看板娘という名の愉悦 Vol.98
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。
予定のない休日の午後は、美味しい料理をツマミに美味しいお酒を飲みたくなるもの。しかし、そんな都合のいい店は……あるんです。
駅南口から徒歩3分。目指す「酒女 うろこ」に到着した。

昨年11月にオープンしたばかりで、メディアは初掲載だという。営業時間は、なんと14時から21時。昼飲み派にとっては非常に嬉しい。

訪れたのは開店直後の14時過ぎだが、すでにお客さんが入っている。

味のある筆文字メニューだ。これが活字だったら風情はずいぶん変わってくる。かなりこだわりのラインナップだが、気になるお酒を発見。「どぶビール」(680円)って何ですか?
看板娘によれば、「奈良で300年の歴史を持つ久保本家酒造のどぶろくをハートランドで割ったもの。度数は高いけど飲みやすくて美味しいんですよ」。いただきましょう。
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こちらは料理長の綾香さん(30歳)。「酒女」は海女(あま)と掛けたのかと思ったら、イタリア語で酒を意味するamor(アマ)から取ったそうだ。さらに、南阿佐ヶ谷にあるやきとんと地酒が売りの本店、「こたろう」の「た」を抜いて「うろこ」とした。

「最初は『魚のうろこまで大事に使おう』という意味だったので、さっきのは後付け(笑)。皮は煮出してスープにするし、アラもちゃんと使います。
これは料理もかなり期待できそうだ。

おすすめを聞くと、「今日はプリプリの車海老が入っていますよ」。素晴らしい。

国内ではトップクラスの生産量を誇る姫島の養殖車海老は味が抜群。綾香さんも「めっちゃ好き」だという。

よし、「活!! 車海老踊り喰い」(780円)と、お通しは「3種」(500円)でお願いします。

光り輝く「どぶビール」は酒を酒で割っているにも関わらず、喉の奥にすっと入る。これは目からウロコが落ちた。
お通しは左から「あん肝の灰汁煮」、「納豆のチヂミ」、「アボカドの南蛮漬け」。いずれも丁寧な仕事ぶり。
そして、何といっても車海老がすごい。
さて、この店は綾香さんが料理長で、奈津子さん(32歳)が大将という布陣。「自分たちが食べたい料理を出す昼酒場をやりたいね」という野望が一致していた。そこへ、本店の「じゃあ、2号店としてやりなよ」というお誘い。かくして、この名店が生まれた。

そして、カウンターに座っている紳士はご近所でバーを営むジローさん。
「綾香のいいところ? 明るい、アホ……それから」。
綾香だけに「あ」で3つ揃えましょうよ。
「そういえば、最近酒の席で寝なくなったんだよ。だから、『あー、びっくり。寝なくなったね』にしときましょう」。

なお、ふたりが捨てないのは食材やお祝いカードだけではない。開店祝いでもらった花も奈津子さんがドライフラワーにした。

ところで、メニューにある謎のイラストが気になります。
「あれは、なっちゃんが毎日描いているんです」。

「この髪って実は天パーで、私たちの間では『きれいなパーマだね』『地毛だよ』というのが定番のやりとり」。
NEXT PAGE /「どぶビール」を飲み干して、酔いもきっちり回ってきた。綾香さんが一番好きなお酒を注文しよう。
「完全に日本酒です。うちはメニューにあるもの以外も含めて、常に30種類以上おいています。冬なので燗酒なんていかがですか?」。
いただきます。

ふたりは千葉県いすみ市にある木戸泉酒造で行われる杉玉作りに毎年参加している。

夜は打ち上げで杜氏や蔵人たちとひたすら日本酒を飲む。

ここで、綾香さんが何やらビニールの袋を取り出してきた。聞けば、お母さんからのクリスマスプレゼントだそうだ。
「靴下、お菓子、ビタミンCのサプリが入っていますね」。

お酒も料理も人も、すべて優しい店だ。いろんな意味で満足した時点でお会計。外はまだ明るい。
「では、サービスの日本酒ケーキと出汁割りをどうぞ。日本酒ケーキはクリスマスの時期限定のものですが、魚介とお野菜の出汁割りは一年中お出ししています」。

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【取材協力】
酒女 うろこ
住所:東京都杉並区阿佐谷南3-26-13
電話:03-6336-4889
www.instagram.com/uroko.asagaya/
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石原たきび=取材・文