「豊作、復刻時計」とは……
クロノグラフの魅力は、メカニカルでスピード感溢れるデザイン。
通常の時刻表示に、任意の時間を計るストップウォッチ機能を加えた技術の歴史を振り返れば、手巻きから自動巻きに移行した1969年が、大きなエポックメイキングだったと言えるだろう。
この年に自動巻き式が誕生し、腕に着けていればゼンマイを巻く必要もなくなったことで安定していつでも使用できるようになり、活躍の場が一気に広がったのだ。
そんなメモリアルイヤーから1970年代にかけてのクロノグラフが最新の技術で甦っている。その進取の精神は今も色褪せないままだ。
ZENITH ゼニス
エル・プリメロ A384リバイバル

1969年は自動巻き式クロノグラフムーブメントが誕生した記念すべき年だ。開発競争では各社がしのぎを削り、ゼニスがエル・プリメロを1月に発表し、続いて3月にブライトリングを始めとする4社連合によるクロノマチックが登場。
さらに5月にはセイコーがcal.6139ムーブメント搭載モデルをいち早く市販化した。先陣を切りながらも市販は秋に出遅れたゼニスだったが、それでもエル・プリメロが大きな注目を集めたのは、通常の計時とクロノグラフの機構を一体化した専用設計であり、さらに毎時3万6000振動という高振動を採用したことだ。

以来エル・プリメロは、高性能クロノグラフの金字塔となり、いまもブランドシンボルになっている。このA384はその搭載ファーストモデルのひとつであり、角張ったトノーケースに独創的なラダーブレスレットを組み合わせ、オリジナルスタイルを忠実再現する。引き締まったサイズにはその歴史と革新性を凝縮するのだ。
BREITLING ブライトリング
トップタイム リミテッド エディション

クロノグラフを語るうえで、リーディングブランドであるブライトリングを外すことはできないだろう。クロノグラフの歴史に革新をもたらし、航空機のパイロットをはじめ高く支持される。
そしてこのクロノグラフに絶大な信頼を寄せた男のひとりがあのジェームズ・ボンドだ。

1965年に公開された『007 サンダーボール作戦』では、ガイガーカウンター機能を内蔵したトップタイムを使って、海中に隠されていたミサイルを探し出し、核攻撃の大惨事を防いだ。
本来は時間を計時する腕時計に、奇想天外な付加機能を備え、絶体絶命のボンドを救う。たとえそれがフィクションであっても、アクティブな時計の魅力を象徴することに変わりはなく、男を虜にするのだ。

1960年代に誕生したトップタイムは、若い世代に向けたスポーツクロノグラフであり、復刻には、時計愛好家の間で快傑ゾロのイメージから“ゾロ・ダイヤル”の愛称で親しまれているデザインを採用。2カウンターの躍動感をよりアピールする。
HAMILTON ハミルトン
クロノマチック 50

1969年に自動巻き式クロノグラフの幕開けを飾ったムーブメントのひとつがこの「クロノマチック」だ。当時ブライトリング、ホイヤー・レオニダス(現タグ・ホイヤー)、デュボア・デプラとともにこれを共同開発したのが、ハミルトン・ビューレン(現ハミルトン)である。

写真は、このクロノマチックを自社向けにカスタマイズしたキャリバー11を搭載し、’70年代に発表した『クロノマチックE』のデザインをモチーフにする。
特徴だった左位置のリュウズを右に移してはいるが、個性的なスタイルは変わることなく、赤で区別された上下のクロノグラフプッシュに加え、左にはクイックチェンジデイトのプッシュとカウントダウン用の内蔵ベゼルの操作リュウズを備える。

世界に先駆けた自動巻き式クロノグラフに相応しい、先進的なデザインと機構で今も支持されるオリジナルの雰囲気を再現しつつ、60時間のパワーリザーブなど現代の使い勝手にも十分応えるのだ。
「豊作、復刻時計」とは……
2020年は、さまざまなブランドから復刻時計が大豊作。我々が生まれる前に作られたヘリテージモデルから、懐かしい’90年代のあのモデルまで、見た目も気分も昔に巻き戻してくれそうな良質復刻時計をご紹介。上に戻る
柴田 充=文