腕時計では日陰の身と思われていたブレスレットがここ数年で一躍脚光を浴びている。
時計の世界に片足を突っ込んだばかりのオーシャンズ本誌編集長・江部の素朴な疑問を、時計専門誌編集者にぶつけてみた。
鈴木幸也さん Age 48
1972年、静岡県生まれ。出版社に就職し、’98年から時計誌に携わる。退社後、フリーランスを経て、 2005年「クロノス日本版」創刊号から参画。業界内では理論派として有名。

江部寿貴 Age 43
1977年、東京都生まれ。本誌創刊に参画したのち、2008年より副編集長に。昨年、編集長に就任して以来、改めて高級時計に興味津々。その奥深き世界を前に現在、猛勉強中!

看板クロノグラフが進化を遂げてリデザイン
BREITLING
ブライトリング/クロノマット B01 42 ジャパンエディション
クオーツ全盛期にブライトリングが社運を懸けて世に送った1984年モデルをモチーフとする、人気の「クロノマット」がフルモデルチェンジを果たした。歴史的モデルを象徴するのが、独自のブレスレットであるルーローブレスレット。これを現代的に進化させて復活した。バトンが連なる独特なデザインで着け心地も良好。ほか、ベゼルに配置された15分表示と45分表示の、入れ替え可能な通称“ライダータブ”も復活するなど、往年のファンも喜ぶ出来栄えに。
江部 最近出席させていただく時計の展示会などで思うのは、時計編集者やジャーナリストの間で、意外とブレスレットが話題になるんだなということです。
鈴木 はい。ここ数年でブレスレットの品質が飛躍的に向上していますからね。
江部 具体的に良くなった点というのは、どのあたりですか。
鈴木 磨きによる仕上げと、作りそのものです。ムーブメント開発については、各社ある程度やり尽くしたところもあるのに対して、外装のブレスレットやケースは、まだ改善の余地がある領域なんですよ。
もともとスイスの時計製造は分業制。マニュファクチュールと言いながらもケースやブレスレットは外注というところが多かったんです。ただ、最近はブランドのグループ化が進んでいますから、パーツのサプライヤーを買収して、自社品質管理のもと、精度と質の高いブレスレットやケースを作るのが顕著ですね。

ブランド初のメタルモデルは、機能とデザインが高次元で融合
H.MOSER & CIE.
H.モーザー/ストリームライナー・フライバック クロノグラフ オートマティック
プレシャスメタルを用いたドレッシーな時計を数多く展開してきた孤高の名門が、ブランド初となるクロノグラフモデル「ストリームライナー」を登場させて話題に。
SS製のケースとブレスレットとの一体化を前提に設計された本作は、クッションケースの流線形からなる曲線美が魅力。モデル名と同じ特急列車から着想を得たそれぞれのリンクは、ひとつずつの形状が異なり、着用感と美観を最大限に高めている。
江部 僕が時計に注目し始めた時期と重なるわけですね。仕上げについては、面ごとにヘアラインや鏡面に磨き分けてあり、手が込んでいると感心します。
鈴木 素材についても、上質なステンレススチールを使うブランドが増えていますね。高級時計のスタンダードといえる316Lや、より高価な904Lなど、強度や加工のしやすさ、見た目の明るさなどで、選ばれています。

誕生から15年後、初のブレスレットが登場
HUBLOT
ウブロ/ビッグ・バン インテグラル チタニウム
ウブロのベルトといえば、ラバーか裏地がラバーのレザータイプが主流だった。が、フラッグシップシリーズ「ビッグ・バン」の誕生15年を迎えた今年、初のメタルブレスレットモデルが登場。
アイコニックなデザインコードはそのままに、ケースとブレスを統合し、ブレスレットモデル専用の新デザインを作製。手首にストレスなくフィットするよう開発された3連のインテグレーテッドブレスレットの着用感とシャープなデザインは、新たなファンを獲得しそう。
江部 着け心地の良し悪しは、どこで決まるんですか。
鈴木 僕は主に3つの評価基準を設けています。まずは肌触り、そしてコマの遊び、最後にヘッドとの重量のバランスです。

新開発のメタルが輝く、1980年代のリバイバル
CHOPARD
ショパール/アルパイン イーグル ラージ
1980年、カール-フリードリッヒ・ショイフレ共同社長が初めて製作した時計「サンモリッツ」を現代的に解釈した、ブレスレット一体型モデル「アルパイン イーグル」。
ヘアラインに磨かれたインゴットシェイプのリンクと、ポリッシュ仕上げのセンターキャップからなるメタルブレスレットは、適度な可動域によってしなやかな装着感を実現している。使用するのは、独自開発のショパール ルーセント スティール A233という硬度が高く、低刺激性のもの。
江部 コマの遊びというのは?
鈴木 コマ同士の間隔がぴったりすぎても、ゆるすぎてもダメ。ある程度の“遊び”が必要ということです。遊びを考慮して設計しないと、人によっては腕毛が挟まり、痛い思いをします。また、ヘッド(ケース)が重くて、ブレスレットが軽いと、全体のバランスが悪くなり、手首をぐるりと一周してしまうようなこともありますよ。

シンプルウォッチに覗かせるモードなセンスと時代性
FENDI
フェンディ/フォーエバー フェンディ
ブルーダイヤルにネオンイエローの眩いコントラストは、モードでも一目置かれるフェンディらしい、ならではのセンス。最新の「フォーエバー フェンディ」のブレスレットには、お馴染みの“FF”ロゴがグラフィカルにデザインされている。
繊細に結合されたそれぞれのコマは、昨今の腕時計潮流に則って磨き分けされており、光を受けて輝きを変える。小ぶりなケースサイズながらもビッグデイト表示なので、視認性も良好。
江部 なるほど。最後に、ブレスレットって例えると何ですか?
鈴木 ラーメンで言うと……器かな。
江部 器とは意外な角度。麺や汁ではないんですね。裏方のようでいて鍵を握っていると。ますます奥深い世界にハマりそう(笑)。
※本文中における素材の略称:SS=ステンレススチール
MACHIO、川田有二、鈴木泰之=写真 川西章紀=写真(取材) 菊池陽之介、松平浩市=スタイリング 柴田 充、髙村将司、増山直樹=文 たむら 亘=イラスト