連載「Camp Gear Note」
90年代以上のブームといわれているアウトドア。次々に新しいギアも生まれ、ファンには堪らない状況になっている。
世界中でアウトドアブランドが設立された1970年代。「Marmot(マーモット)」も同時期の1974年に誕生。創業のきっかけにもなったダウンジャケットなどのインシュレーションウェア(中間着)が多くの登山家に支持され、ブランドを代表するプロダクトになっていく。
その後いくつかの転機を経て、今やほかとは一線を画す存在となった。すべては創業時から今も受け継がれる先見性、こだわりの賜物なのだが、具体的には何か? デサントジャパン株式会社で、アウトドア営業部に勤める齋藤 淳さんに教えてもらった。
学生が立ち上げたアウトドアサークルが発展

——最近、コラボやリバイバルで注目される「マーモット」ですが、そもそもどういったヒストリーが?
アラスカの氷河の研究に参加していたエリック・レイノルズとデイヴ・ハントリーが、ガレージブランド的にスタート。氷上で受ける授業をいかに快適にするか悩んでいた彼らは、大学の寮を工房にしてダウンウェアと、-45度まで耐えられるスリーピングバッグを製作しました。
それより以前にマーモットクラブという、アウトドアサークルがあり、なんでも、氷河を登るのが入団条件だったとか。そして、1974年に友人のトム・ボイスを招き、コロラド州グランドジャンクションにて小売店「マーモット マウンテン ワークス」を創業しました。
——相当な小規模だったようですが、なぜ成長できたのでしょう?
設立メンバーのひとりであるトムがブランド創設年に、ペルーで映画プロデューサーと出会います。その男から、「108着のダウンジャケットを1週間で作ってほしい」とオーダーされ、トムたちは無事にミッションを遂行。
『Golden Mantle』と名付けられたそのプロダクトは、クリント・イーストウッド主演の山岳アクション映画『アイガー・サンクション』に提供され、一気に「マーモット」の名前を広めるのに貢献しました。

——ミニマムだからこそ最新技術に対する反応が早かったのですね!
素材選びの妙も素晴らしいですが、彼らはアイデアマンだったようです。脇下ベンチレーションや袖口のベルクロ、パウダースカートなど、現在のアウトドアアウターに採用されているギミックの多くは、「マーモット」が元祖だったようです。
単純なメンズのミニサイズではないレディース用モデルの展開、ULカルチャーのベースであるライトパッキングの提唱など、さまざまなチャレンジも行いました。結果、小さなガレージブランドから、機能性特化のブランドとして、山のプロを中心に知られるようになったそうです。

——プロに評価されマスに広がっていくのは、スポーツブランドも同じですよね。
当時からシリアスクライマーや山岳ガイドをサポートし、そのレスポンスをプロダクトに反映させる姿勢がありました。今も同じ手法を継承し、実地テストの情報は大切にしています。
例えば、単独で北極探検をしている角幡唯介さんの意見です。氷点下の世界で活動するのが常の彼にとっては、ダウンですら力不足。自分から発生する湿気によって、保温性が衰えることがある。
旧モデルに最新技術を投入してリニューアル

——そういった情報を集積した最新モデルはなんでしょう?
いろいろありますが、私は「ウォーム パルバット ジャケット」がオススメです。オリジナルは’90年代に大ヒットした「パルバット パーカ」。ですが、最新の機能素材プリマロフトとゴアテックス インフィニアム ウインドストッパーによってアップデートを図っています。
過去モデルを忠実に蘇らせるのも素敵だと思いますが、「マーモット」に100%復刻はありません。テイストやデザインなどは、当時のものを採用することもありますが、素材やテクノロジーは考えられる限りの最新版を搭載します。それがアウトドアブランドのあるべき姿ではないでしょうか。



——今後はどういった展望を?
90年代のストリートブームで「マーモット」は人気ブランドとして浸透しました。おかげで、当時の若者がファッション業界の舵を握るようになった今、再び脚光を浴びることに。有名セレクトショップとのコラボも多数発表させていただきました。成長のためにはまず、みなさんに知ってもらうことが大切です。
INDEX:イエティ、オガワ、オピネル、カリマー、コールマン、ザ・ノース・フェイス、スノーピーク、ヘリノックス、マーモット、ムラコ、モンベル、ロッジ
金井幸男=取材・文 平安名栄一=写真