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「Camp Gear Note」とは…

日本でも「ガレージブランド」なる呼び名はすっかり定着した感があるが、その存在が注目され始めたのは、2008年のリーマンショック前後まで遡る。

アメリカに端を発する、セルフビルドの登山用品やキャンプギアが日本にも上陸してきたのがちょうどその頃。

流行り始めだったSNSの力を借りて、世界中の耳の早いギアフリークたちがマニアックなギアの発掘を楽しんでいた時代だった。

日本ガレージブランドの雄「ペレグリン・デザイン・ファクトリー」の創り方
いかに材料を組み合わせ、ギミックを生み出すか。それこそが、ペレグリン・デザイン・ファクトリーの得意とするところ。

「ペレグリン・デザイン・ファクトリー」は、そんな時代の中で産声を上げた、日本のガレージブランドの第一世代である。

 


自宅のベランダからブランドがスタート

日本ガレージブランドの雄「ペレグリン・デザイン・ファクトリー」の創り方
見城さんの写真事務所のデスクは、さまざまな工具や材料に囲まれ、まるで職人の作業場のよう。

社長であり、デザインとマネージメントも担当するのが見城 了さん。本職はファッションや広告、アウトドア誌などで活躍するカメラマンだ。

「僕が初めに影響を受けたのは、皆さんご存知の名作、カーミットチェアです。当時、日本にはああいった気の利いた造りのものは少なくて、味気ないキャンプ道具が多かった。ならば、自分で作ってしまおうと思ったのが、ペレグリン・デザイン・ファクトリーの始まりでした」。

日本ガレージブランドの雄「ペレグリン・デザイン・ファクトリー」の創り方
手書きしたものをイラストレーターで図面化。それをもとにサンプルを作り、アップデートを重ねていく。こちらは製品第一号となった「ウイングテーブル」のもの。

「リーマンショックで経済が不安定になった時期で、何か本業以外にも職を持とうという考えもありました。当時の日本には現在のような小規模ブランドはなくて、すべてが手探り。仕事の合間を縫って、自宅のベランダや近所のホームセンターの工作室で試作品を作っていました」。


世の中にないもの、求められているものを作る

創業当時の見城さんは、デザイナーとしての知識もなければ、職人としての技術も持ち合わせていなかった。つまり、ゼロからギア作りを始めたというのだから驚きだ。

10代で東京に出てきてから、ミュージシャン、料理人、カメラマンなどいろいろな職業を経験したそう。一見、バラバラな仕事のようだが、振り返ってみると共通しているのは「ものを作る」ということ。

根っからクリエイティブなことが好きなのだ。

製品化第二号「ポッドスタンドスター」は、10年以上売れ続けるロングセラー商品となった。

ペレグリン・デザインのもの作りの根源にも同様に、まだ世にない道具をクリエイトしたいという気持ちがある。

「製品を考えるときは、まず世の中が求めているものとか、みんなが気が付いていない価値ってなんだろう、って考えます。もちろん、『自分が欲しいギアを作ってます』と言うのが格好いいですが、商品としては世の中にまだないものや世の中が欲しているものを作ることを第一に考えています」。

国産の圧縮杉3本を組み合わせ、革紐でテンションをかけることで鍋敷きになるアイディア商品だ。

製品を考える手法は、ヒップホップのそれと似ている

天板をマジックテープで固定する発想は、ミステリーランチのバックパックのサイズ調整方法からヒントを得た。

手掛けるギアは、どれも思わず唸らされるような細かいギミックやアイデアが光る。形にするまでの手法は独特で、まるでヒップホップのサンプリングのようなものだという。

アウトドア誌だけでなく、海外の建築雑誌やアメコミ、宮大工の専門書などもアイデアソースとなっている。

「まずは気になる要素を徹底的に集めます。そこから組み合わせを考えつつ、ちょっと捻ったり、素材を変えてみたり。つまり、カット&ペーストですね。

既存のアイデアも、組み合わせ次第で新しいものとして生まれ変わります」。

確かに、これはさまざまなサンプルソースやリズムパターンを組み合わせるヒップホップの曲作りに似ている。

フレームの固定方法は、宮大工の工法を参考に。製品はアメリカンな雰囲気が漂うが、ディテールには日本ならではの発想が盛り込まれている。

見えないところまでこだわる、小さな積み重ねが大きな違いを生む

ウイングテーブルをふたつ折りにするためのパーツは、既存のもので納得いくものがなく、結局オリジナルで作ってしまった。

もちろん、アイデアだけがこのブランドの特異性ではない。素材や細かいディテール、パーツに至るまで手を抜かない。その具合が異常なほど(褒め言葉です)マニアックなのだ。

例えば、日本の自然へ少しでも還元できるようにと、木材は可能な限り、国内の森林資源を活用している。そして、そのディテールにもこだわりが満載。このテーブルの天板や脚をよーくご覧いただきたい。

よく見ると、天板の小さな板1枚1枚の角が面取りされていることがわかるだろう。

「角は丸く仕上げる方が楽なのですが、そうすると柔らかい印象に仕上がりすぎる。

手間はかかりますが、うちは敢えて面を出すように仕上げています。ここの部分、分かりますかね?」。

オーダーが細かいし面倒なので、工場の職人さんには嫌がられているのだと笑う見城さん。正直、言われなければ気が付かないほどのこだわりだが、この小さな積み重ねが、類似品が増え続ける市場でも一線を画す仕上がりを生んでいる。

同じ食材でも、切り方や火の入れ方、盛り付けで大きな差が出る料理の世界にも通じる職人技だ。

足の側面、底面に至るまで、細かい仕事が見て取れる。鍋敷き用の細かいパーツの面取りも、もちろん抜かりなし。

カメラマンの仕事で得られる膨大な情報もメリット

また、カメラマンとしての仕事も製品に大きな影響を与えている。

「撮影でいろいろなところに行ったり、人に会って話を聞いたり、持っている道具を見たり、使い方を教えてもらったりする機会がたくさんあります。最新のファッションや道具、情報に触れる機会も圧倒的に多いことはメリットですね」。

取材で出会った風景やアイデアは次々製品に反映する。

例えば、下の写真のギアハンガーの色合わせは、取材で訪れた山中湖から着想を得たもの。ファッションの撮影で目にする形や色合わせも、大いに参考になっているそうだ。

木と木の間に渡して、道具を引っ掛けられるギアハンガーは、ほかに展開する色味も自然の風景がベースになっている。

ユーザーの反応こそがモチベーションとなる

10年以上に渡り、カメラマンとガレージブランド、2足の草鞋を忙しく履き続けるモチベーションはどこにあるのだろうか。

「やっぱり、アイデアがうまくハマって世の中にないものを作ることができたときの快感がひとつ。あとは、キャンプ場で知らない人たちが僕の作ったギアを使ってくれているのを見る瞬間は、冥利に尽きます。世の中から反応があるってことは、すごく面白いし、幸せなことじゃないですか」。

常に新製品の構想が頭の片隅にあるという見城さん。きっと今日も試作に励んでいるに違いない。

現在、リーマンショック以上の未曾有の経済危機の中、小規模なブランドはどこも岐路に立たされていることは想像に難くない。私たちからの反応こそが、素晴らしいブランドのモチベーションを保つための唯一の手段だ。

この時間を乗り切ったとき、また彼らがガレージやベランダから、どんな新しい道具を届けてくれるのか。未来への期待も込めて、皆さんの応援の声を伝えてほしい。

[問い合わせ]
ペレグリン・デザイン・ファクトリー
03-6712-2821
www.peregrine-f.com

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「Camp Gear Note」
90年代以上のブームといわれているアウトドア。

次々に新しいギアも生まれ、ファンには堪らない状況になっている。でも、そんなギアに関してどれほど知っているだろうか? 人気ブランドの個性と歴史、看板モデルの扱い方まで、徹底的に掘り下げる。 上に戻る

池田 圭=取材・文 矢島慎一=写真

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