看板娘という名の愉悦 Vol.21
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。
数年に1度程度しか訪れないが、なんとなく好感を抱いている街がある。江古田もそのひとつだ。
地名は「えごた」で駅名は「えこだ」と読むが、ほとんどの人は「えこだ」の方に馴染みがあるのではないだろうか。
北口を出て3分ほど歩くと、「とろわる」という名店がある。名店には往々にして看板娘がいる。



店内に入ると、さっそく大勢の客で賑わっていた。

どうやら、地元の人に愛されている店のようだ。
看板娘のみおさん(29歳)にオススメを聞くと、山形の銘酒「十四代 吟撰」を持ってきてくれた。一杯980円。


今日もいい夜になりそうだ。
彼女は熊本県阿蘇郡出身で、すぐ近くにある武蔵野音大の声楽学科の卒業生。
「このお店は2年前にオープンしたんですが、その1カ月後から働いています。理由ですか? 家が超近かったから」
ところで、声楽専攻の女性は、やはりふだんもクラシックなどを聴くのだろうか。
「いえ、普通のロックですね。Official髭男dismっていうバンドが好きです」
寡聞にして存じません……。みおさん、それ”普通のロック”じゃないのでは?

悩んだ末に「お造り全種盛り」(980円)を注文した。やがて、運ばれてきた。そして、大層驚いた。

しかも、それぞれの上には、にんにく醤油、胡麻だれ、雲丹醤油、薬味まみれという名バイプレイヤーたちが乗っている。
トイレの壁にはオープン時のレポート記事が載っている『日本外食新聞』が貼ってあった。

・ユニークな店名はオーナーである加藤亮さんの「亮」の字を分解したもの
・店舗デザインは上間理央さんらが主宰するネジアーキテクツ
・コンセプトは、器、空間、居心地の良さにこだわった「品のある大衆酒場」
理央さん、高円寺の飲み仲間だ。グッジョブ。
ちなみに、みおさんが看板娘たるゆえんは方々から声がかかること。店内を忙しく飛び回りながら、あちこちで常連と談笑している。皆さんに彼女の魅力について聞いてみた。



しかし、みおさん曰く「すごい人見知りで、ここ以外ではあんまり話しません」。
常連の「みんなで一杯飲みなよ」という一言で、店長のシオさん(34歳)とアルバイトのユウヤくん(21歳)も参集。

彼のエプロンには「MY DOCTOR SAYS I NEED SHOTS(医者が俺には酒が必要だと言っている)」の文字。これ、ほしいな。

さて、みおさん。
「うちはレモンサワーも美味しいですよ。ちょっと特別なやつです」

「はい、どうぞ~」

黄色いエキスの正体は「奇跡のレモン」という希釈用レモン飲料。瀬戸内産の完熟レモンを幻の蜂蜜といっしょに漬け込んである。

「品のある大衆酒場」の実力と看板娘の談笑力に恐れ入ったところで、お会計をお願いします。

W杯真っ最中だけに、「最後まで隙がないサッカー」というワードが脳裏に浮かんだ。最後に、若き利き酒師に世界一好きな日本酒を聞いてみた。
「長野県の酒千蔵野という蔵が造っている『幻舞』ですね。これを置いている店がなかなかないんですよ」
力強くメモしました。では、読者へのメッセージを。

なお、下記のインスタで「フォロー」「いいね」「チェックイン」した方は、来店時に“気持ち”の1品をサービスしてくれるそうですよ。
【取材協力】
居酒屋とろわる
住所:東京都練馬区栄町26-1
電話番号:03-6914-5983
www.instagram.com/izakaya.torowaru/
石原たきび=取材・文