▶︎すべての画像を見る「失敗から学ぶ移住術」とはあえて不便な環境に身を置くことで、家族みんなで生きる力を付けることを目的に、13年前に伊豆半島の松崎町に移住した松岡俊介さん。いきさつは
前編でお伝えした通り。
元カリスマモデル・松岡俊介の今。伊豆半島の山奥で不便な生活に挑んで13年
松岡俊介●1972年東京生まれ。18歳にモデルデビューし、俳優としてTVドラマや映画に出演。自身のアパレルブランドを展開、セレクトショップもオープンするなど、ファッションのカリスマとして時代を牽引する。15年前に南伊豆の古民家に移住、妻・娘4人と暮らす。
松岡俊介●1972年東京生まれ。18歳にモデルデビューし、俳優としてTVドラマや映画に出演。自身のアパレルブランドを展開、セレクトショップもオープンするなど、ファッションのカリスマとして時代を牽引する。13年前に伊豆半島、松崎町の古民家に移住、妻・娘4人と暮らす。現在、単身赴任先の「カメヤ食堂」の店長を務める。
購入した古民家は日照時間が少ない斜面に立つため、老朽化も激しい。「僕らはあえて不便に挑んでいるので、普通の人には参考にならないと思いますよ」と断りつつ、山奥で暮らす不便さを語り始めた。その例は枚挙にいとまがないほどだが、なかでも山暮らしの参考になりそうな6つの教訓を教えてもらった。
教訓① 家探しは時間と季節で確認すべし
松岡さん家族が住む築45年の古民家は、人里から徒歩1時間ほど離れた山の上にある。一帯の集落には、昔から住んでいた4世帯と、松岡家を含む新参の4家族が暮らすという。家は標高500メートルの斜面にあり、日当たりは良くない。湿気が多く洗濯物はなかなか乾かないうえ、革製品はカビてしまうほどだ。
霧が家に入ってくる、こともあるという山奥に立つ山小屋のような自宅。
山奥に立つ山小屋のような自宅。(写真提供:松岡俊介)
「うちは日照時間が少ないんで、湿気もすごいし、家が傷みやすいですね。霧が家の中にさーっと入ってきますよ(笑)。服も簡単に乾かないし、革製品はカビます。山は4分の3がだいたい湿気のある場所だから、選ぶなら南東向きの家がいいですよ。あとは一日滞在して、時間によって日当たりがいいのか悪いのかを確認する。できれば季節によって、その土地の環境がどう変わるかも見ておくのがベスト。山は本当に甘く見ないほうがいい」。
教訓② 獣に出くわす可能性大。番犬を飼うべし
イノシシにも果敢に向かっていく頼もしい松岡家の番犬。
イノシシにも果敢に向かっていく頼もしい松岡家の番犬Moti。(写真提供:松岡俊介)
例に漏れず、大自然の中に立つ松岡家の周りにも数々の生き物が生息する。「うちはイノシシとか鹿が出ますね。
イノシシに出くわすのがいちばん怖いかな。こっちに向かってくるので」。つい最近も6歳の末娘がイノシシに追われるという恐怖体験が実際にあった。 「リードをつけずに散歩している最中、末っ子が追いかけていたら、3頭のイノシシに出くわしたんですよ。もちろん娘は僕に向かって走って逃げてくる。犬も一緒に逃げてくる。その後ろに、イノシシ3頭がこっちに向かって走ってくるわけですよ。緊張が走りましたね、あの時は。僕は子供を守らなきゃいけないし、絶叫と発狂みたいな、人間のものとは思えない声と動きでイノシシを威嚇しましたね。こっちの一発でどうにかなる相手じゃないけど、一心不乱で向かっていったら逃げていきました」。
イノシシに遭遇した当時を振り返る松岡さん「人間とは思えない声と動きで威嚇した」。
イノシシに遭遇した当時を振り返る松岡さん「人間とは思えない声と動きで威嚇した」。
かつては猟銃で獣を駆除する住人が地域にいた。
だが、だんだんその数も減り、今はイノシシや鹿の数が増えているという。となると必要なのは番犬だ。 「犬は飼ったほうがいいかもしれないですね、番犬として。うちのは雑種犬なので強い。ハクビシンなんかにも挑んでいきますよ」。
教訓③ 自治会とうまく付き合うべし
約8世帯が暮らす松崎町の集落には自治会が存在する。貯水タンクを設置して湧き水を引いたり、道を作ったり、共同で草刈りをしたり、持ちつ持たれつの関係が欠かせない。「うちみたいに山奥で生活する場合、自分たちだけで生きていくことはできないです。自治会との関わりは必要。何もないところに道を引くのもそうだし、雑草を刈るのもみんなで一緒にやるし、給水タンクの掃除とかもね。協力しながらやることが多いんですよ」。
災害時に倒れた大木。自宅への道を塞いだ時は自治会のメンバーが撤去してくれた。
災害時に倒れた大木。自宅への道を塞いだ時はよっぽどの時以外は近隣の先輩住人が撤去してくれている。
(写真提供:松岡俊介)「僕は都会から移住した身なので、そういう意識が希薄でした。でも、野菜をもらうことも多いし、おじいちゃんを病院に送った代わりに薪をくれることもある。お世話になることが実際に多いんで、自治会や地域との関わりは大切ですね。僕はそれを妻に教わりました」。この地域から移動する予定はないと話す松岡さんは、いずれは自分が自治会の長にならなくてはいけない時期が来るだろうと話す。
「自分が会長にならなきゃいけない時代が来るでしょうね。いろいろ問題はありますよ。意見が割れて自治会を抜ける家族もいるし、お金が絡むと不満も募りやすいし。最近の移住者はそういうのが面倒だから地域と関わらないっていう話も聞きますが、僕もそうだったし、でもやっぱり地域や自治会とはうまくやった方がいいと思いますね」。
教訓④ オフロードに強い車にすべし
山奥に住むということは道も整備されていない山道になるということ。イノシシをはじめとした獣害の存在は日常生活のインフラにも影響を及ぼしているという。
「車は何度もパンクしちゃいますよ、道が悪いので。大部分が先輩移住者たちが自分たちで引いた道なうえに、イノシシが増えると山が荒れて道を壊すので、ガタガタなんですよ。
ひと月に3回パンクしたこともありました。車のメンテンナス費だってバカにならない。ランクルとかジープとか持ってれば大丈夫かな。あとは道が整備されている場所を選ぶといいですね」。イノシシは遭遇するという危険以外にも田畑や鋪道を荒らす弊害もある。山中に暮らす場合はオフロード仕様の車を選択することも一緒に考えたい。
教訓⑤ タフな精神力を身につけるべし
乳が飲めると思って飼ったヤギ。「オスを選んだのは失敗でした。草しか食べてくれません」と松岡さん。
乳が飲めると思って飼ったヤギ。「オスを選んだのは失敗でした。草しか食べてくれません」と松岡さん。(写真提供:松岡俊介)
松岡さんの妻・裕子さんは、4人娘のボスのような存在でとにかくタフ。出稼ぎ中で夫が留守の間、不便な山奥暮らしを生き抜いているという。「うちの妻はたくましい。4人娘を従えてる感じでもあり、面倒も良くみてくれて尊敬してます。
生き物も本当に多いんで。ネズミが靴の中で出産してたり、猫が殺したハクビシンが家の前に置いてあったり、食卓にクワガタが歩いてることもあるし、クローゼットの中で蛇がとぐろを巻いてたこともあります(笑)」。都会暮らしの身からすれば、とてもじゃないが足を踏み入れたいと思える環境じゃない。「慣れるとは思います。たくましくなっていくだろうし。子供たちもトカゲの卵を孵化させたり、生き物の死骸で遊んだりしてますよ。でもやっぱりナイーブな人だと山奥の生活はかなり大変かな。どの家も、男勝りの奥さんが多いですね」。
教訓⑥ テレワークもいいが地域に関わる仕事もおすすめ
昨今のテレワークの普及で移住する人は増えたとはいえ、不便な山奥を選ぶ人は少ないかもしれない。だが、地域の林業や農業に携わるのも楽しい経験だと松岡さんは話す。
「今はリモートワークで、どこに住んでいても仕事ができる状況だから、Wi-Fiが整っていれば仕事についてはそう問題ないと思います。でも、地域に根ざした林業や農業に関わるのもいいと思う。気合い入れて、薪を自分で作るっていうのも楽しいし。8割は地域に関わる仕事で収入を得て、残り2割はほかに収入が得られる術があると、収入も関係性もいちばん安定するんじゃないかな。山に移住する楽しさも味わえるし。っていうか、僕がそれを目指してるんですけどね(笑)」。 ◇不便さに満ちた山奥の暮らしをあえて選ぶ松岡家。その中で生きる力を身につけた子供たちは、都会では得ることのできない頼もしさがあるはずだ。とはいえ、最近はインターネットによる情報も増え、しっかり韓流アイドルにもはまっているらしい。そんな松岡家の暮らしは
YouTubeで配信もされているので、ぜひ。