知れば知るほど、俺にしかわからない「いいところ」ってのが出てくる。それもまた、時計の醍醐味だ。
毎年のバーゼル&SIHH取材を欠かさない時計マスターたちが見出した新作時計の「偏愛」ポイントを、普段飲み屋でも話さないほどの熱い思いを込めて縷々語っていただいた。
OMEGA
オメガ/スピードマスター アポロ11号
50周年記念 リミテッド エディション
■語る人時計ジャーナリスト 柴田 充さん Age 57
1962年、東京都生まれ。時計だけでなく、クルマやファッションにも精通。深い知識と見識を持ってジャンルを横断してモノの本質を的確に捉え、その周辺にあるライフスタイルまで見据えた文章には定評がある。

憧れのハワイとフル金のスピマス
もう20年以上前、ハワイに行ったときのことだ。ホテルのテラスで、ひとりの年配の地元住人に目がいった。Tシャツと短パンにもかかわらず、焼けた腕にはゴールドのスピマスがさりげなく着けられ、それがなんともカッコ良かったのだ。
たぶん周年記念モデルだろう。強い陽射しや潮に晒されたYGのヤレ具合がいい。いつかあんなスタイルで着けたいと今も思っている。まだまだ似合わないけど。
BREITLING
ブライトリング/ナビタイマー REF. 806 1959 リ・エディション

時計ジャーナリスト 菅原 茂さん Age 65
1954年、神奈川県生まれ。ファッション、ジュエリー誌の編集を経て1990年代初頭よりスイス時計の取材に専念し、ライフスタイル誌から専門誌まで幅広く執筆。高級ブランドの翻訳でも活躍中。

原型と見分けがつかない究極の復刻
ヴィンテージの人気にあやかって復刻モノがぞろぞろ登場してきた今日この頃。半世紀以上も時計をリアルタイムに見てきた自分には興味深い光景だが、重要なのは、歴史的傑作のそうした復刻が偏愛に相応しい感動を与えてくれるかどうか。
だが、この1本には感動した。複雑なデザインなのに見た目は原型とウリふたつ、ムーブメントも手巻きに改造するという徹底ぶり。もはや入手困難らしいのが残念だ。
PATEK PHILIPPE
パテック フィリップ/アラーム・トラベルタイム 5520P

腕白編集者 安藤夏樹さん Age 43
1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリーマガジン編集長を経て現在は腕白に。時計、家具、金融から北海道の木彫り熊まで、その守備範囲は広い。東京903会主宰。決め台詞は「散財王に俺はなる!」。

物欲アラームが鳴りやまない1本
できるヤツとは、万が一への備えが常にされているものだ。複雑機構を搭載する時計のなかには、誤操作によって壊れるものもがあるが、パテック フィリップ初の防水アラーム時計は、そうした事態への準備に余念がない。
もちろん使い勝手も抜群。
F.P.JOURNE
F.P. ジュルヌ/トゥールビヨン・スヴラン・ヴァーティカル

「クロノス日本版」副編集長 鈴木幸也さん Age 47
1972年、静岡県生まれ。’96年、ワールドフォトプレス入社。’98年、時計専門誌への異動を機に時計の世界へ。2003年、同社退社。フリーランスを経て、’05年、「クロノス日本版」創刊号から参画。

今、トゥールビヨンの歴史がつくられる醍醐味
もはやトゥールビヨンの何がすごいのか忘れられがちな現代、本作はその原点に回帰した1本だ。今を生きる天才時計師、フランソワ-ポール・ジュルヌ。彼が1999年に発表した「トゥールビヨン・スヴラン」を20年ぶりにアップデートするにあたり、かつての懐中時計トゥールビヨンと同じように、腕に置いたときキャリッジが垂直になるようにしたのが、この最新作だ。その発想力とそれをかなえたすご技にひと目惚れ。
TAG HEUER
タグ・ホイヤー/オータヴィア アイソグラフ

「WATCHNAVI」編集長 関口 優さん Age 35
1984年、埼玉県生まれ。2016年1月、史上最年少で時計専門誌「WATCHNAVI」編集長となる。バーゼル、SIHHの取材をはじめ数多くの現地取材に赴き、年間300本超の腕時計を吟味する。

新開発技術を量産機に入れちゃう姿勢に偏愛
往年の名作「オータヴィア」が定番化。
実はコレ、今年1月に発表したトゥールビヨンモデルに初搭載された技術を応用したもので、時を刻むムーブメントの心臓部が衝撃や磁力の影響を受けないんです。そしてCOSC認定。これだけ魅力的な要素が揃っていれば、いやが上にも気になります。
NAOYA HIDA & CO.
ナオヤ ヒダ/NH TYPE1B

時計ジャーナリスト まつあみ 靖さん Age 55
1963年、島根県生まれ。集英社を経てフリーに。時計、ファッションなどの記事の一方、ミュージシャンとしても活動。著書『WATCH CONCIERGE MAISON GUIDE』ほか。CD5作もリリース。

時計界のオーソリティ、飛田直哉氏入魂の一作
時計輸入商社を経て、F.P.ジュルヌ、ラルフ ローレン時計宝飾部門の日本代表を務めた飛田直哉さん。昨年独立し、業界屈指の知識、審美眼、時計愛を投入して完成させた初のモデル。
1930~’50年代の腕時計に範を取り、熟練の手作業と最先端高精密機械加工を融合。
※本文中における素材の略称は以下のとおり。SS=ステンレススチール、K18=18金、Pt=プラチナ
星 武志(エストレジャス)=写真(静物) 石川英治(Table Rock.Studio)=スタイリング(静物) 柴田 充、髙村将司、渋谷康人、水藤大輔、中村英俊=文