ポップアップストアやランニングイベントの際に目印として使われるボード。取り壊された古民家の廃材を使って製作。


オーシャンズ本誌2021年6月号の特集「休日スポカジ主義」でヒアネスを紹介したことがある。新進気鋭のランブランドとして、ごく小さなスペースで。

しかしながらその着心地の良さと完成度の高いデザインは驚きだった。スタートして間もないブランドだとはとても思えなかったのだ。

ここではそんなヒアネスをサステイナブルな視点で掘り下げる。


10年の時間を経てたどりついた着心地抜群のランニングウェア

ランニングウェア「ヒアネス」の革新性。追求するのは機能性よりも“心地よさ”

サトウキビ由来のポリエステル素材を使用した「シュガーケイン ロングパンツ」。スマートフォンがぴったり収まるヒップポケットを装備。デイリーウェアとしても抜群の使いやすさを誇る。1万6500円/ヒアネス 0120-560-799


「私も代表の松田(正臣さん)も、アパレルを作ることに関しては本当に素人でした。実際に工場を見学して初めて、自分たちが着ているランニングウェアがどう作られているかを知ったんです」。

取材に応じてくれたMDの神谷颯人さんはそんなふうに回想する。学生時代は長距離ランナーであり(もちろん今も走っている)、以前はスポーツメーカーに勤務。

その後、スポーツライフスタイルを伝えるウェブメディア「mark」の制作に携わる。
この「mark」で培った経験と知見が、ヒアネス誕生の直接的な要因である。

「メディアのコンテンツ制作を通じて、ランニングウェアはもちろん、アウトドア、自転車、ヨガなど、多くのブランドのさまざまなアクティブウェアに触れてきました。

そんななかで“自分たちが本当に欲しい、本当に着たいウェアとは何なのだろう?”という思いが高まっていったんです」。

ランニングウェア「ヒアネス」の革新性。追求するのは機能性よりも“心地よさ”

[左]リサイクルポリエステルを使用した「フォーカスキャップ」は、被っていることを忘れるほどの軽さ。その重量はわずか26g。6600円 [右]マイボトルを携行しプラスチックごみを出さないこと。これも環境負荷軽減のために我々ができることのひとつ。保温・保冷性に定評のあるキントー社の「トラベルタンブラー」を、ブランドカラーであるコーラルオレンジで別注。3960円/ともにヒアネス 0120-560-799


「mark」のローンチは’11年(当時の名称は「onyourmark」)。実に10年の時間を経て得た結論はずばり「着心地の良い服」だった。

天然素材の肌触り。窮屈すぎないシルエット。
周囲の風景に馴染む色。ある意味、現在の主流である機能性を競うランニングウェアの逆をいくものだ。

ランニングウェア「ヒアネス」の革新性。追求するのは機能性よりも“心地よさ”

毛脚部分にニュージーランド産メリノウールを使用した「リアル・ウール・フリース」。マイクロプラスチックを出さないためには天然素材で作ればいい。そんな逆転の発想から生まれたフリースだ。3万3000円/ヒアネス 0120-560-799


「確かに機能性は重要ですが、着心地よりも優先されるべきではありません。そもそもランにしろワークアウトにしろ、気持ち良い、楽しいと感じなければ続かないんですよね」。

この言葉には心からの賛意を表したい。なぜならオーシャンズもまた、男性にとっての楽しい服とは何かを常に考え続けてきたメディアだから。

ランニングとファッション。たどった道筋はもちろん異なるものだが、到達した場所は同じ「気持ちの良い服」だったのである。
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圧倒的人気を誇るメリノウール素材のTシャツ

ランニングウェア「ヒアネス」の革新性。追求するのは機能性よりも“心地よさ”

極上の肌触りを実現した「スムース ウールTシャツ」。素材はもちろんニュージーランド産メリノウールだ。

各1万1000円/ヒアネス 0120-560-799


「もし私たちのブランドに興味を持ってもらえたなら、最初の一着はメリノウールのTシャツ(写真上)をおすすめしたいです」。

服好きであれば当然、メリノウールのクオリティはご存じだろう。高い保温力と通気性を兼備。原毛の繊維が細いためチクチクすることなく、その肌触りは抜群だ。

そしてニオイの原因となる細菌を抑制し、優れた防臭力を備えている点も特筆しておきたい。つまりメリノウールはアクティブウェアの素材として打ってつけなのである。

ランニングウェア「ヒアネス」の革新性。追求するのは機能性よりも“心地よさ”

「リアル・ウール・ウインドジャケット」は、17.5ミクロンという極細のウール糸を超高密度で織り上げた生地を採用。風を防ぎつつ内部の蒸れを速やかに放出。ウールの特性を存分に活かしたジャケットなのである。生地表面には環境に配慮した非フッ素撥水加工が施される。3万3000円/ヒアネス 0120-560-799


「ブランドのスタッフはランニングはもちろん、登山やトレイルランニングもやります。だから保温性と通気性に優れた“ウールの服”に馴染みがありました。


最初に作ったプロダクトがウールTシャツだったのは、今思うと自然な流れですね」。

ランニングウェア「ヒアネス」の革新性。追求するのは機能性よりも“心地よさ”

ニュージーランド産のノンミュール・メリノウールがブランドの代名詞的素材だ。


またサステイナブルの観点からもメリノウールは秀逸な素材だ。秀逸である理由の第一はもちろん天然素材であること。

そして素材生産国のニュージーランドで、’18年よりミュールジングウール(※1)を禁止していることが挙げられる。

「ブランド設立前から、日本だけではなく海外展開を視野に入れていました。海外では、ウェルネスなライフスタイルを送る人ほど動物愛護の意識が高いように感じます。

ミュールジングされない羊から生まれるウールは、そんなサステイナブルな思考の方々も納得できる素材だと思ったんです」。

ランニングウェア「ヒアネス」の革新性。追求するのは機能性よりも“心地よさ”

3月に登場した新作「エアリーコットンTシャツ」と「エアリーコットンタンク」。コットンならではの優しい肌触りと味のある色みが◎。上から7700円、6600円/ともにヒアネス 0120-560-799


このウールTシャツは現在、ブランドを代表するアイテムとして多くのリピーターに愛されている。

「私自身、ブランドを立ち上げてからほぼ毎日着ているんですよ(笑)」という神谷さんのコメントが、その人気ぶりを証明しているように思う。


ランニングウェア「ヒアネス」の革新性。追求するのは機能性よりも“心地よさ”

廃棄された魚網などを原料とするナイロン「エコニール®️」を使った「エコニールロングタイツ」。ファスナー付きヒップポケットがうれしいディテール。9900円/ヒアネス 0120-560-799


このほか海洋プラスチックごみから生まれたナイロン「エコニール®」や、廃棄予定の服や製造時に発生する端切れなどから再生産されたポリエステル「RENU®」、サトウキビ由来のポリエステルなどを素材に使用。

アクティブウェアとしての機能性を担保するため、試行錯誤を重ねながらサステイナブル素材の活用を模索しているのだ。

現在は製品の半分以上に天然由来素材およびリサイクル素材を使用。いずれはサステイナブル素材の100%使用を目指している。

「私たちがアパレル生産の経験者ではなかったからこそ、素材や生産方法に徹底的にこだわることができたんだと思います。

最初に工場を訪れたとき、生産時の無駄やごみをできる限りなくして、サステイナブルなもの作りをしていきたいことをきちんと伝えました。すると工場の方々からも賛同いただいて。本当にありがたかったですね」。
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身体を動かすあらゆる人のために

ランニングウェア「ヒアネス」の革新性。追求するのは機能性よりも“心地よさ”

ブランドコンセプトの「身体を動かす喜びを少しでも多くの人に伝える」ために、定期的にイベントを開催。また公式サイト内では、リアルランナーたちの取材を通じてスポーツライフの喜びや楽しさを発信している。


もちろん生産工程以外にも多彩な取り組みにトライしている。なかでも画期的なのはビニールの個包装をなくしたこと。

通常汚れやシワを防ぐため、アパレル製品は一つひとつがビニール袋に入れて管理される。これは業界の常識だが……。

「在庫段階からお客さまにお届けするまで、包装用ビニール袋は1枚も使っていません。服がたたまれて袋に入っている。これは結局、誰かがその作業を行なっているということ。

ビニール袋を省くことは使い捨てプラスチックを減らすだけではなく、“誰かの手間”も省いてくれるんです」。

ランニングウェア「ヒアネス」の革新性。追求するのは機能性よりも“心地よさ”

商品を配送する際に使われる段ボール製オリジナルボックス。


不要な下げ札は使用せず、品質表示タグにバーコードを印刷して製品管理を行う。梱包ボックスにはリサイクル率の高い段ボールを使用する。売り上げの1%以上を環境団体に寄付するネットワーク「1% for the Planet」に加盟、などなど。

素材、生産、配送のあらゆる段階で、サステイナブルな取り組みが進められている。

ヒアネスは、いわゆる公共環境経済の最先端モデルを実践するブランドだ。その要諦はおそらくD2C、ダイレクト・トゥ・カスタマーという業態にある。

自分たちの考えや表現をストレートにカスタマーに届ける。そしてカスタマーの声に耳を傾け、製品作りにフィードバックする。このシンプルで無理のない循環がブランドの強みなのだ。

「インスタグラムのダイレクトメールもいい意味でフランクな口調のものが多くて、カスタマーとの距離が近い感じ。

これがD2Cの効果なのか、私たちがごく小さなブランドだからなのかはわかりませんが(笑)、着てくれた人の顔が見える実感があります。それがD2Cの面白みですよね」。

ランナーが服を作る側に回り、着心地の良さでランナーをサポート。名前のとおりヒアネスは、身体を動かす人たちの“今、ここ”にあるブランドとして、着実にその存在感を高めている。

HERENESS ヒアネス
創業年:2020年12月
スタッフ:松田正臣、神谷颯人
本社所在地:東京・渋谷
店舗:ウェブサイトのみ

Sustainable Keywords
・「着心地の良さ」によってスポーツライフをサポート
・メリノウールに代表されるサステイナブル素材の活用
・カスタマーとの距離が近いD2Cのビジネス業態
(※1)ミュールジング
綿羊の臀部の皮膚を切り取ること。皮膚面積を増やし毛量が多くなるように品種改良された綿羊は、皮膚のシワに多くの汚れがたまる。特に臀部は糞尿にまみれる。その処理の手間を省くために、現在も羊毛生産国の一部で行われている行為だ。
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