カラダのメンテナン酒●気持ちイイ酔いに身を委ねる。やはり酒は人生を豊かにしてくれる……なんて思いつつ、頭の片隅にいつもチラつく「健康」の2文字。
「ビールばかり飲んでると痛風になっちゃうよ」……ビール党であれば、誰しも一度はそう言われた経験があるだろう。
「風が吹くだけでカラダが痛む」とされる痛風。考えただけで苦虫を、いや、苦すぎるホップを噛み潰したような顔になってしまうが、一般的に、痛風の原因は“プリン体”にあり、ビールこそ諸悪の根源だと考えている人も多い。
しかし、書籍『「健康」から生活をまもる』(生活の医療社)を出版した現役医師の大脇幸志郎先生は、それらを“迷信”だと断言する。
「プリン体を気にしてビールを我慢したり、好きな銘柄を避けることに意味はありません」。
な、なんてこった。もちろん事実ならありがたいのだが……一体どういうこと?
話を聞いたのは……

「ビール=プリン体=痛風」という“迷信”の正体
少しでも健康に気を遣おうと、普通のビールは避け、プリン体ゼロや糖質オフの製品に手を伸ばす。そんな日々を送っていた健気なビール党は、大脇先生の証言にさぞ衝撃を受けたに違いない。
「重量あたりのプリン体の量で計算すると、ビールよりも、肉や魚のほうが10~100倍は多いんです。でも、ちりめんじゃこを毎日食べている人に『健康的だね』と言うことはあっても 『痛風になるよ』と注意しませんよね。大抵の人は、ビールの何倍ものプリン体を毎日、食事で摂取しているんです」。

プリン体は体内で分解されたあと、尿酸となって腎臓と腸管から排出される。そして、尿酸の値が高いと痛風の原因になるとされている。
これ自体は間違いではないが、実際には尿酸値が低くても痛風になることはあるし、そもそもプリン体は体内でも大量に生成されているという。しかもビールのプリン体は肉や魚の10~100分の1でしかなく、それは生活に影響を与えるレベルに満たないというのだ。
「毎日ビールを1リットル以上飲み続けて、ようやく肉や魚と同じプリン体量に匹敵する程度です。その場合、プリン体よりもまずはアルコール中毒を心配したほうがいい。食事全体のうちビールから摂取するプリン体の量はごくわずかなんですよ」。
となると、長年誤解されてきた「ビール=プリン体=痛風」の図式は崩壊する。それこそビール瓶の底が抜けたかのように。
コレステロールの“無罪”も国は認めていた!?
大脇先生によると、そんな迷信の一例として、コレステロールについても注視すべきだと警告する。

「コレステロールといえば、油っこい食べ物を思い浮かべると思いますが、当然、摂取量を減らしたほうが健康に良いとされてきました。ところが、食べ物から吸収されるコレステロールよりも、体内で合成されるコレステロール量のほうがはるかに多いことが認められているんです」。
コレステロールには「善玉」と「悪玉」があるとされているが、いずれも「リポタンパク質」として人体を構成している細胞の原料になっているだけでなく、男性ホルモンや女性ホルモンなどの源でもあり、生きるうえで必要な物質なのだと認められているのだそう。
これらを踏まえて厚労省は2015年、“もう食事のコレステロールに目標値は設定しない”と方針転換した。

「実は、’90年代からすでにこれらの研究結果は報告されていたんですが、なかなか知れ渡りませんでした。きっと、コレステロールを制限するほうが、それを抑えた商品の開発や販売促進を促し、市場にブームが生まれるからでしょう」。
確かに食用油をはじめ、チーズやマヨネーズなど、「低コレステロール」を“売り”にしている商品はたくさんある。だが、それらはあくまで自己満足に過ぎず、すなわち健康食品というワケではないらしい。
「お酒を飲みたい人は飲んで、好きなものを食べたい人は食べて、それでも我慢したければ我慢して。迷信に囚われず、正しい知識のもとに自由に生きればいいんです」。
痛風を警戒する場合、プリン体とビールの因果関係は薄いことがわかった。
気になる真偽は後編にて。
七瀬あい=取材・文