「NBAのオフコート事情」って?
新年度。出会いや別れのこの季節、新たな役職に就き、より責任ある立場となった人も少なくないだろう。
初回は、“キング”の異名を持つレブロン・ジェームズだ。
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Helluva win last night fellas!! Perfect way to go into the break on a high note! Miss you boys already! @antdavis23 @javalemcgee @greenranger14 AB, @rajonrondo @acfresh21 @kuz @qcook323 @dwighthoward Dudz @troydaniels30 @boogiecousins @caldwellpope #LakeShow #GangGang #Slimes
LeBron James(@kingjames)がシェアした投稿 – 2020年 2月月13日午後1時41分PST
16年連続のオールスター選出、3度のNBA王者という実績を誇り、常にチームの中心選手として活躍を続けるレブロン。説明不要のスーパースターの彼が、実はキャリア中盤で大きな過ちを犯し、現在は数年前とはまるで違うタイプのリーダーへと変貌したことをご存知だろうか?
今回は、オーシャンズでも日頃からお世話になっている敏腕カメラマンにして業界No.1のNBAオタク、清水健吾さんに解説を依頼。長年NBAをウォッチする彼が見た、レブロンの変化から学び取るべき「リーダー像」とは?
今回のゲスト
清水健吾●1979年生まれ。2015年清水写真事務所設立。現在はオーシャンズを始めとするファッション誌やカタログなどで活躍。
高卒ルーキーから絶対的エースへ
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Love y’all just as much if not more! THANK YOU! . #ThekidfromAKRON#TheManInTheArena
LeBron James(@kingjames)がシェアした投稿 – 2019年11月月12日午後11時32分PST
オハイオ州アクロン生まれのレブロンは、母子家庭の厳しい環境で育った。しかし、努力に努力を重ね、早くして才能を開花。高校卒業後、そのままNBAへ挑戦した。ほとんどの選手は大学を卒業してNBA入りするので、非常に珍しいケースである。
超豊作と言われた2003年のドラフトで全体1位指名を受け、地元球団のクリーブランド・キャバリアーズに入団したレブロンは、初年度から新人王を獲得。プロ3年目以降はチームの絶対的スターとして結果を求められる立場となり、かつて所属したマイアミ・ヒートとクリーブランド・キャバリアーズにチャンピオンの称号をもたらしてきた。
清水さんは前置きとして、キャリア初優勝を成し遂げたマイアミ・ヒート在籍時のレブロンをこう振り返る。
「レブロンは、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュという圧倒的な個性とともに“BIG3”を形成します。彼はチームメイトの不調や怪我を圧倒的なパフォーマンスでカバーし、何度もその手でチームを窮地から救ってきました。それを受けて、絶対的なエースであったウェイドからリーダーの座を継承し、2011-12年シーズンに悲願のキャリア初優勝、そして翌年に連覇を成し遂げたんです」。
兼ねてからリーダーとしての素質を随所で覗かせていたものの、正式にリーダーシップをとりはじめたのは、キャリア10年目に差しかかる手前くらいから。
そして、NBAのキングは地元オハイオに戻り、満を持してクリーブランド・キャバリアーズに帰還するのだが、皮肉にも彼が思い描くリーダーシップが、大きな悲劇を招くことになる。
レブロンを迎えたキャバリアーズは、初年度からNBAファイナルに進出。そして、翌年の2015-16年シーズンには昨年敗れたゴールデンステイト・ウォリアーズに大逆転でリベンジを果たし、地元に悲願の初優勝をもたらした。
試合後のインタビューで「クリーブランドよ、この優勝をお前にささげる」と泣き崩れた姿は、今でもNBAファンの脳裏に焼きついているはずだ。
天才ゆえに離れていったチームメイト
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LeBron James(@kingjames)がシェアした投稿 – 2020年 3月月8日午後4時45分PDT
ことは順風満帆に進んでいるように思える。しかし、清水さんはレブロンが少しずつ“ほつれ”を生んでいく元凶となってしまったと振り返る。
「レブロンは、キャバリアーズが初優勝したNBAファイナルで、得点、リバウンド、アシスト、スティール、ブロックのすべてで両チームトップの数字を記録しました。これはファイナル史上初のことです」。
これだけ聞くと「さすがはキング、正真正銘のスーパースターだ」と感じるかもしれない。しかし、ことはそう単純ではない。
「これはすべての団体競技で史上初だと思うけど、レブロンは全ポジションでチームのNo.1になってしまったんです。それは究極のアスリートなので素晴らしいことは間違いないけれど、そのうえに絶対的な権力まで持っている。そうなるとチームメイトは……面白くないと思いますよね? 全部自分でやってしまって、周囲は彼から信用されていないのではと不信感を抱くようになっていきました」。
これは実際の社会でも起こりうることだろう。自分が誰よりも仕事ができる、成績がいい、または社内で圧倒的に仕事ができる上司がいる。心当たりがある人もいるのではないだろうか。
「自分でやったほうがクオリティが高い」「自分でやったほうが早い」という考えから、同僚や部下から仕事を取り上げてしまってはいないだろうか。
「レブロンは偉大であるがゆえに、一部から畏怖されていたはずです。もしかすると、2018年のNBAファイナル第1戦で起きたJ・R・スミスの“世紀の凡ミス”には、レブロンからの異常なまでのプレッシャーがあったのかもしれません」。
清水さんが例に挙げた“世紀の凡ミス”は、これだ。
同点で迎えた試合終了間際、ボールを受けたJ・R・スミスはなぜかゴールに向かわず、真逆の方向にボールを運んでしまった。これを受けレブロンは激昂。すぐにJ・R・スミスは我を取り戻したが時すでに遅し。勝てたかもしれない試合で延長戦に突入し、キャバリアーズは最終的に敗戦した。
この事件が尾を引いたキャバリアーズは、結果、ファイナルで1勝もできずに準優勝に終わった。怒りを抑えきれなかったレブロンは、ロッカールームでホワイトボードを殴り、手を負傷。それを見ていたチームメイトたちはどう思っただろう。余計にレブロンを怖れるようになったのではないか。
チームのアシスト役となり、孤立から脱却
そうしてレブロンはキャバリアーズを去り、現所属のロサンゼルス・レイカーズへ移籍することになる。チーム内に悪い空気を充満させてしまった圧倒的な個性は、自らの退団という形で責任を取ったのだ。しかし、この時点でNBA史上最高傑作と言われていたレブロンは、この経験で大きな学びを得たのである。
「キャバリアーズでは、レブロンが孤立し、チームメイトが離れていってしまいました。しかし、人としても一流の彼は、自らを見つめ直し、改善することを決意したのでしょう。
では、リーグ屈指の人気球団であるレイカーズに加入し、キングはどのように変わったのか。
「別人ですよ。もちろん、自分が“キング”レブロン・ジェームズであることは理解しているはずで、試合中は緊張感も走ります。ですが、すごく明るく振る舞い、ポジティブなオーラをチーム全体に伝染させています。ふざけるときは率先してふざけ、後輩たちの面倒見もすごくいい」。
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Gotta have fun with it #LakeShow
Los Angeles Lakers(@lakers)がシェアした投稿 – 2020年 2月月11日午後2時50分PST
この写真は、まさにレブロンの今の立場が如実に表れた一枚だ。また、チーム一丸となって、良いムードを築こうとする姿勢は、コート上のスタッツ(得点やリバウンド数などの記録)にも表れている。
「レイカーズに移ってから得点が減ったんですよ。今は味方を活かすパスに徹していて、現在はリーグのアシスト王です。このまま行けばNBAの歴代総得点記録を塗り替えるペースなのに、自分がNo.1になるというエゴを捨てて、チームメイトに得点をさせています」。
それまでシューティングガードのスコアラーだったレブロンは、ポイントガードに鞍替え。
「前所属のキャバリアーズでは、圧倒的になりすぎた先に孤立が待っていました。でも、今はチームメイトと手を取り合い、リーダーにしてムードメーカーを務めているんですよ」。
人の上に立つ人間こそ、下から支えるべし
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Love my brothers!! Gang Gang for real! . Another 1 at Staples! #LakeShow
LeBron James(@kingjames)がシェアした投稿 – 2020年 1月月7日午後11時24分PST
これだけのスタープレイヤーにして、これほどまでの柔軟性を兼ね備えている選手が未だかつて存在しただろうか。自分を引き立て役にしてでもチームの勝利を優先する。そんなレブロンの姿勢は、チーム全体を大いに刺激している。だからこそ、重要局面ではチーム総意で「レブロン、頼む」と託せるのだ。
~レブロン・ジェームズから導く結論~
レブロンの軌跡から、我々は何を学ぶべきか。それは、誰かと一緒に仕事をする以上、「周りを信頼し、みんなで支え合う」という協調性や謙虚な姿勢の重要さだ。
新入社員として入社してから努力を重ね、結果、会社で一番の稼ぎ頭や花形を任せられることになるのは素晴らしいことだ。しかし、そこで周囲に努力を強要したり、自分がトップだと過信して声を荒げ、仕事を取り上げ、すべて自分で解決したりしようとすると、チームは崩壊の一途を辿ることになる。
まさにレブロンが身をもって経験してきたことである。
そんな人はきっと、周りから怖れられながらも「頼りになる」という評価も得ているはずだ。だからこそ仲間に心を開き、全員で目標をクリアするためにときにサポート役に回ることで、チーム全体が活性化し、パフォーマンスが発揮されるのではないか。
実際、レブロン加入前のレイカーズは6シーズン連続でプレーオフから遠ざかっていたが、現在は強豪ひしめくNBAのウェスタン・カンファレンスで首位を維持し、今年の優勝候補となっている。
レブロン・ジェームズは、人の上に立つ人間こそ、下から支えることが大切だと教えてくれるリーダーなのだ。
NBAのオフコート事情●
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市川明治=取材・文