「こだわりキャンパーの愛用ギア」とは……
「ブッシュクラフト」とは、山へ持ち込むギアを最低限にとどめ、極力自然の中にあるものを利用しながらキャンプを楽しむスタイルのこと。
人気お笑いコンビ「うしろシティ」の阿諏訪さんはアウトドア歴17年を誇る上級者。
阿諏訪泰義(あすわ たいぎ)●1983年1月8日生まれ。神奈川県出身。ツッコミ担当。2009年に金子 学と「うしろシティ」を結成。現在はテレビやラジオなどに出演する傍ら、スウェーデンのアウトドアブランド、フェールラーベンのアンバサダーも務める。最近では、趣味のアウトドアや料理を活かしたYouTubeチャンネル『野あすわ』も話題。
自然に寄り添う北欧スタイルなナイフ

「夏に友人達とキャンプした経験のある人は多いと思います。僕もそうで、それがあまりにも楽しくて、秋にも行きたくなり、冬にも行きたくなり……結局、年中通して行くようになったんですよね(笑)」。
二十歳で甘美なひとときを味わって以降、どっぷりキャンプの魅力に取り憑かれてしまった阿諏訪さん。回数を重ね、アウトドアの知識も得ていくうちに、北欧のキャンプスタイルに憧れを抱くようになったとか。
「日本では、遭難したときのことも考えて派手な色のウェアやグッズを揃えるのが一般的。でも、僕には北欧の自然に溶け込むネイチャーカラーを多用したキャンプもすごく魅力的に映ったんです」。

いざ、北欧のキャンプ事情について調べてみたものの、当時はまだまだ日本へ浸透しておらず、得られた情報は限定的だった。
ヒットするものといえば、ほとんどが和訳されていないものばかり。必死にGoogle翻訳などを駆使しながら、少しでも有益な情報を得ようと試みた。その過程で、プーッコ(フィンランドに伝わる伝統的な様式で作られたナイフ)と出合う。
「一瞬にして惹きつけられました。とにかく欲しくて海外から買い付けましたね。今では日本でも気軽に購入できると思いますけど、当時は販売している店がほとんどありませんでした」。
阿諏訪さんが愛用するケラムはフィンランドのナイフメーカー(本社は現在アメリカ)で、そのプーッコの切れ味は熟練のアウトドアマンたちも太鼓判を押す。代表モデルのひとつがウルヴァリン プロだ。
「山中でのウッドクラフトにおいて、このナイフは取り回しがとてもいい。なにより木目が面白い白樺のコブ材を使った美しいハンドルは、所有する喜びを与えてくれます」。
ギア選びの基準に「シンプルであること、そして素朴であること」を挙げる阿諏訪さん。
ジワジワと出来上がる火のタネが楽しいのだ

「僕は真鍮という素材が大好きなんです。使っていくほどに味が出るところが、とても」。
ウッド同様、時の経過と使用頻度に伴ってやんわり変化してゆく様に魅了されている阿諏訪さん。この真鍮製のタバコケースとの出合いは、なにげなく見ていたとあるYouTube動画だった。
「デンマーク人の男性が自然の中で火を熾していた動画です。そのとき、彼が使用していたのがこのハドソンベイのタバコケースでした」。

ハドソンベイは1655年に設立された、北米最古の由緒正しき企業。このタバコケースは、同社がまだハドソンベイカンパニーという名で活動していた頃に販売していた有名なアイテムである。
上部に内蔵したルーペに太陽光を集約させて火を熾す原始的な仕組みを見ると、マッチが一般的に広まっていなかった当時に想いを馳せられる。そして、利便性が追求されている世の中にあって復刻され、今なお手に取れるという事実がギア自体の偉大さを物語っている。
「もう必死に探しましたね。ケラムと違い、こちらは国内で卸していたところがありましたけど、どこでもずっと品切れ状態が続いていて。

もともとはタバコケースだが、阿諏訪さんは火熾し用として活用。この手間暇にこそアウトドアの魅力が詰まっているといっても過言ではない。
スコットランドの刺客がもたらす快眠は想像以上!

阿諏訪さんが山に入る際に持っていくものは、基本的に軽量で、嵩張らないものばかり。
「アウトドアにハマりだした当初は、やはりテントが基本でした。それはそれで悪くないんですけど、寒くて目が覚めたり、設営の立地が悪いせいで、体が痛くなって起きてしまったりなんてことが結構あったんですよね」。
その日々に終止符を打ったのが、ハンモックだ。
「以前から気にはなっていたので、試しに使ってみたんです。そうしたら、初のハンモック泊は8時間一度も起きずに超爆睡(笑)。起きたら一緒に来ていた仲間たちはもう撤収作業を終えていました」。

そのため、今ではテントと寝袋ではなくハンモックが基本。
生地の柔軟性や耐久性は素晴らしく、体を包み込むふっくらとした寝心地は横になった瞬間から極上の快適さを約束。また、風や昆虫から守ってくるれるなど、痒いところに手が届いた作りの細かさも信頼を得ている要因だろう。

「2本の木に通すだけなので設営も撤収も早いしラクラク。地面の温度や凸凹も気にしなくていいし、それを考えたらテントよりも快適に過ごせます。そして何より、山の木々に溶け込む格好良さがありますね」。
睡眠時まで自然に溶け込む北欧スタイルを貫く姿勢は、さすがのひと言に尽きる。
どんどん便利な道具が登場し、快適にアウトドアを楽しめるようになった昨今。ただ阿諏訪さんは、そんな現代のアウトドアシーンとは真逆をいく。
「洗うのが面倒くさい、手入れが大変だ、なんて思いながらも、きれいに、大事に使い込んでいく。そうしてやっと“自分のモノ”になっていく。
そのスタンス、キャンプギア以外でも通じるところはあるかもしれない。
「こだわりキャンパーの愛用ギア」とは……全国的に沸騰中のキャンプ熱。その魅力は開放的な大自然と、「ギア」に見出す男のロマン。今もっとも気になる、“あのこだわりキャンパー”たちの愛用ギアを特別に拝見。
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菊地 亮=取材・文