世の中がリモートになって、外出自粛となったら家で映画とかNetflixとか観まくるかと思ったら、まったく観ない、観る気がしない。

きっと忙しいときに、頭がおかしくなって時間を見つけて本を読んだり、映画を観ようとなるわけで、いつでもまぁ観られる、ほれ時間はあるぞ!と言われるとまったくやらない。

なのですべてはかつて見た映画の記憶をほじくって今書いているのだけれど、「外はもちろん、家での時間も、Tシャツ姿で格好良く過ごす男たち」的なテーマでコラムを書いてくれと言われたのだが、それってあたり前田じゃないですか。

野村訓市●オーシャンズ本誌連載でも活躍する1973年生まれ。映画は観るのも好きだが、友人であるウェス・アンダーソン監督の『犬ヶ島』で声優を務めるなど、表舞台に登場することも。そのほかにも、デザイナー、DJなどいろいろな顔を持っている。

格好いいかどうかは置いておいて、俺たちは一年365日、1日24時間をほぼTシャツで過ごす男じゃないですか。何を着るにも下には必ずTシャツを着ているし、寝るときだってTシャツ。パジャマなんて買ったことがないすからね。

もらったことはあっても寝るときにボタンが邪魔だ。ポケットもいらねえ。まぁパジャマになるTシャツは、もうかなりくたびれて寿命がきた、白なのかと聞かれれば即答できないほどに黄ばんだヘインズあたりが定番なのだが。

とにかくそういうTシャツの着方をしているので、どんな映画がいいのかよくわからないと思ったのだが、考えてみれば俺が好きな映画の男たちもまぁ着替えない。いちいち着替えたりするやつは陰険だと思う、俺は。

いちいちルーティンがあって、細かいやつはきっとそうだ。

もう出かける服と家での服、そして寝巻きというものの境界線が曖昧で、つまり歩く万年床みたいなやつほど美しい。そうなると『ビッグ・リボウスキ』の主人公デュードとかが最高なわけだ。

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首回りが伸びたようなTシャツにガウンだのカウチンを羽織るだけ。下は短パンなのかパジャマのパンツ。これで堂々と生きられれば男として、これ以上何を望むというのだ。

まぁそういうと話がここで終わってしまうので、ほかの映画の名前でもちょっと出してみるか。

野村訓市さんの部屋着論「“歩く万年床”みたいなやつこそ信頼できる」
『トゥルー・ロマンス』本格的にブレイクする前のブラッド・ピット。主演じゃないけれど、このピチッと無地のTシャツを着こなす姿には目を奪われた人も多かったはず。袖をまくっているのも、絵になっていた。ちなみにパンツはダボッとしたシルエットを合わせていた。 ©️ AFLO

映画というか、アンジーと結婚する前の、去勢される前のブラピの役はどれも着替えてなくて最高だったな。『トゥルー・ロマンス』のダメなヒッピーみたいな兄ちゃんとか。あいつは絶対に着替えてなければ風呂も入ってないね、1週間は。

いくらドライタッチなロサンゼルスが舞台とはいえ、かなりのツワモノだ。ああいう人たちをたくさん若い頃見たが度が過ぎると古い絨毯みたいな匂いがする。

それがお日様の下でも、場末のバーでも。

でもそこが「こいつは裏表のない人間だ」と判断する尺度になるんだけれど。下着のパンツは裏表繰り返してはいているかもしれないけどね。

あとブラピといえばやはり『ファイト・クラブ』は外せないですよね。

野村訓市さんの部屋着論「“歩く万年床”みたいなやつこそ信頼できる」
『ファイト・クラブ』やっぱりこのピタッとしたTシャツの着こなしが、往時のブラピだ。このときはラグランスリーブのプリントTで、ボトムスは少しユルめ。右の『トゥルー・ロマンス』にも通ずるバランスだ。 © Collection Christophel/AFLO

子供の頃に『ロッキー』やジャッキー・チェンの映画を観て以来の、枕をボコボコにしてしまう衝動に駆られる映画でしたが、あのピチピチしたTシャツの着こなしときたら、40超えてやったらセクハラですよ、歩くセクハラ。

でも俺のボディそのものがファッションなのだ的な感じがすごいすね、着替えいらないですよ。

野村訓市さんの部屋着論「“歩く万年床”みたいなやつこそ信頼できる」
『アウトサイダー』1983年公開のワルガキたちの映画には、マット・ディロンやトム・クルーズ、ロブ・ロウ、C・トーマス・ハウエルといった若手人気俳優が出演。デニムにTシャツ、Gジャンによるザ・アメカジなスタイル、これぞ青春といった感じだ。 © Everett Collection/AFLO

Tシャツといえば最初に本当に格好いいなぁと思った『アウトサイダー』の若手ハリウッド軍団。やつらも下町のキッズ役で山手のシャツ着たやつらと対立しているのですが、いつでもどこでもまぁTシャツって感じですよね。着替えない。だからこそ着慣れた感があるんだろうけどね。着慣れ感。

やっぱそれじゃあないですか? Tシャツは体の一部です、皮膚です感覚。

メガネは顔の一部です~と歌っていたのは東京メガネですが(覚えてますか?)、それと一緒なんですよ。皮膚感覚。そういうものを映画からですね、ぜひ汲み取っていただいで、この家で過ごす時間の増えた時代に、Tシャツとは何なのかを身に着けていただきたいですね。

僕? スウェットの下のTシャツは何曜日から同じの着てっかなぁ?

調子のいい白Tを見つけて長い付き合いを

野村訓市さんの部屋着論「“歩く万年床”みたいなやつこそ信頼できる」

1_品質のいいスビン綿を使用したハイゲージの天竺素材。袖の下を縫い付けて腕がスッキリ見えるよう工夫を施した。2万1000円/マディソンブルー 03-6434-9133

2_オリジナルの肉厚のボディによる、へたりにくい日本製のポケT。丸胴編みで着用感も良し。7000円/アナトミカ(アナトミカ 東京 03-5823-6186)

3_吸水・速乾に優れ、優しい肌触りの「パウダリーコットン」採用。上品な光沢感、そしてUVカット効果があり外着にも最適。1万8000円/スリードッツ(スリードッツ青山店 03-6805-1704)

4_訓市さんも定番と言うように、白い無地Tといえばこれ。赤タグの柔らかなコットン100%の生地に触れたことのない大人はいない!? 2000円/ヘインズ(ヘインズブランズ ジャパン 0120-456-042)

5_裾に小さく入ったハンドステッチに身幅が広く作られた見た目と、どこまでもこだわりを感じる。それは、ユニークな柄のパックも同様。

3万8000円[3枚セット]/ビズビム(F.I.L. TOKYO 03-5725-9568)

 

鈴木泰之=写真 星 光彦=スタイリング

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