▶︎すべての画像を見る「ポラロイドP」というYouTuberをご存知だろうか。「チャンネル登録者数10万人を達成した暁には日本に移住する」と宣言した彼は今年8月末、“公約”どおりに東京にやってきた。
現在の登録者数は17万人を超えている。ナイジェリア系のオランダ人で、本業はDJ、音楽制作、ときどきカメラマン。日本の音楽に注目し始めたのは15年も前にさかのぼり、以来、日本のカルチャーに傾倒してきたという。現在、ミュージックビデオやライブ映像、漫才、映画作品などを見ながら感想や分析を語る「リアクション動画」がYouTube上で流行っているが、ポラロイドPも2020年からJ-POPのリアクション動画を始め、反響を呼んでいる。しかし、なぜ彼はオランダ人でありながら、ここまで日本のカルチャーにどっぷりとハマったのか。日本のネイティブである我々が気付いていないJ-POPの魅力について、本人に話を聞いた。
Polaroid P(ポラロイドP)●アムステルダム出身のYouTuber、DJ、カメラマン。日本のPOPミュージックを紹介するリアクション動画を配信するYouTubeチャンネル「Polaroid P」をきっかけに東京に移住。今後はDJや音楽制作を中心に日本国内で活動しながら、定期的にアムステルダムを行き来する2拠点生活の予定。
日本暮らしが長年の夢だったオランダ人
ーーまず、ポラロイドPさんのプロフィールを教えてください。本名はパトリックで33歳、出身はオランダのアムステルダム。生まれはアメリカだけど、3歳から7年間は親の出身地であるナイジェリアで暮らしていて、10歳からはずっとアムステルダム在住だよ。
ーーチャンネル登録者が10万人になったら日本に移住すると宣言したのはノリで? それとも本気で?もちろん本気(笑)。
日本で暮らすことは、ずっと叶えたい夢だったから。コロナやビザの問題で来日のハードルは高いと思ったけど、10万人という数の人がもし応援してくれるならきっと大丈夫だと思って。サポーターが多ければ経済的にも活動的にも後ろ盾になるからね。本当にありがたいことで感謝しています。--{}--
人生の3カ条「LOVE・PEACE・POSITIVITY」
ーーそもそも、なぜYouTubeを始めたんですか?YouTubeを始めたのは2年前のコロナ禍。アムステルダムもロックダウンがあって、DJや音楽活動がほとんどできなかった。表現する場がどんどんなくなって、これは良くないなと。だったら自分で発信しようと決めて、アムステルダムのクラブで友達と毎週集まってDJをしたり、音楽を作ったり、そうやっていい音楽を楽しんでる様子をライブ配信するようにしたんだ。
ーー家に籠もっている人たちに音楽を届けたかった?そう。僕が人生で最も大切にしていることは3つあって、それは「Love(愛)」「Peace(平和)」「Positivity(ポジティブでいること)」。人生はこの3つを守ればうまく行くって僕は信じてる。このマインドセットを保っていれば、ベストとはいえない状況もなんとか乗り越えられるはず。J-POPのリアクション動画を始めたのもその一環なんだ。
最初は自分をさらけ出すことが怖くて不安だったけど、みんなが楽しんでるのがコメントを通して分かって、自信が持てるようになった。人がたまらなく好きなことを語る姿って、見ていてすごくハッピーにならない? 僕のYouTubeチャンネルがプラットフォームになって、ポジティブなバイブスをみんなで共有でることは最高にうれしいよ。--{}--
King Gnu常田はアメリカでもスーパースターになれる
ーーなぜそこまでJ-POPにハマったのでしょう?いろいろあるけど、まず音楽そのもののクオリティが高いところ。曲も歌もテクニックがすごく熟練してる。たとえばKing Gnuでいえば常田大希さんの作曲はめちゃめちゃいいし、そこに井口さんの声が加わったら最強で、ほとんど欠点がないと言っていい。それは音楽としてすごいレベルに達しているってことだと思う。
ーーKing Gnuは海外でも評価されると思いますか?間違いないね。ドレイクやビヨンセ、フランク・オーシャンレベルのアーティストだって彼の才能に惚れると思うし、あっちで曲を出したらすぐにスターになれる逸材だと思う。常田さん自身は自分のレベルが世界に通じるものだってことは分かってるんじゃないかな。Adoが世界進出することになったように、いつか日本の音楽が高く評価されるときが来ると思うけど、日本の音楽業界は世界発信がうまくないから、世界はまだJ-POPの魅力に気づいてない。
ーー欧米の音楽と日本の音楽の違いは何でしょう?昨日、友達と一緒に東京の喫茶店に行ったんだ。老舗で、80代くらいのおじいさんが一人でやっていた。内装は木を基調にたとても落ち着く店内で、店主は一つひとつの工程に時間をかけて、とても丁寧に珈琲を淹れていた。
それを見ながら僕は友達に言ったんだ。「これが日本と欧米の文化の違いだよね」って。欧米の場合、喫茶店やカフェを生涯のキャリアにしようとは考えない。ゼロとは言わないけど、やるとしてもつなぎか一時的。でも、この店主はおそらく何十年も同じ店で珈琲を淹れていて、カップも一つひとつにこだわりが感じられた。店にあるものすべてに意味があるような気がして、これは彼の人生そのものなんじゃないかなと思ったよ。この話は日本と欧米の音楽の違いにも通じることだと僕は思う。--{}--
玉置浩二『メロディ』に見るJ-POPのソウル
ーーJ-POPの音楽性としての特徴はどうですか?やっぱり“ソウル”かな。J-POPにはソウルがある。知れば知るほどそう思う。それに、歌詞も嘘っぽくないというか、すごくリアルだよねたとえば、玉置浩二さんの『メロディ』。真実の愛を歌ってるし、ソウルがある。彼の歌い方でもそれがよく分かる。
何回聴いても、彼の才能に驚かされるよ。声がとてつもなく素晴らしいし、音域や発声のコントロールもクレイジーだよね。
宮本浩次さんはとにかく飾り気がなく、ストレートな表現がすごい。声に全感情が込められていて、やっぱりとにかくリアル。ライブ映像を見ても、嘘がない人だということがとてもよく分かるよ。『風に吹かれて』を聴いた時は、歌詞の内容は分からないけど、ほとんど泣いてしまったよ(笑)。アーティストが伝えようとしていることは、フィーリングで伝わってくる。表情や表現でね。だから僕はなるべくMVではなく、ライブ映像を見るようにしてるんだ。
ブルーハーツは「ロックバンドのあるべき姿」
ーー『青空』を歌ったブルーハーツのライブ映像にも感動してましたね。日本でああいう歌詞を書くアーティストがいるって知らなかったから。政治的で、権力を批判するようなメッセージの歌は、特に今の時代は欧米で最もリスペクトされる音楽だけど、30年以上前の日本でそんな歌があったなんて本当にびっくりしたよ。あれこそ、ロックバンドのあるべき姿だと思う。
もし僕がブルーハーツと同じ時代に生きていたら、間違いなく熱烈なファンになってたと思う。すべてのライブに足を運んで、すべての曲を生で聴いてたんじゃないかな。若い頃はみんな必死で真実を追求するし、そんなときにブルーハーツみたいなバンドの曲を聴いて育つのはとても幸せなことだと思う。--{}--
藤井 風、Ado、山下達郎……止まらないJ-POP愛
ーー他に注目しているアーティストはいますか?藤井 風さんは今の日本の音楽業界には欠かせないアーティストだと思う。自分の好きなように曲を書いて、好きなように制作して、とても自由だよね。インターナショナルなサウンドなのに、同時にすごく日本っぽい。『きらり』とか『まつり』とかがそう。英語が堪能なのに歌の中で英語は使わない。日本語にこだわりつつ、インターナショナルな雰囲気を醸し出す。彼の狙いなのかな。若くて革新的で、彼のMVはカラフルでハッピーで最高だよ!
ーー実際に会いたいアーティストはいますか?僕自身アーティストだから、誰に会えたとしても最高な経験だけど、すぐ頭に浮かぶのは常田大希、Ado、椎名林檎、山下達郎かな。Adoは声がとにかくクレイジー。
まだ若いから伸びしろもすごいし、これからどんどんレベルアップすると思う。彼女に曲を書きたい人も多いだろうし。僕が好きな曲は『ギラギラ』。フロウがやばい(笑)。
友人にもらったという1984年発売の山下達郎『BIG WAVE』
山下達郎さんは僕のレジェンド。僕を日本のシティポップに導いてくれたアーティストで、彼の『Magic Ways』はJ-POPの中で僕がいちばん好きな曲です。彼はミュージックビデオをほとんど出していないし、レコードもなかなか手に入らない。だけど最近、友人がこのCDをくれたんだ。1984年に発売された『BIG WAVE』。どこを探してもなかったのに! その友達は僕より古い山下達郎ファンで僕より愛が強いのに、これを僕にくれて本当に感動したよ。『Magic Ways』はノスタルジックな気分にさせてくれる曲で、とにかく聴いていて気分がいいんだ。最高のシティポップだと思うよ。竹内まりやさんがステージで歌って、後ろで山下さんが演奏とコーラスで参加している『Plastic Love』も伝説的なライブパフォーマンスだよ。◇
他にも米津玄師、阿川泰子、Vaundyやユーミンなど、幅広いアーティストの名前を挙げたポラロイドP。彼の守備範囲を象徴するかのように、YouTubeチャンネルの登録者も20~70代と幅広いようだ。いい音楽は国境を超え、世代を超えることもよく分かる。ちなみにポラロイドPは日本のドラマやアニメも大好きで、特に好きな番組が『深夜食堂』と『孤独のグルメ』で、いずれも全シーズン全エピソードを制覇したのだとか。ポラロイドP、アンタ熱すぎるぜ……!身近すぎるがあまり、ついおざなりにしがちだったJ-POP。その深淵なる魅力について、我々も改めて考えてみますか。