ラン活戦線、異常ありとは?
激化の一途を辿る“ラン活”に関して、概要は前回の記事で振り返った。そこで湧いてきたのは「そもそもランドセルって何?」という疑問。
ということで今回は、ランドセルの歴史や利点など、知っておきたい基礎知識にフィーチャー。
答えてくれる識者は前回に引き続き、髙島屋のランドセル担当バイヤーである野中直人さんだ。
その1:原型は江戸時代の軍モノだった!
小学生といえばランドセル。サイズや仕様にやや変化はあっても、あの独特なフォルムは我々が子供の頃から変わらない。でも、冷静に考えると日本以外でランドセルって見たことない気が……。ランドセルって、一体どんな出自を持っているのだろう?
「歴史は江戸時代、幕末まで遡ります。語源はオランダ語の“ランセル”。江戸時代末期に創設された洋式陸軍が採用したオランダ軍の布製の背嚢(はいのう)が原型です」。
え! まさかの軍モノ! それがなぜ小学生のアイコンに変わっていったのだろうか。
「通学で用いられるようになったのは明治時代からと言われています。舞台となったのは、学習院初等科。両手が空く利便性などを評価され、明治18年くらいから背嚢が通学カバンとして使われていたようです。

現在のような箱型のランドセルになったのは明治20年。
明治20年といえば、今からなんと130年以上前。そんなにも昔からランドセルが使われ続け、しかもこんなに厳格なルーツがあったなんて。驚きだ。
その2:王道の「学習院型」と、新鋭の「カジュアル型」
幕末に伝わった背嚢をベースに、進化を遂げてきたランドセル。でも、機能面でさまざまなアップデートを果たしつつ、基本的なデザインや構造はあまり変わってない。その独特な構造について尋ねてみた。
「丈夫でマチ付きの収納口に、パタンと蓋をかぶせる。構造や形はみなさんの想像するもので流通しているほとんどの製品が共通だと思いますが、そもそもランドセルには大きく分けて2型が存在します。
ひとつは“学習院型”と呼ばれます。特徴的な蓋の部分に違いがありまして……。これは『冠せ(かぶせ)』という名前なのですが、この冠せが下までしっかり伸びているものが学習院型です。

もうひとつが、“カジュアル型”。

ふむふむ。冠せの長さで二分される、と。ところで、「冠せ」って特殊な呼び方ですけど、ほかにもランドセルならではのパーツ名ってあるんですか?
「冠せの裏面のことを、そのまま冠せ裏(かぶせうら)って言ったりしますね。あとは、底面で肩ひもを留める金具は“ダルマかん”、ランドセル本体と肩ベルトをつなぐ部分を“背かん”と呼びます」
なるほど。ちょっと見栄を張りたいラン活ビギナー諸君。これらのギョーカイ用語を覚えておくと、実際に購入する際にスタッフさんから一目置かれる……かもしれない。
その3:100年以上蓄積された“小学生専用”のノウハウ
「なんでランドセルを使ったほうがいいの?」ちょっと天の邪鬼の質問だけど、これも聞いてみたい。ランドセルって6年間使ったら終わりだし、リュックやトートだっていいんじゃない? ぶっちゃけ、どうなんでしょう。
「ランドセルを使わなくてはいけない、ということは決してありませんよ。もちろん法律で決まっているわけでもないです。
ただ、歴史のお話とも関係しますが、ランドセルは日本が誇る文化であると考えられます。そしてなにより丈夫で、両手が空くから安全です。お子さんが6年間毎日のように使っても壊れないように、安全・安心を第一に考えた素材選びや製法、仕様にこだわり、蓄積されたノウハウが活かされています。これって、ほかのバッグに比べても、かなり優秀だと思いませんか?」。

「いずれにせよ、100年以上の間ずっと使われているのには、それなりの理由があるのです。また、ランドセルは小学生専用のもの。言うなれば小学生のための特注バッグです。
さまざまな面で子供たちの安全を第一に考えて作られていますし、子供たちが毎日使うものを“自分で選んで決める”最初の機会が、ずばりラン活なんだと思います。
そういう意味でも、ランドセルやラン活は、子供にとってかけがえのないものになってくれると思います。ランドセルを毎日使う本人を中心に、ご家族皆様で、いわゆる“ハレ”の機会として、ぜひ楽しんでいただきたいですね」。
その4:GPSにデジタル対応にAI搭載!? 進化は継続中
では最後に、これからのランドセルの形について。
「とにかく、いかに丈夫で、極力軽く、いかに子供たちが安心して使えるか。そこがポイントになるでしょう。前回も触れましたが、今のランドセルは昔よりもひと回り大きくなっており、そのうえでいかに軽く作るかなど、各メーカーが工夫を凝らしています。

その一環でいま人気なのは、「背当て」と呼ばれる背中に当たる部分が一回りコンパクトになっている「キューブ型」という形状です。サイズはもちろん現在主流のA4フラットファイルサイズに対応していますが、マチ部分の縫製を専用の機械で縫うことで“ヘリ”がないマチになります。そのことで、外見がすっきり見えると人気が高まっているものです。
細かいパーツも改良されていて、例えば、冠せの留め具の部分は自分で錠前を回さず、シートベルトのようにカチャッと装着できる「ワンタッチロック式」が増えていますね。あとは、安全性を高める反射板が虹色に光ったりとか。デザイン面では、冠せに刺繍やリボンが施されているものも人気です。
ゆくゆくは、本体にGPSを搭載したランドセルが主流になるなど、子供の安全性をより高めるものが出てくるかもしれません。それこそ、AIを搭載したランドセルだったり。
また、タブレット学習が本格的にスタートする本年(2020年)をきっかけに、必要とされるランドセル本体のサイズも変わるかもしれません。今後も時代に沿った機能や仕様、デザインが求められると認識しています」。
変わらないことと、変わるべきことのバランス。そこを踏まえ、真摯なモノづくりが宿る子供専用のバッグ。日本特有のランドセルって、やっぱり凄いのだ。
次回は、数多くの髙島屋のラインナップのなかで、編集部がビビっときたオススメモデルをピックアップする!
[取材協力]
髙島屋
www.takashimaya.co.jp/shopping/special/entrance/
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増山直樹=文