつかの改善点が見つかりました」と言えば、”すべてをもれなく細部にわたりしっかり調べた”というニュアンスを含むことができますよね。

「具に」と付け加えるだけで、”ちゃんと仕事やりました感”が出せる便利な言葉かも(笑)。

さて、この小学3年生で習う「具」という漢字。
「つぶさに」のほかにも意外な読み方があるんですよ。

読み方は「具(ぐ)」だけじゃない!

「具」という漢字単体の読み方と意味はこちら。

【小学生で習うけど難読な漢字クイズ】「具に」は何て読む?「ぐに」ではないよ

画像出典:辞典オンライン『漢字辞典』

「グ」や「つぶさに」のほか、「そなえる」「そなわる」「つま」とも読むそうです。

ただ、訓読みの4つはすべて、常用漢字表にない”表外読み”とのことなので、馴染みがないのも無理はないかな。

意味は、①つぶさに。くわしく。細かく ②そなえる。そなわる。整う。準備する ③そなえ。用意。準備  ④うつわ。
仕事や生活で用いる道具。⑤うつわ。器量 ⑥ぐ。料理に刻んで入れる食材

いろいろな意味をもつ漢字ですね。

…とここで、気になることが、ひとつ、ふたつ。

「そなえる」「そなわる」というと、「備える」「備わる」と書くのが一般的。それに、辞書をみる限り、「具える」「具わる」の意味は、「備える」「備わる」の意味とほぼ同じ。

さらに、先ほどは触れませんでしたが、実は、「つぶさに」は、「備に」とも書くと記載されていたのです。

共通点がちらほら見える「具」と「備」。

そこで気になったのが、「具」と「備」の関係性。昔、同じ漢字だったりして?などと、好奇心を膨らませつつ、「具」と「備」の関係を調査することに。

「備に」も「びに」でなく「つぶさに」と読むのです!

まずは、「備」という漢字について見てみましょう。


【小学生で習うけど難読な漢字クイズ】「具に」は何て読む?「ぐに」ではないよ


画像出典:辞典オンライン『漢字辞典』

お~。

「備」の音読み「ビ・ヒ」以外、訓読みも意味もすべて「具」と同じ。ただ、「備」には、「具」が持つ「仕事や生活で用いる道具」「器量」といった意味は含まれていないようですが…。

けれど、共通点が多いことは確かなので、漢字の成り立ちが同じなのかも。

そこで、「具」と「備」の成り立ちを調べることに。見た目は全然似てませんけどね。

まずは、「具」。

「具」は、神へのお供え物を入れる器「鼎(かなえ)」と両手の形「廾(きょう)」を組み合わせた漢字。両手で鼎を神へ捧げる様子を表しているそうです。※成り立ちは諸説あるそうです。

【小学生で習うけど難読な漢字クイズ】「具に」は何て読む?「ぐに」ではないよ

画像出典:立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所

「そなえる」という意味で使われるようになり、のちに転じて、広く「器具全般」の意味も含まれるようになったそうです。

成り立ちからみると、「備える」というより、「供える」の意味っぽいけど…。


続いて、「備」。

「備」の右側にある文字は、「箙(えびら)」と呼ばれる矢を入れる箱型の武具を表す文字。「備」は、人が箙を背負い、戦いに備えて準備をする様子を表しているそうです。※成り立ちは諸説あるそうです。

もともとは、”戦いに”備えるという意味で使われていたそうですが、のちに、戦い以外のことにも使われるようになり、さらに、前もって用意するには”すべてがそなわっている”ことが必要なので、「つぶさに、ことごとく、みな」の意味ももつようになったとか。

ということで、「具」は両手で鼎を神へ捧げる様子、「備」は人が箙を背負い、戦いの準備をする様子が成り立ちということで、「漢字の成り立ちが同じなのかも」というわたしの予想は見事に外れました(笑)。

逆に、成り立ちがぜんぜん違うのに、巡り巡って、現代では、同じ意味で使われるようになっているのは、おもしろいですよね。

続いて、気になること2つめ。実は、これが一番気になっています。

「具」の読み方の中でも、とりわけ異質に感じる「つま」。

【小学生で習うけど難読な漢字クイズ】「具に」は何て読む?「ぐに」ではないよ


画像出典:辞典オンライン『漢字辞典』

「具」を「つま」と読む場合、どういう意味になり、どんなときに使うのでしょう?

「具(つま)」って、ナニ?

調べて、調べて、調べまくったのですが、ネットではまったく出てこなーーーい。わたしの調べ方が悪いのかもしれませんが…。


唯一、見つけたのは、”つまは、刺身や吸物に用いられるつけあわせのことである。「具」と当て字表記されることもある”という記載。ちなみに、これ、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』情報。

出所が分からない『ウィキペディア』情報なので、信憑性に欠けるのよね。それに”当て字”表記というのもひっかかるし。

当て字とは、漢字本来の意味とは関係なく、ただ、その音や訓を借りて書き表した字のこと。例えば、クラブの当て字は「倶楽部」というように。

添え物の”つま”の当て字に、よりにもよって、ほとんどの人が”ぐ”と読む、「具」という漢字を選びます???

謎。謎。謎。

ネットでの調査は暗礁に乗り上げ、にっちもさっちも行かなくなったので、そんなときはアナログにシフトチェ~ンジ。

まず、わが家の国語辞典『例解新国語辞典  三省堂』で「つま」を引くと、「具」の「つま」はなく、「妻」のみ。


とりあえず、意味を見ると…

うっ、マジか。

つま【妻】
①結婚している男女のうちの女性
②刺身などにそえて、それをひきたたせるための野菜や海藻 
③(建築)入り母屋造りの屋根の両側にある三角の形をした壁 と書いてありました。

ええええええええええええ、刺身の”つま”は、漢字で「妻」なの!?

【小学生で習うけど難読な漢字クイズ】「具に」は何て読む?「ぐに」ではないよ
つま

画像出典:フォトAC

念のため、ネットの『デジタル大辞泉』でも、つま【妻】の欄を見ると、「刺身の妻」とはっきり記載され、「主となるものに添えるもの」という意味も加えられていました。

添えるものって…ねぇ。

続いて、刺身の”つま”の語源を調べてみたところ、刺身などの料理に添える少量の野菜や海藻を”つま”と呼ぶようになったのは江戸時代だそうで、語源ははっきりせず、諸説あるとのこと。

そのひとつが、男社会だった江戸時代、”妻”は夫を支える役割だったため、それが刺身と添えものの関係に似ていることから、「妻」の字を当てたという説。

このほか、メイン料理の”端”に置かれることから「端」が語源になったという説もありました。昔は、「はし・ふち・へり」という意味の「端」の読みは、「つま」だったみたいです。

ただ、刺身の”つま”の語源を調べても、妻や端はあっても、「具」は出てこず。

「具(つま)」は、刺身の”つま”ではないということなのか…。

範囲を広げ、古語辞典『古語辞典 旺文社』でも「つま」を引いてみることに。

う~ん、これまた残念。

【つま】の欄に、「妻(つま)」「端(つま)」はあったものの、「具(つま)」はなし。

そこで、【ぐ】を引いてみると…。

おお~、なんということでしょう!!!

ぐ【具】の意味に、

①付き添う人。従者。侍女
②連れ添う人。配偶者
③(食物などに)添える物
④装束
⑤家具、器物 と書いてありました。

古語の「具(ぐ)」には、「③(食物などに)添える物」の意味があり、加えて「②連れ添う人。配偶者」という意味もあるので、先ほどの語源も踏まえると、「具(つま)」の意味は、やはり、お刺身の添え物”つま”という可能性が高そうです。

ということで、わたしが調べられたのはここまで。わたしなりの結論は、「具(つま)」は、刺身の”つま”という意味らしい…ということにしておきます。

それにしても、昔は、「具(ぐ)」に「連れ添う人。配偶者」の意味があったとはねぇ。ちょっとびっくりでした。

「具」に配偶者という意味があるのなら、「妻」とも何か関係があるのかしら?などと想像し、古語辞典で「妻」の意味を確認することに。

「夫」と書いて「つま」と読む!?

えええええっ。

これまたびっくり。

古語辞典には、

つま【妻】は「夫から妻を呼ぶ称」と書いてあり、

さらに、

つま【夫】は「妻から夫を呼ぶ称」とも書いてありました。

???ですよね。

どういうことかというと、昔は、男女の区別なく、夫も妻も互いに配偶者を呼ぶとき「つま」と呼んでいたそうです。「夫」も「妻」も「つま」なのです。

現代でも、俳句の世界では、「夫」と書いても、「妻」と書いても、「つま」と読むのだとか。

ちなみに、明治31年(1898年)の民法で、「つま」は、女性に限定されたとのこと。

へぇ~の連発。いろいろ、おもしろいですよね。

…ということで今回は、「具(つぶさ)に」との読みから始まり、横にも斜めにも掘りに掘りまくって、「具と備の成り立ち」から「刺身のつま」を通過し、「夫も妻も互いに『つま』と呼んでいた」という昔の慣習に行き着きました(笑)。

「具」は小学3年生で習うとっても身近な漢字でしたが、知らないことってまだまだあるんですね。漢字っておもしろい♪
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