看板娘という名の愉悦 Vol.109
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。

雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。

泣く子も黙る繁華街、東京・銀座。とくに8丁目は高級飲食店が軒を連ねる。今回訪れたのは、そんな一角にある「ハイパースナック サザナミ」。

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何が“ハイパー”なのかは後ほどわかる。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
こちらのビルの地下1階にどうぞ。

店内の様子はまさにスナックだった。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
看板娘の姿も見える。

「座って1万円」などと言われたらどうしようと、若干ドキドキしながら席に着く。しかし、ドリンクメニューを見るとほとんどのお酒は900円。

予想以上にリーズナブルじゃないか。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
1000円のカバーチャージにワンドリンクが含まれる。

というわけで、注文したのは看板娘が好んで飲むという「キンミヤ焼酎のジャスミン茶割り」。


看板娘、登場

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
「お待たせしました〜」。

こちらは、仙台出身のひかりさん(27歳)。2016年にオープンした渋谷店で時々働いていたが、2018年6月から銀座店のオープニングスタッフとなった。

両店のオーナーは町田博雅さん。90年代から都内の有名クラブでDJ SAZANAMIとして活躍し、2006年に渋谷でDJバー「BAR SAZANAMI」を開いた人物だ。

「90年代に一緒にクラブで遊んでいた友達もおじさんやおばさんになったでしょ。バーでどんちゃん騒ぎをするよりは、しんみりと飲みたい年頃。これがスナックに業態変えした一番の理由ですね」。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
人と人が出会う“ハイパー”な場所にしたいという思いもあった。

最初は「スーパースナック」にしようとしたが、調べたらすでにあったため「ハイパースナック」になったそうだ。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
「会員制」ならぬ「快飲制」。

壁のアートワークはFUJI ROCK FESTIVALのメインビジュアルを担当している渡辺明日香さんに依頼した。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
カラフルで幾何学的な図形を用いた意匠を得意とする女性デザイナー。

さて、仙台で生まれ育ったひかりさんは外で遊ぶのが大好きな子供だったそうだ。

「家の近くに名取川という川があって、対岸に渡るチャレンジとかをお姉ちゃんたちとしてました。流れがけっこう速くて、何度も転びながら渡り切った覚えがあります」。

そんなお姉ちゃんとのツーショットが下の1枚。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
身体中に何か貼ってありますが……?

「当時大好きだったセーラームーンの衣装を折り紙で作って貼っています(笑)。ずっとお姉ちゃんの真似ばかりをしてきて、高校も部活もバイトも同じでした」。

初めて自分の意思で選択したのは上京して服飾系の専門学校に通うということ。卒業後はアパレル販売やスタイリストのアシスタントなどの職を経て、現在はネイリストとして活動中だ。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
スナックで磨いた話術がネイルの現場でも生きている。

腕には「CASIO CALCULATOR」。女性っぽい華奢な腕時計は好きじゃないという。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
渋谷のセレクトショップでひと目惚れしたもの。

ちなみに、この店は曜日ごとに女の子、いわゆるママが変わる。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
店の歴史を物語る数々のチェキたち。

常連客はひかりさんについて、「いつ会っても楽しくお酒を飲めるのがすばらしい」と評する。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
「これぞ、スナックの醍醐味ですよ」。

彼はひかりさんがキンミヤ焼酎のジャスミン割りが好きだと知ると、専用のボトルを入れてくれた。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
味のあるイラスト付きのキープボトル。

「シフトじゃない日も普通にお客さんとして飲みに来るので、ものすごく嬉しい」とひかりさん。

さらに、この日はたい焼きの差し入れも。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
たい焼きの名店「神田達磨」の築地店で購入。

会計システムがやや不明瞭な従来のスナックとは異なり、ここは先述したように1ドリンク付きのチャージが1000円。その後は1杯ごとにお金を払えばよい。カラオケは1曲200円。

懐に優しい料金設定のせいか、23歳の男性も来店していた。

「新聞記事で『スナックに行く若者が増えている』という記事を読んで、いろいろ検索したらこの店を見つけたんです」。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
今日で3回目というから立派な常連客ですよ。

さて、お会計をする前にひかりさんにお願いをした。「何か1曲、歌ってくださいよ」。常連客たちも「いいねえ」とプッシュ。しばし悩んだ末に入れたのは工藤静香の『慟哭』である。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
中島みゆき作詞の名曲。

「ひと晩じゅう泣いて彼への想いに気付く」という内容の歌詞だが、なぜこれを? 「いやあ、なんとなく。

今、練習中なんです」。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
最終的にはノリノリで歌い切る。

非常に居心地の良い空間だった。これは常連客や先ほどの若者のようにリピート間違いなしだ。後ろ髪を引かれながら「お会計を」。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
「また来てくださいね〜」。

読者へのメッセージもお願いします。

銀座の“ハイパースナック”で、看板娘がキンミヤをボトルキープしていた
ハイパーでアットホームなお店でした。

【取材協力】
ハイパースナック サザナミ
住所:東京都中央区銀座8丁目5-19 園枝ビルB1F
電話:03-3289-5250
http://hypersnack.com

 

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石原たきび=取材・文

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