戦後80年の節目に放送されるNHKドラマ『八月の声を運ぶ男』(8月13日放送)で、主演を務める本木雅弘さんにインタビューしてきました!作品への深い想いを語りつつ、家庭菜園や料理に夢中なプライベートの一面も明かしてくれました。毎日の食卓が楽しくなりそうな、本木流ハーブ活用術も必見ですよ!

【画像を見る】まっすぐな眼差しから目が逸らせない…【本木雅弘さん】

――ドラマは、原爆被爆証言取材の第一人者である伊藤明彦さんの著書『未来からの遺言』を元に制作された作品で、本木さんは伊藤さんをモデルにしたジャーナリスト(辻原保)を演じています。
今作はどんな挑戦になりましたか?

昨年は、核兵器の根絶を訴えてきた日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)が、悲願のノーベル平和賞を受賞されたこともあり、わたし自身も役者としてこうした作品に携われることに大きな意義を感じました。

今作は、戦争の脅威や悲惨さを直接見せるものではなく、辻原の作業を追いながら、日常を奪われた被爆者の方々の葛藤や忘れがたい記憶の断片、苦しみ、そこから見えてくる教訓などを後世に伝える作品になったと思います。

――主演のモデルである伊藤さんは、録音機を持って終戦後、1000人以上の被爆者の声を集められたそうですね。

伊藤さんは、長崎放送局時代に始めたこの仕事を完遂するために 30代で退職し、生涯独身で私財を切りくずしながら、被爆者の方々の話を聞くために日本全国を渡り歩いたそうです。その孤独な偉業への道は、想像を絶するものだったと思います。

京都での撮影秘話と長崎取材で心に刻まれた言葉

――京都を中心に撮影されたそうですが、振り返ってみていかがでしょうか。

1か月半くらい単身赴任状態でホテル暮らしだったので、集中して撮影に臨むことができました。役の気持ちを保つため、京都観光は控えて。

二条城の近くのホテルはとても静かな環境で、夜9時になればひっそりとしていました。
時々、近くの住宅街や川辺を歩くと、犬の散歩とすれ違ったり、井戸端会議のお喋りや、登下校する子どもたちの声が聞こえてきたりして、そんな時間も新鮮でしたね。

――クランクイン前には、長崎へ取材旅行にも行かれたそうですね。

はい。
爆心地や被曝樹木を見たり平和祈念館も訪ねました。伊藤さんの長崎放送時代の上司や後輩だった方々にもお会いすることができました。
何十年経っても被爆体験を話したがらない方が多く、伊藤さんも苦労していたことや、その方も小さい頃に被爆し、惨めな思い出だからずっと言いたくなかったという話をしてくださいました。
「自分たちにとって被爆というのは、いつも昨日であり今日なんだ」「常に現実に張り付いているもので、決して過去のものではない」という言葉がとても印象的でした。

【本木雅弘さんインタビュー】DNAに「土いじり」が刷り込まれてる!?「青いトマトにかぶりついてましたね」


――戦争体験者の高齢化で、語り手の方たちも年々減ってきていますが、『八月の声を運ぶ男』を視聴者の方にどのように観てほしいですか?

原案である『未来への遺言』の最後に、「死者を死せりというなかれ、生者のあらんかぎり死者は生きん」という画家のゴッホの言葉が引用されています。
”死者を死んだものと思ってはいけない、生きている者がいる限り死者はその心の中で生き続ける”という意味なのですが、ドラマを通してその感覚が届いてくれたら嬉しく思います。

還暦目前!コロナ禍で芽生えた「土いじり」への情熱

――今年の12月で還暦を迎えますが、近年、生活や暮らしに変化はありましたか?

コロナ禍で世の中の価値観も揺れ動きましたよね、当時、海外に留学していた娘が緊急帰国し、久しぶりに家族5人で過ごす時間ができました。かつて子どもたちが幼かった時を思い出したりして絆を再確認した感じです。
外出もままならなかったので、家のテラスで食事をしたり、植物を育て始めました。ローズマリーにクレベラントセージ、バジル、ミント、ミョウガなど…後にレモンやライムも加わり今も育てていますよ。

――ハーブはどのように活用しているんですか?

お肉やポテトにはローズマリーが合うし、エスニックなものも結構好きで、ライムを絞ってサルサソースを作ったり、細かくチョップ状にした野菜にザクロ、パセリ、ミントとキヌアも加えて中東の「タブレ」風のサラダをチャーハンのように食べたり(笑)。

そして、今の定番になっているのが「ザジキ」という、ギリシャヨーグルトで作るソース。
ヨーグルトにすりおろしたにんにく、オリーブオイル、そこにミントとディルをたくさん入れるんですけど、大きめに切ったカリフラワーや白菜を、焦げ目をつけて焼き、ザジキをかけるとおいしいんですよ。

――今後、新しく育ててたいと考えている植物や野菜はありますか?

ザジキソースが気に入っているので、ディルを自分で育ててみたいと思っています。
テラスに小さな花壇があるので、レタスにも挑戦したいし、妻が好きなミモザも育てたいですね。

【本木雅弘さんインタビュー】DNAに「土いじり」が刷り込まれてる!?「青いトマトにかぶりついてましたね」


――やっぱり土をいじるのは好きですか?

そうですね。本気の方たちと比べたら、語れるほどの手入れはしていませんが、土をいじるのは楽しいです。
実家が埼玉の農家なので、幼少期に土と共に生活していたのは大きいと思います。作物の成長を愛でる喜びがDNAに刷り込まれていて、それが呼び覚まされるんでしょうね(笑)。

――本木さんのご実家は、150年続く農家だと伺いました。

記憶の中で一番おいしかったものの一つに、露地栽培の青いトマトがあります。
冷たい井戸水で洗って、少し硬めの皮にそのままかぶりつくんですが、ジャキっとした歯触りと土の香りに生命力を感じて。いつもおやつのように食べてました。きっとこれは、農家の子どもならではの思い出でしょうね(笑)。


還暦祝いは「1人の時間」が欲しい!?本木さんが求める心の豊かさとは

――先ほども少し触れましたが、今年還暦を迎えられます。50代のうちに何かやっておきたいことはありますか?

そうは言っても80、90代の方たちから見たら、まだまだひよっ子という感じでしょう。50代を終えようとしているのに、みなさんにお伝えできるような確固たる精神論みたいなものはないし、本当にやりたいことが未だに分かりません(笑)。
還暦祝いの話がポツポツ出始めているんですが、派手に祝うのも苦手だし、お返しにも困っちゃうし、できれば「1人の時間をください」ってお願いしたいかな(笑)。

――1人になったら何をしたいですか?

本音を言えば一人旅。あるいは「家族元気で留守がいい」(笑)。
家で一人、テラスの土いじりをしたり、次の作品の原作を読んだり、関連した情報をググったり、眠くなればうつらうつらしたり…。気づいたらもうこんな時間かって、冷蔵庫にあるもので簡単に作ってダラダラとか。それだけで満たされるんですよね。
家族がいるからこそありがたく思えるささやかな自由というか、自分にとっては孤独な時間というのも必要な栄養なんです。

もとき・まさひろ/ 1965 年、埼玉県生まれ。
2008 年の主演映画『おくりびと』が日本映画史上初となる米アカデミー賞外国語映画賞を受賞。
以後、俳優として数々の作品で活躍。
戦後80 年ドラマ『八月の声を運ぶ男』がNHKで8月13日(水)22時~放送予定。

※本木雅弘さんのインタビューは、月刊誌『家の光』2025年8月号にも掲載されています。
https://www.ienohikari.net/press/hikari/
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