ドレスシューズのアッパーにスニーカーソール。次世代シューズとしてラグジュアリーブランドも全力をあげて作るこのコンストラクションを、おそらく世界で初めてものにしたのが「オルフィック(ORPHIC)」だ。
そのコレクションはお披露目一発目から、1LDKやカンナビスといった気鋭ショップがオーダーをつけた。コラボレーションも枚挙にいとまがない。ジョン ローレンス サリバン、フェノメノン、ミスタージェントルマン、ヨシオクボなど、錚々たる面子が揃う。
デザイナーの白川貴善には別の顔もある。ミュージシャンがそれである。
ナイキ、アディダス……500足超のコレクション
住まい選びはスニーカー部屋を確保することから始まるという白川。
「前回の引越しは2往復したんですが、2往復目は1回目よりも明らかにサイズの大きなトラックがきました(笑)」。
エア フォース 1、NBAプレーヤーのスコッティ・ピッペンが愛したエア マエストロ、そしてアディダスのバッドランダー……無類のスニーカー好きを公言する白川が所有するコレクションは気付けば500足をくだらない。
「今でも買いますね。オルフィックを立ち上げた今はサンプル代として計上できるから夢のようです(笑)。ただ、買ったはいいけど靴箱にしまったままのスニーカーがたくさんあります。ほら、普段は自分の靴を履かないわけにはいかないんでね。痛し痒しです(笑)」。
バンド活動と同じ感覚で始まった靴作り
「あるとき、ふとドレスシューズを履きたい欲が芽生えました。けれどずっとハイテクスニーカーばかり履いてきた自分に、いわゆるドレスシューズは無理だろうなって思いました」。
そうして白川は閃いた。スニーカーのソールをくっつければいいんじゃないかと。
なんのキャリアもない人間がいきなり靴を作るというのは驚き以外のなにものでもないけれど、そもそものミュージシャンとしての活動がそんな感じで始まった。
「映像系の仕事に就きたくて、そっち系の学校に通っていました。ミュージックビデオを作りたかったんです。その頃は宇田川町の“シスコ坂”界隈が溜まり場。周りは音楽やファッションをやっているやつらばかり。仲間から声をかけられて始めたもののひとつがバンドでした」。
今や両足突っ込んでいる音楽業界だが、実はバンドを組むまでギターさえ触ったことがなかったという。
ドレスシューズ由来の木型と製甲
ファーストコレクションに並んだのはウイングチップにスニーカーソールを掛け合わせた「ヘリオン」。今もブランドの顔としてクリーンナップを務めるモデルである。

アッパーデザインにウイングチップを選んだのは、クラシカルなドレスシューズに属しながらカジュアルに振っても違和感がない懐の深さを感じたからだった。その読みは当たって、「上がってきたサンプルを見たときに、これなら結婚式の二次会くらいなら行けるぞと自信を深めました」。
木型には、ドレスシューズのそれを選んだ。

「(スニーカーの底付けでポピュラーな)ヴァルカナイズド製法の靴にもそれっぽい靴はあったけれど、スニーカーの木型で作るとどうしてものっぺりした顔になる。オルフィックは木型のチョイスから始まるといっても過言ではないほどに、木型にはこだわってきました。ただ、言うは易しで、工場にある膨大なドレスシューズ用の木型の中からスニーカーのソールに合わせられるタイプを探す作業は、ひたすら神経を消耗しました(笑)」。

ていねいな製甲も見どころのひとつ。オルフィックがローンチから浮気することなくお願いしている工場は、製甲部門にドレスシューズとスニーカーの2部門を持っており、白川は迷うことなくドレスシューズの製甲部門をオルフィックの担当に指名した。
肝心のソールにはビブラム社のものを選んだ。「スニーカーは好きだったが、いわゆるローテク系には食指が動かなかった。石を踏みつけた感触がダイレクトに伝わるソールがどうにも苦手で」という白川にとって、文句のつけようのない厚みと弾力性があった。
軌道に乗ったオルフィックはオリジナルのソールもメニューに加えられるようになった。
こうしてスタートしたオルフィックの靴はいかにして生まれるのか。つづきは後半で。
白川貴善(しらかわたかよし)●シューズブランド「オルフィック」ディレクター。2011年にオルフィックをローンチ。BACK DROP BOMB、AA=、Noshowのボーカルも務める。
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アルファPR 03-5413-3546
竹川 圭=取材・文