
錆だらけの見た目とは裏腹に毎日20km走る働き者
【写真12点】「子供ゴコロを忘れないためのワーゲン・タイプⅡ」の詳細写真をチェック髙嶋さんの経営するカフェ&ギャラリーHATTIFNATTの入り口のドアはかなり低い。大人は背をかがめないと店内には入れないのだが、それは「忙しい現代社会を忘れて、童心に戻って楽しんでもらうためのお店」だからだと言う。外装や店内の壁や床は、DIYショップで木材を買ってきて、髙嶋さんとお父さんのふたりで仕上げた。店内に備えた「食器用エレベーター」は板にヒモを付けて、滑車を使い1階と2階を行き来させる。「設計図はありません。木材を実際に壁や床に当てながら『この辺りで切ればいいね』とか、そういう感じです」。 そんな髙嶋さんの愛車は、1975年式のフォルクスワーゲン タイプII、通称ワーゲンバスだ。5~6年前に購入したときに、すでにバンパーは錆びつき、ほかにも所々錆びが浮いていた。「アメリカンバイク専門店の車だったらしく、黒地に赤いファイヤーパターンが描かれていました」。そこで外観を自分で白く塗装し直した。しかし錆の部分は錆止めしただけで、そのままに。それどころかフォルクスワーゲンのファンミーティングで、わざわざ錆びたヘッドライトをもらってきたという。一方で、エンジンとミッションは購入時に販売店で修理してもらった。「ボロいからまけてよ、と値切って買ったんですが、結局修理代は値下げ分以上かかっちゃいました」と髙嶋さんは笑う。見た目はやれていて、でも中身はバリッと。それが髙嶋さんの理想とするタイプIIだ。「以前は週3で千葉の海まで、往復200kmかけてサーフィンをしに行っていました」。最近は仕事が忙しくてなかなかサーフィンに行けないが、今でも毎日、自宅と各店の往復で20kmは走っているという。「調子がいいですよ」。
--{2/4}--童心を忘れなかったら、ワーゲンバスを見つけた
昔からアンティークなものに惹かれていたという。子供の頃は、お父さんが拾ってきたドラム缶で作ってくれたおもちゃ箱にブリキのおもちゃを入れ、夏になれば、やはりお父さんが作ってくれたタイヤチューブを使った浮き輪で、波間に浮いていたそうだ。そんな幼少期だったから、おしゃれなカフェよりアンティークな喫茶店が好きで、手づくりの雑貨にも興味があったという。それが今のお店に繋がった。
一方車も、少し古くて味のあるものが好きだ。初めて買った車はフォルクスワーゲン ゴルフII。その後、現在の通称“アーリーバス”と呼ばれるタイプIIを購入した。「まだ20歳の頃で、さすがに故障が多くて手に負えず、手放しました」。その後ジープのチェロキーをはじめ、数々の車に乗り、丸目のフォルクスワーゲン ヴァナゴン(T3型)に乗っていたときに、たまたまネットで現在の愛車を見つけた。「ヤレ具合がとても魅力的でしたが、ちょっと価格が高いなと」思っている間に売れてしまったという。
ラゲージはいつでもキャンプへ出掛けられるような状態。ところが約1年半後に、同じ中古車販売店のサイトに、再びこの車が掲載されたのだという。それも最初のときより少し安いプライスタグを掲げて。「また見つけるなんてこれも縁だろうな」と思い、連絡を取り、先述のようにさらに値下げしてもらい、エンジンとミッションを修理して購入したというわけだ。
家族6人で月1回はキャンプへ
サーフィンになかなか行けない一方で、コロナ禍のため家族とキャンプに出掛けることが増えたという。他人との密を避けて、屋外で思い切り遊べるからだ。「月に1回は行きますね」。髙嶋さんと奥さん、それに子供たちが4人。計6人でタイプIIに乗り込み、キャンプへ出掛けている。
イベントでタダでもらった錆び付いたヘッドライト。「多いのは神奈川県の丹沢。この年末年始も家族とキャンプをして年を越しました」。現地では当然テントで寝るのだが、早めに現地へ行くために、夜のうちに最寄りのインターチェンジ近くで仮眠を取り、朝になったら高速道路に乗って行くのが常だという。
天井は生地を剥がして好みの仕様に変えようと思っていたが、まだ手を付けていない。「今日は、取材があるからと思い、とりあえずホームセンターでベニア板を買ってきて、差し込んでます」。大好きなサーフィンに行けないほど仕事が忙しいので、タイプII改造計画はなかなか進まないが、出来ることから少しずつ。「お店もそうですが、童心に戻っているときって楽しいじゃないですか。その楽しいと思える感覚を、ずっと大切にしていきたいんですよね。その意味では、お店もタイプIIも、僕の秘密基地です」。子供の頃と違うのは、思いを実行できるお金を稼げること。
「まあ世の中の方向的にはそうですが、すぐにはそうならないと思いますよ」と答えると「そうですよね。この車はずっと乗り続けていきたいんです」とほっとするTさん。その笑顔は、まさに自作の秘密基地で見せる子供の笑顔だった。
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