フロントマスクは基本的にクラウンシリーズ共通のテーマだが、スポーティなスタイリングを持つ(筆者撮影)


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トヨタ自動車が、2022年7月に発表した16代目「クラウン」。既報のとおり、最大の注目点は4つのバリエーションを設定したところにある。

2023年12月に乗ったのは、シリーズ中最もスポーティな設定の「クラウンスポーツ」。前輪駆動ベースの4WDという基本プラットフォームは「クラウンクロスオーバー」と共用だが、個性が確立されている。トヨタはいかにして“作りわけ”を成し遂げたのか。

クラウンスポーツの「スポーツ濃度」はいかほどか? お値段的にも期待以上の"ファン・トゥ・ドライブ"がここに
クラウン4姉妹、左からクロスオーバー、スポーツ、セダン、エステート(写真:トヨタ自動車)

クラウン4姉妹、左からクロスオーバー、スポーツ、セダン、エステート(写真:トヨタ自動車)


クラウン4姉妹には、クロスオーバー、スポーツ、そしてこのあと発売される「クラウンエステート」と、SUV的な車型が3つ用意されている。


消費者の嗜好が多様化している今、1台でマーケットすべてをカバーするのはかなりたいへんだ。今回のクラウンのようにキャラクターをしっかりわければ、異なるユーザーを対象とした各モデルのキャラクターをより掘り下げられる。

コストもマーケティングもそのぶん大変になるだろうが、その戦略が奏功しているのが、今回取り上げるクラウンスポーツである。

スタイリングを観察する

マーケットのことをよく考えていると思わせられるのは、SUV的なのに全高が1.5m台に抑えられる点。少しセダンに引き寄せたスタイリングとともに、たとえば市街地のタワーパーキングに対応するなど、実用性が考慮されているのだ。

とはいえ、スタイリングに破綻はない。テールゲートをそなえたハッチバック的スタイルだが、ウインドウグラフィクスは、リアクオーターに3つめのウインドウをもつ、いわゆるシックスライト。
そのためウインドウ下端のベルトラインは伸びやかに、前から後ろへと続く。

クラウンスポーツの「スポーツ濃度」はいかほどか? お値段的にも期待以上の"ファン・トゥ・ドライブ"がここに
ヘッドランプは左右両側の縦長スリットの中に収まる(筆者撮影)

ヘッドランプは左右両側の縦長スリットの中に収まる(筆者撮影)


同時に、ボディ各所にもこだわりのデザインが施されている。ひとつは、フロントマスクだ。

「ハンマーヘッド」とトヨタが呼ぶ、幅の狭いシグネチャーランプのユニットに「アンダープライオリティ」というボリューム感のあるバンパー一体型エアダムの組み合わせ。シリーズ共通のテーマだが、クラウンスポーツのものが最もまとまっている感がある。
もうひとつが、リアフェンダー。
リアクオーターパネルが後方にいくにしたがってしぼられているせいもあって、後輪をおさめるパネルのふくらみが大きく強調されている。フェンダーの力強い印象は、シリーズ随一だ。

クラウンスポーツの「スポーツ濃度」はいかほどか? お値段的にも期待以上の"ファン・トゥ・ドライブ"がここに
エッジを極力使わずリアフェンダーのボリューム感を強調する(筆者撮影)

エッジを極力使わずリアフェンダーのボリューム感を強調する(筆者撮影)


聞けば、ここがデザインを含めてトヨタの生産部の腕の見せどころだったようで、デザイナーの意図を生かした深い金型を作るのは至難のわざだったという。

「金型製作の担当者は“もう勘弁してください”と上司に泣きつく夢まで見たそうです。でも最終的に、ここまで立体感のあるフェンダーパネルを実現してくれました」

クラウンスポーツのエクステリア担当デザイナーは、試乗会会場でそう教えてくれた(お疲れさまでした)。

プラットフォームは共用でも特徴は異なる

クラウンスポーツが、基本プラットフォームをクロスオーバー/エステートと共用することは先述のとおり。クロスオーバーと比較すると、ホイールベースは80mm短縮。
全長は210mm短く、全幅は40mm拡大し、全高は25~30mm上がっている。

まず登場したHEV(ハイブリッド)モデルのパワートレインは、クロスオーバー「G」「X」と同様、2487cc4気筒ガソリンエンジンを使ったシリーズパラレルハイブリッド。エンジンで前輪を、モーターで後輪を駆動するE-Fourシステムだ。

先述のとおり、SUV型のクラウン・シリーズは、基本的プラットフォームを共用しつつ、パワートレインの選びではモデルによって異なる特徴を出している。

クラウンスポーツの「スポーツ濃度」はいかほどか? お値段的にも期待以上の"ファン・トゥ・ドライブ"がここに
2.4Lターボ デュアルブーストハイブリッドシステム(写真:トヨタ自動車)

2.4Lターボ デュアルブーストハイブリッドシステム(写真:トヨタ自動車)


たとえば、クロスオーバーには気持ちよく回る2.4リッターターボエンジンを使った「デュアルブーストハイブリッド」があるし、セダンには水素を燃料に電気モーターで走るFCEV(燃料電池車)があり、スポーツには外部充電式のPHEV、という具合だ。

このあと出てくるエステートについては、トヨタの誰も「お楽しみに(ニヤニヤ)」としか教えてくれないので、うっかりしたことは書けないが、少なくとも、クロスオーバーとセダンに対して、スポーツは乗ってみるとたしかにキャラクターが違う。


セダンは後輪駆動なので別格として、E-Fourのクロスオーバーとスポーツでも、ホイールベースが違っている。そして乗り味も、違う。車両の目的別に作りわけることの重要性を開発陣がよく理解し、それをはっきり結果に出している。
「クラウンスポーツはシリーズ中、最もスポーティなキャラクターであるため、サスペンションを調節しています。後輪操舵システムとあわせて、軽快なコーナリングを実現する少し硬めの設定です」

これはサスペンション担当のエンジニアの言葉だが、実際に乗ってみても、同じタイミングで体験したセダンより足まわりにしっかりした印象を得た。別の言葉でいうと、少々硬めで、カーブでの車体のロールもより小さい。


クラウンスポーツの「スポーツ濃度」はいかほどか? お値段的にも期待以上の"ファン・トゥ・ドライブ"がここに
大型モニターを2つそなえ機能性が高いダッシュボードは、左右で色分けをしたデュアルコクピットのテーマを採用(筆者撮影)

大型モニターを2つそなえ機能性が高いダッシュボードは、左右で色分けをしたデュアルコクピットのテーマを採用(筆者撮影)

クラウンスポーツの「スポーツ濃度」はいかほどか? お値段的にも期待以上の"ファン・トゥ・ドライブ"がここに
前席シートはやや重厚すぎる印象もあるが座り心地はよい(筆者撮影)

前席シートはやや重厚すぎる印象もあるが座り心地はよい(筆者撮影)


エンジンはよく回るけれど、3000rpmを超えるとかなり存在を主張する……というか、しすぎる(笑)。なので、クラウンスポーツで快適なドライブをするには、比較的ゆっくりとアクセルペダルを踏み込むよう心がけるといい。

アクセルを踏み込むスピードに関係なく、ゆっくり踏み込んでいってもトルクがもりもりっと出てくるのがわかるし、そのとき車速は十分に上がっている。周囲の交通に後れをとるようなことはない。

操舵感は、やや重め。最近のトヨタ車と共通している。でも、後輪操舵システム、サスペンションシステム、それにカメラを使って路面の状況を判断し操舵力などを変えていくPDA(プロアクティブドライビングアシスト)が連携して、期待以上に“ファン・トゥ・ドライブ”を感じられる。

GRではない“適度な範囲”のスポーティ

トヨタの開発陣によると、「HEVが好きなら、このあと登場するPHEVこそ本命ともいえるモデルなので、ぜひ楽しみにしていてほしい」とのことだ。

クラウンスポーツの「スポーツ濃度」はいかほどか? お値段的にも期待以上の"ファン・トゥ・ドライブ"がここに
今回、試乗できなかったPHEVモデルの内装はよりスポーティな仕立て(筆者撮影)

今回、試乗できなかったPHEVモデルの内装はよりスポーティな仕立て(筆者撮影)


本当にスポーツドライビングを楽しみたい人は、クラウンではなく、GRブランドのクルマを選ぶほうがいいかもしれない。クラウンスポーツは「クラウンというブランドの範囲内でスポーティに仕上げたモデル」(開発者)という注釈がつくように、適度な範囲で運転が楽しめるモデルだ。

クラウンスポーツは、運転していて安全マージンが確保されていることが感じられる。それが“適度な範囲”なのだろう。

エンジントルクやアクセルペダルの重さ、操舵感など、クルマから“もっと速く走れ”とあおってくるようなことがないのである。

一方、クラウンスポーツを街で見かけると、なかなか目立つ。これまでのクラウンは、街に溶け込むようなアンダーステーテッドなところを特徴としていたが、そこは違うのである。

590万円という価格は、所有欲を満たすスタイリングや“ファン・トゥ・ドライブ”な走りを考えると、説得力のあるものではないだろうか。

クラウンスポーツの「スポーツ濃度」はいかほどか? お値段的にも期待以上の"ファン・トゥ・ドライブ"がここに