今年のボジョレーヌーヴォーの解禁日は11月21日(木)。つまり今日! ということは知っていても、その中身まで理解している人は少ないのでは? と、ワインの伝道師・萩野浩之さんを訪ねた本企画。
前回の8門8答で話題に出た自然派の造り手によるボジョレーヌーヴォーについて、今回は深掘りしていこう。
萩野浩之さん●1966年大阪出身。ホテル勤務ののち、ワインのインポーターとして25年間勤務。その後独立し、2017年自然派ワインに関するアドバイスやイベントの企画などを行う「アトリエ オッペ」を設立。ボジョレーヌーヴォーは今、いちばん面白いかもしれない
ボジョレーヌーヴォーが流行ったときは、極端に言えばどんなワインでも売れたため、大量生産のワインなどがたくさん市場に出回りました。なかにはペットボトルのものまであったくらいですから。この時期にボジョレーヌーヴォーを飲んだ人は、美味しくないという印象を持っているかもしれません。
それが15年くらい前から日本にも自然派のボジョレーヌーヴォーが入ってくるようになり、10年ほど前から大きな変化が生まれてきました。

一般的なワインは、ぶどうに亜硫酸を加えることで微生物を抑え、培養酵母を入れて発酵させます。それに対して、自然派のワインはぶどうの皮についた酵母や空気中にいる微生物により発酵を促します。ぶどうの持っている味をできるだけ活かして造るのが自然派ワインです。
天然の酵母を使っていますから、人がコントロールできることには限りがあります。
ピエール・オヴェルノワさんという自然派ワインの神様のような方が来日されたことがありました。

「ナチュラルワインには、醸造上のトラブルを感じるものが確かに多く、香りや味に違和感を覚えることがあります。みなさんに分かってほしいのは、この欠点をなくすことはできるんです。ただ、この欠点“だけ”をなくすことができないんです」
とおっしゃったんです。
熱劣化や酸化は別として、ワインの欠点の多くは微生物によるものです。亜硫酸を入れれば、微生物の働きを抑えられることは分かっている。でも微生物はいいものと悪いものに分けられるわけではないんです。亜硫酸を入れたら人間にとって都合の悪い微生物を抑えられるけれど、造り手にとって大事な酵母や微生物も同時に失うことになってしまう。
こういった造り手の思いがワインに反映するのが、自然派ワインの面白さです。オヴェルノワさんが言うように、自然派ワインには酸味が強いもの、独特の香りがしたり、濁っているものもありますが、それらはすべて個性だと思ってほしい。

さまざまな個性を持つ自然派ワインが揃って、選択肢の幅が広がり、面白味が増しているのが現在のボジョレーヌーヴォーなんです。
決して勘違いをしないでほしいのが、どちらが正しいとか、ホンモノだとかという話ではないということです。クオリティであったり、価格であったり、個性であったり……。
ボジョレーヌーヴォーを誰かと楽しむのであれば、それぞれ違う作り手のものを持ち寄って、飲み比べてみるのも楽しいと思います。同じガメイで、同じ製法で、ここまで違うのかと思うはずですから。
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ナチュラルワインはどんどん味が変化します。その変化を楽しむのもオススメです。1~3万円ぐらいの小さなワインセラーがあるのですが、たいていは仕切りを外すと、コルクを挿した状態のワインを縦に6本ぐらい入れることができる。

その日に飲むワインを買ってきて、1杯飲んだらそこにしまっておく。次の日はまた新しいワインを開けて、同じようにする。こうして我が家では、常に5~6本が空いている状態で、毎日1杯、数種類ずつ飲んでいます。そうすると、抜栓から飲み終わるまでに1週間くらいかかるんです。
自然派のボジョレーヌーヴォーは酸化に強いものが多いですから、1週間の味の変化を楽しむのもいいですね。これは、普段のワインの楽しみ方としてもおすすめです。
ボジョレーヌーヴォーは、ワインの入門としてもいいんですよ。
まさに本日解禁されたボジョレーヌーヴォー。萩野さんの言葉を参考にしながら、ワインを楽しむきっかけになったら幸いだ。
林田順子=取材・文