シーズン連載「海辺の看板娘という名の愉悦」
酒を通して人を探求する大好評ドキュメンタリー連載、「看板娘という名の愉悦」。普段は首都圏の飲み屋街を練り歩く筆者だが、せっかくの夏。
「海辺の看板娘」といえば、このスポットを外すわけにはいかない。ザ・湘南ともいえる江ノ島だ。
最寄駅は小田急江ノ島線の片瀬江ノ島駅だが、旅の情緒を取るならやはり江ノ電だろう。江ノ島は海もグルメも楽しめる観光スポットとして有名だが、平安時代には空海が修行に励んだともいわれている。


飲食店や土産物店が立ち並ぶ弁財天仲見世通りは大賑わい。店頭でさまざまなフードを販売していた。それにしても暑い。


ここは今年6月にオープンした居酒屋で、名物は旬の海鮮料理とふわふわのかき氷。歴史を感じさせる建物は築70年の民宿を改築したものだ。

店内に入るとテーブルを拭いている女性の姿が見えた。

好きなお酒を聞くと即答で「ハイボール」。よし、それをいただきましょう。
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こちらは湘南生まれ、湘南育ちの優衣さん(21歳)。なんと、元AKBだという。
はやる心を抑えつつ、フードメニューを見る。おすすめされるまま、金アジのフライ(2枚700円)、自家製の生しらすの沖漬け(550円)、白キス刺身(時価 ※この日は750円)を注文した。

漁獲量は湘南全体のアジの1割未満とされる金アジのフライ。肉厚サクサクで従来のアジフライ感を覆された。生しらすの沖漬けは裏メニュー。白キスも最高だ。
さて、優衣さんの話を聞こう。
「AKBファンのお姉ちゃんについて劇場公演や握手会に行っていたら私までファンになってしまって。推しメンはジャカルタに行って大ブレイクしている仲川遥香さんです」
高校2年生のときにそのお姉さんが優衣さんに言った。「『バイトAKB』っていうのができたから応募してみたら?」。素直に応募したら受かってしまったそうだ。バイトAKBとは、文字通りAKB関連のアルバイト的な仕事を任される短期雇用メンバーのこと。
「握手会の会場でファンの皆さんがメンバー宛に年賀状を書けるイベントがあったんですが、そこで年賀状を受け取って届けるバイトとか(笑)。あとはAKBのライブで『会いたかった』を歌わせてもらったり」
その後、AKBグループドラフト会議で指名を受けてNMB48に活動拠点を移す。

「両親もAKB好きなのでNMB48への加入も応援してくれました。拠点は大阪ですが、幕張メッセやパシフィコ横浜で毎週のように握手会があって。その現場に両親とおばあちゃんが来るんです。すぐに家族だとバレて周りがざわざわするのが恥ずかしかった(笑)」

現在はNMB48も卒業し、神奈川県内の大学に通っている。そんな湘南っ子の優衣さんに江ノ島の魅力について聞いた。
「展望灯台から実家が見えるんですが、友達とかは逆に近すぎてあまり江ノ島に来ません。でも、私は大好きでお母さんとしょっちゅう散歩しています」

この店で働くことになったきっかけも散歩の途中で「オープニングスタッフ募集」の貼り紙を見たこと。
「私、家では江ノ島漁港で買ってきた魚をマイ出刃包丁で捌いているんですが、海鮮居酒屋なら捌く練習もできるかなと思って」
おっと。ここでもぜひ捌いてくださいよ。



「小さい頃から食べることにすごく執着があって、お母さんの料理をよく手伝っていました。お母さんのベスト料理は肉じゃがで、私はアジのなめろうです」

「太智くんは同い年なんですが、捌き方を詳しく教えてくれました。出荷された魚の下側は傷みやすいから下側から捌くと上手くいくよとか、豆知識がすごい」
そのおかげで家族から「腕を上げたねー」と言われるほど上達した。釣った魚を自宅で調理した一例がこちら。

ところで、BGMがずっとサザンオールスターズなのが気になる。理由を聞くと、店長の翼さんが大ファンで基本的にサザンしかかけないそうだ。
さて、締めはかき氷。もちろん、削るのは優衣さんだ。

「盛り付けにちょっとしたコツがいるんです」と言うので見ていると、なるほどデカ盛りだ。

しかし、これがふわふわで口に運ぶとすぐに溶ける。イチゴのシロップとチャイのハーモニーも完璧だ。
というわけで、優衣さんはファンに愛され、家族に愛され、店のスタッフに愛され、そして江ノ島に愛される看板娘だった。
最後に、読者へのメッセージをお願いしますよ。

【取材協力】
隠れ小屋 江ノ島
住所:神奈川県藤沢市江の島1-6-30
電話番号:0466-28-1234
www.facebook.com/turimaron/
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石原たきび=取材・文