「たのしい睡眠」とは……
目覚めたときに、「どこか体がダルい」「いつも疲れが残っているような気がする」。それらは質の高い睡眠がとれていないという体からのサイン。
これまで時間や食事に関して、睡眠の質を下げる要因をいくつか紹介してきたが、忘れてはいけないのが「寝姿勢」だ。今回は睡眠の質を高めるための寝姿勢について考えていきたい。
起きているときも寝ているときも、姿勢が健康の基本
ストレスなどの心理的要因から栄養の偏り、不規則な生活習慣など、睡眠の質を低下させる要因はさまざまだ。これらをひとつひとつ改善し、つぶしていくことが安眠への道であることは間違いないが、如何せん時間がかかる。そのなかで唯一、即効性が期待できるのが「寝姿勢」の改善だ。
そもそも正しい姿勢でいることが、健康状態を良い方向へもっていく基本であることは皆さんご存知のとおり。それを日中だけでなく、寝ているときも意識することが大切なのだ。
寝姿勢が悪いと、骨や筋肉、内臓への負担が増すため、血行やリンパの流れが滞る。その結果、睡眠中でも体が緊張していまい、眠りが浅くなるのだ。当然、疲れはとれにくく、体の痛みが発生しやすくなり、いずれは内臓の働きも低下してしまう。
では、睡眠の質を高めるためにはどのような寝姿勢が理想なのだろうか? 答えは「仰向け」。具体的には“背骨のS字カーブを維持できる状態”だ。立っている時に背骨を横から見ると、S字を描くように湾曲している。
S字カーブをキープするには、枕の高さやマットレス・敷布団などの寝具選びが重要だ。購入するときは実際に横になり、誰かに横から見てチェックしてもらったり、写真に撮って確認してみるといい。腰が沈みすぎると柔らかすぎ、反っていると硬すぎると考えられる。枕は呼吸のしやすい高さがベスト。横から見た時、二重顎にならない高さがおすすめだ。横幅は、頭の大きさの2.5倍くらいサイズを選ぼう。
ただし、S字カーブを維持できる仰向け寝が万人に当てはまるわけではなく、なかには横向きのほうが良い人もいる。例えば、腰痛持ちの人。仰向け姿勢でいることが腰に負担をかけてしまう場合がある。そのような人は、仰向けよりも横向きのほうが負担がかからない。
いびきをかく人もそうだ。
寝返りを打てれば、眠りの質は高まる

寝返りも睡眠の質を高めるうえで非常に重要な要素だ。寝返りが打てないほど狭い場所で眠ると、全身の筋肉が硬直してしまう。ソファーなどの窮屈な場所でうっかり寝てしまい、起きたら全身がバキバキになっていた。そんな経験のある人は多いと思うが、それこそまさに、寝返りが打てなかったことが原因だろう。体の同じ部位が長時間にわたって圧迫されるため、血行不良や筋肉の硬化を招いてしまうのだ。
ここで、「寝返りを打つとS字カーブの姿勢が崩れるのでは?」と考える人もいるだろう。もちろん、一晩中S字カーブの仰向け寝を維持するのは、おそらく不可能だ。しかし、寝返りは一晩中、絶えず打っているわけではない。寝具が体に合ってさえいれば、寝返りを打っていないときは、自然にS字カーブを維持した理想的な寝姿勢に戻ることが実験などで明らかになっている。
また、寝返りには布団の中の空気を循環させ、内部の温度や湿度を調整する効果もある。
快適な睡眠を得るためには、まず普段の睡眠環境を抜本的に見直してみてほしい。ただし、寝姿勢こだわりすぎて、それがストレスになったら本末転倒。朝、起きた時にすっきりと目覚めていて日中のパフォーマンスも良ければ、眠りの質も高く、寝具(寝姿勢)も良いと考えればいいだろう。
●睡眠の質を高めるコツ
・仰向けに寝る。
・体の動きが妨げられるような窮屈な場所で寝ない。
・腰痛やいびきのひどい人は横向きに寝る。
・沈み込みすぎる敷布団やマットレスはNG。
・頭の大きさの2.5倍くらいの横幅がある枕を使う。
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「たのしい睡眠」
日本生活習慣病予防協会によると、「慢性的な不眠」に悩まされているのは日本人の5人に1人。読者のなかにも「最近寝つきが悪くなった」「早朝に目が覚めてしまう」など、“睡眠”にまつわる悩みを抱えている人がいることでしょう。果たして睡眠の質を高めることはできるのでしょうか? さまざまな角度で検証していきます!上に戻る
篠原絵里佳=監修
管理栄養士/睡眠改善インストラクター/上級睡眠健康指導士。
楠田圭子=取材・文