何より暑いのだから、お洒落はあーだ、着こなしはこーだと、能書きやキレイゴトを並べている場合ではない。とにかく楽で気持ちいいやつが一番なのだ。

それはみんな同じはずなのに、センスのいい人が手掛ける夏服は、なぜきちんと見えて、だらしなく見えないのだろう。作っている本人に話を聞いた。〈前編はこちらから〉


「洋服のように着られる新感覚の浴衣で、日本の夏を楽しむ」
グラフペーパー ディレクター・南 貴之さんの
「ワイ&サンズ フォー グラフペーパー」

「極論を言えば、男にファッションは、それほど必要ない。常に同じ服だっていい」。そう語り、自身にとっての普通、好きだというものに徹底してこだわり、同じものを欠かすことなく作り続けるのが、南貴之さんが手掛けるグラフペーパーだ。

そんな彼が、創業100年を迎えた呉服の老舗、やまとが手掛ける異色の着物テーラー「ワイ&サンズ」とタッグを組んで、新しいスタイルの浴衣を誕生させた。

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「以前から浴衣が欲しくて作りたいと思っていた折に、縁あってやまとさんとつながり、お互いに面白い物作りができたらと話は進んだんです。ただ、慣れれば難しくないのかもしれないけど、やっぱり浴衣を着るのは大変だな、という当然の問題に直面して」。そこで、和装のルールを破らず、洋服みたいに着られる浴衣を作ろうということに。

ファッション業界のキーマン2人による、夏の粋な普段着

生地はグラフペーパーで定番で使っているウールのスーツ地を使用。こちらに同じく定番展開するコックパンツのウエストサイズを調節できる仕様を取り入れ、帯なしで、洋服のように気軽に着られる浴衣が完成した。

ファッション業界のキーマン2人による、夏の粋な普段着

「浴衣はポケットがなくて不便だから、インナー用として作ったヘンリーネックTの両胸にポケットを付けた」と語るように、浴衣のしきたりを守ったうえで機能性にもこだわった。さらに、足元にはスニーカー的アプローチのエア入り雪駄、アスリート用に日本のソックスメーカーから足袋のように履ける靴下を仕入れ、新しい和装を提案。

ニッポンの夏の装いが、格段に広がる可能性を示してくれた。

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「着る人が思うように自由に着てくれればそれが一番」
ヤエカ デザイナー・服部哲弘さんの「ヤエカ ライト」

毎日の生活の中で無意識に使っている日用品をつくり出すかのような、無駄の削ぎ落とされたシンプルなデザイン。そこに最小限の機能を備え、いつまでも着続けたくなるような言葉どおりの普段着を世に送り出すヤエカの服部さん。

彼が今回ヤエカ ライトで手掛けたのが、リネン100%のシャツとパンツのセットアップだ。

ファッション業界のキーマン2人による、夏の粋な普段着
シャツ2万5000円、パンツ2万9000円/ともにヤエカ ライト(ヤエカ 03-6426-7107)

長めの着丈で、肩幅・身幅にもゆとりを持たせた、ゆったりとしたリラックス感のあるシルエットなプルオーバーシャツと、同素材の紐で腰を縛るイージータイプのワイドパンツ。湿気の多い日本の夏を涼しく快適に過ごせる、爽やかなセットアップだ。

「シンプルに季節にあった素材を使おうと思っています」と語るとおり、服部さんの作り上げる服は手に取って袖を通すと、どれもそのときどきに気持ち良く着られることを念頭に置かれているのが実感できる。

今後は、「変わらず素朴で心地が良いものを少しずつアップデートしながら作り続けていければと思います。着ることで少しだけ気持ちが高揚するようなもの作りができれば」と語る控えめな声の中に強い意志を感じた。

清水健吾、山本雄生=写真(人物・静物) 鈴木泰之=写真(静物) 荒木大輔、菊池陽之介=スタイリング MASAYUKI(The VOICE)、松本和也(W)=ヘアメイク 加瀬友重、谷中龍太郎、黒澤卓也=文

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