「夏のサングラス3本勝負」とは……
モノへの愛着は、どれだけ濃厚な時間を共有してきたかによって決まってくる……と思う。象徴的なエピソードがあれば、価格やブランドなど関係なく、持ち主にとっての重要アイテムとなるのだ。
アンフィルのデザイナー、藤原将平さんがピックアップした3本にも、やはり忘れえぬ思い出が宿っていた。
藤原将平さん●1976年生まれ。大阪府出身。2008年よりニットを軸とするウィメンズブランド、イリアンローヴのプレスに就任し、デザインなどにも携わる。2017年より同ブランドのデザイナー、小松さおり、早川麻衣子とともにアンフィルを設立し秋冬コレクションでデビュー。
【1本目】レアな“トイサン”ってどういうこと?

ソーリーブートレグプログラムは、実店舗のないオンラインショップ。そんな知る人ぞ知るショップが独自展開するレーベルのアパレルや雑貨は、業界人の間でもジワジワとファンが増えているという。藤原さんも例に漏れない。

「このブランドのことは、以前から耳にしていました。実際に触れてみると、金額は安くても、確かなクオリティとこだわりがあり、さらにはストリートカルチャーの匂いも秘めている。僕もストリートで育ってきましたから惹かれるものがあって」。
とはいえ、これがまた手に入りづらいともっぱらの評判。
「クリアフレームのサングラスを探していたのですが、どこにもないんですよ。

そんな経緯があっただけに、リーズナブルな一本ながら愛着もひとしお。
「これはトイサングラスを染色し、一本一本に刻印を入れるという実に手の込んだ作りになっています。それなのに約3000円と、コスパも抜群なんですよ」。
確かにクリアフレームや薄口レンズは時代にもハマっているし、どこか’90sストリート的な空気も感じる。気軽に掛けられて、作り手の想いも詰まった一本。購入までの道のりを考えれば、愛着が強まるのも当然か。
【2本目】海外デビューでサングラスデビュー

「目は悪くないので、これまでアイウェアとは距離がありました」という藤原さんのような大人は結構いる。
目のいい大人がメガネを掛けると「私、お洒落をしてます!」とド直球に周囲へ伝わるために、やや気恥ずかしい感じがするのだとか。でも、サングラスの場合は少し話が違う。なぜなら、日除けという絶対的な大義名分があるから。
そこで手にするならやはり王道……ってことで、本連載でも度々登場しているウェイファーラーは格好だろう。藤原さんも手にし、改めて知名度を支えるクオリティに納得したとか。

「汗をよくかくので、メガネを掛けても曇りやすいんですよ。でも、このサングラスは曇ることがないんです」。
ウェイファーラーを手にしたのは、まだサングラスとは無縁だった頃。アメリカ旅行中、あまりに陽射しが眩しかったため、オレンジカウンティのとあるショップで購入したのだ。

「初海外でとにかく陽射しが強烈だったことをよく覚えています。レンタカーの運転に支障が出るほどでしたね。高速道路を降りたあと、つい車線を逆走しそうになりましたもん(苦笑)。それまでサングラスとは縁遠かったけど、もうたまらず購入しました。今ではいい思い出です」。
【3本目】“本物”とは何か? その答えをくれた逸品

サングラスは日除け目的の夏季限定ギア……という人にとって、こだわりが詰まった本格派の一本は少々ハードルが高いかもしれない。安い買い物でもないし、日常にさしたる支障をきたさないのであればなおさらだ。
かくいう藤原さんもそのひとりだった。

「掛け心地からしてまったく違いますよね。ブランドの持つこだわりを聞いて、俄然納得しました。そしてなにより、その佇まいにグッときましたね。風格というのか、気品というのか、やはり雰囲気が違います」。
その衝撃は今でも覚えていると藤原さん。これはいわば、サングラス選びの視野を広げてくれた一本でもある。
「こちらをすすめていただいて感謝ですね(笑)!」。
金額や知名度は、そのアイテムの価値を測る物差しになりうる。ただ、アイテムに歴史が乗っかることで、まったく新たな付加価値が生まれたりもする。周りの理解は得にくくても、決して手放せない。藤原さんのサングラス、まさにプライスレス。
「夏のサングラス3本勝負」とは……
いよいよ到来、ギンギンぎらぎらの夏である。そうなると欠かせないのがサングラス。ファッションとしても、紫外線から目を守る道具としてもマストな外出時のアイテム。センスのいい大人たちはこの夏、何を掛けるのか? お気に入りの3本を見せてもらう。
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菊地 亮=取材・文