カラダのメンテナン酒●気持ちイイ酔いに身を委ねる。やはり酒は人生を豊かにしてくれる……なんて思いつつ、頭の片隅にいつもチラつく「健康」の2文字。

心もカラダも潤す、正しい“メンテナン酒”論。

「ビールばかり飲んでると痛風になっちゃうよ」……ビール党であれば、誰しも一度はそう言われた経験があるだろう。

「風が吹くだけでカラダが痛む」とされる痛風。考えただけで苦虫を、いや、苦すぎるホップを噛み潰したような顔になってしまうが、一般的に、痛風の原因は“プリン体”にあり、ビールこそ諸悪の根源だと考えている人も多い。

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しかし、書籍『「健康」から生活をまもる』(生活の医療社)を出版した現役医師の大脇幸志郎先生は、それらを“迷信”だと断言する。

「プリン体を気にしてビールを我慢したり、好きな銘柄を避けることに意味はありません」。

な、なんてこった。もちろん事実ならありがたいのだが……一体どういうこと?


話を聞いたのは……

現役医師が暴く「ビール=プリン体=痛風」という迷信のカラクリ

大脇幸志郎●1983年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。出版社勤務、医療情報サイト運営ののち医師。著書に『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』。翻訳にペトル・シュクラバーネク『健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭』(ともに生活の医療社)。

「ビール=プリン体=痛風」という“迷信”の正体

少しでも健康に気を遣おうと、普通のビールは避け、プリン体ゼロや糖質オフの製品に手を伸ばす。そんな日々を送っていた健気なビール党は、大脇先生の証言にさぞ衝撃を受けたに違いない。

「重量あたりのプリン体の量で計算すると、ビールよりも、肉や魚のほうが10~100倍は多いんです。でも、ちりめんじゃこを毎日食べている人に『健康的だね』と言うことはあっても 『痛風になるよ』と注意しませんよね。大抵の人は、ビールの何倍ものプリン体を毎日、食事で摂取しているんです」。

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「魚卵もプリン体が多い」というのは有名な話だが、実は魚や肉と比較すれば低め。

プリン体は体内で分解されたあと、尿酸となって腎臓と腸管から排出される。そして、尿酸の値が高いと痛風の原因になるとされている。

これ自体は間違いではないが、実際には尿酸値が低くても痛風になることはあるし、そもそもプリン体は体内でも大量に生成されているという。しかもビールのプリン体は肉や魚の10~100分の1でしかなく、それは生活に影響を与えるレベルに満たないというのだ。

「毎日ビールを1リットル以上飲み続けて、ようやく肉や魚と同じプリン体量に匹敵する程度です。その場合、プリン体よりもまずはアルコール中毒を心配したほうがいい。食事全体のうちビールから摂取するプリン体の量はごくわずかなんですよ」。

となると、長年誤解されてきた「ビール=プリン体=痛風」の図式は崩壊する。それこそビール瓶の底が抜けたかのように。


コレステロールの“無罪”も国は認めていた!?

大脇先生によると、そんな迷信の一例として、コレステロールについても注視すべきだと警告する。

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「コレステロールといえば、油っこい食べ物を思い浮かべると思いますが、当然、摂取量を減らしたほうが健康に良いとされてきました。ところが、食べ物から吸収されるコレステロールよりも、体内で合成されるコレステロール量のほうがはるかに多いことが認められているんです」。

コレステロールには「善玉」と「悪玉」があるとされているが、いずれも「リポタンパク質」として人体を構成している細胞の原料になっているだけでなく、男性ホルモンや女性ホルモンなどの源でもあり、生きるうえで必要な物質なのだと認められているのだそう。

これらを踏まえて厚労省は2015年、“もう食事のコレステロールに目標値は設定しない”と方針転換した。

現役医師が暴く「ビール=プリン体=痛風」という迷信のカラクリ

「実は、’90年代からすでにこれらの研究結果は報告されていたんですが、なかなか知れ渡りませんでした。きっと、コレステロールを制限するほうが、それを抑えた商品の開発や販売促進を促し、市場にブームが生まれるからでしょう」。

確かに食用油をはじめ、チーズやマヨネーズなど、「低コレステロール」を“売り”にしている商品はたくさんある。だが、それらはあくまで自己満足に過ぎず、すなわち健康食品というワケではないらしい。

「お酒を飲みたい人は飲んで、好きなものを食べたい人は食べて、それでも我慢したければ我慢して。迷信に囚われず、正しい知識のもとに自由に生きればいいんです」。

 

痛風を警戒する場合、プリン体とビールの因果関係は薄いことがわかった。

しかし、痛風にはならなくとも、やはり「ビールは太るのではないか」という不安は拭えない……と思いきや、ここにも実は“迷信”が潜んでいるようで。

気になる真偽は後編にて。

 

七瀬あい=取材・文

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