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メガネチェーン店「OWNDAYS(オンデーズ)」社長に就任し、倒産寸前だった会社を再生。いまや12カ国310店舗以上の一大チェーンにまで成長させた田中修治さん(41歳)。

そんな再生物語を、小説『破天荒フェニックス』で綴った田中さんだが、この10年間 OWNDAYSに携わるなかで、会社や働き方に対する意識も変化していったという。

「子供が生まれて、やっぱり変わりましたね。自分ひとりであれば会社の5年後については考えても、本当の意味では未来のことなんて考えてなかった。でも今は子供が大人になったとき、良い社会であってほしいと切に思うし、自分がそのために何ができるかっていうのを真剣に考えるようになりました」。

未来の日本のために、20年後・30年後も会社として個人として、必要とされている存在でありたい。守るべきものができたとき、自然と目標は大きくなった。

「未来を考えたとき、もうメガネがあるかないかっていうのはわからない。正直、ない未来のほうがありうると思っています。でも先のことだから知らないよっていうのはOWNDAYSで働いている若い子やこれから入ってくる子に対してあまりに無責任だと思うし、だからこそ、変わりゆく社会の変化に柔軟に対応し続けていけるよう、ひとりでも多く優秀な人材が惹きつけられて、尚且つ楽しく働けるようなカルチャーと環境をどう作るか考えています」。

「男なら荒れた海を越えていけ」オンデーズ社長・田中修治(41)の「破天荒」な生き方【後編】

会社というのは、人の集まり。もし20年後にメガネというプロダクトがなくなったとしても、優秀な人材と、楽しく働ける環境があれば、きっと、ほかのことでもうまくいく。

「仕事は遊び。

楽しまないと。だってつまらないと思いながら仕事してたら、つまらない製品しかできないですよ」。

今はOWNDAYSで働く人にどれだけ楽しく、生き生きと働いてもらえるかを大切にしているという。

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「何者かになりたい」

「男なら荒れた海を越えていけ」オンデーズ社長・田中修治(41)の「破天荒」な生き方【後編】

自身の性格について、面倒くさがりだと語る田中さん。しかし、面倒くさがりにも関わらず、なぜ何度もゼロから起業や事業の再生に乗り出せるのだろうか。

そう尋ねると田中さんは「なんでかな。自分でもなんでこんな面倒くさいことやってんのかなーって思いますよ」と言って笑った。

しかしその根幹には、幼少期からのブレない想いがあった。

「子供のときから、ずっと“何者か”になりたいんですよ。でもまだ何者にもなれていないわけで。そのギャップを埋めるために、ここまでやってきているのかもしれない」。

有名人になりたい、歴史に名を残したい、たくさんの人を救いたい……田中さんの語る“何者か”とは、一体どういう人物なのだろう。

「自分がいたことによって、世の中が少しでも変わったことを実感したい。それを実感できるぐらいの“何者か”になりたいですね。だって僕が明日もし死んでも世界はなにも変わらないじゃないですか。僕の父がまさにそうだったから」。

“何者かになりたい”、その根幹には少なからず亡き父への想いがあった。

「僕の父は、58歳の若さで急逝しました。ちょうど僕がOWNDAYSを始めた翌月のことです。でも今となっては誰も彼のことを知らないし、思い出さない。話題にも上らない。息子である僕ですら、たまにしか墓参りに行きません。まだ亡くなって10年やそこらなのに存在が消えてしまう。そこに対する虚しさ……漠然とした恐怖みたいなものが、ずっとあるんですよ」。

田中さんの原動力はそこにあるという。

「男なら荒れた海を越えていけ」オンデーズ社長・田中修治(41)の「破天荒」な生き方【後編】

「死ぬまで別に何者にもなれないかもしれないし、もしかしたら俺が居たことでけっこう世の中変わったじゃんってちょっと満足して死ぬのかわかんないけど。『あれをやったのはうちの親父だぜ』って子供が自慢してくれたら、一番うれしいかな」。

人類の進化のなかでは小さな一歩かもしれない。しかしそんな前進する一歩を、自分でつくりたい。

『タクシーに揺られながら、流れ行くシンガポールの幻想的な夜景を眺めていると、亡くなった父親に言われた言葉が頭にふとよぎった。『男なら荒れる海を越えていけ。そして自分を試してみろ。広い大海原で思うがままに舵をとれ』
(『破天荒フェニックス』P.330より)

『破天荒フェニックス』の一節に書かれているように、OWNDAYSは、大荒れの海で自由に舵をとる船長と、その破天荒な航海を楽しむクルーが一丸となって進む船のようだ。

そして田中さんなら、たとえこの先、船が難破したとしても、きっとまたどうにかして新たな港に辿りつけるのだろう。

藤野ゆり(清談社)=取材・文 小島マサヒロ=撮影

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