看板娘という名の愉悦 Vol.21
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。

雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。

数年に1度程度しか訪れないが、なんとなく好感を抱いている街がある。江古田もそのひとつだ。

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った...の画像はこちら >>

地名は「えごた」で駅名は「えこだ」と読むが、ほとんどの人は「えこだ」の方に馴染みがあるのではないだろうか。

北口を出て3分ほど歩くと、「とろわる」という名店がある。名店には往々にして看板娘がいる。

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
蠱惑的なY字路の起点。

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
左サイドには「コナモン協会会長が推すたこ焼き東京3選」に選ばれた店。

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
右サイドには「とろわる」の入り口。

店内に入ると、さっそく大勢の客で賑わっていた。

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
三角地帯のV字部分をガラス張りにしたセンスが素晴らしい。

どうやら、地元の人に愛されている店のようだ。

皆さん、くつろいだ表情で楽しそうに飲んでいらっしゃる。

看板娘のみおさん(29歳)にオススメを聞くと、山形の銘酒「十四代 吟撰」を持ってきてくれた。一杯980円。

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
「私、日本酒大好きなんですよ」

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
「好きすぎて利き酒師の資格も取ったんですよ」

今日もいい夜になりそうだ。

彼女は熊本県阿蘇郡出身で、すぐ近くにある武蔵野音大の声楽学科の卒業生。

「このお店は2年前にオープンしたんですが、その1カ月後から働いています。理由ですか? 家が超近かったから」

ところで、声楽専攻の女性は、やはりふだんもクラシックなどを聴くのだろうか。

「いえ、普通のロックですね。Official髭男dismっていうバンドが好きです」

寡聞にして存じません……。みおさん、それ”普通のロック”じゃないのでは?

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
フードメニューも美味しそうで目移りする。

悩んだ末に「お造り全種盛り」(980円)を注文した。やがて、運ばれてきた。そして、大層驚いた。

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
これで1000円以下とは。

しかも、それぞれの上には、にんにく醤油、胡麻だれ、雲丹醤油、薬味まみれという名バイプレイヤーたちが乗っている。

トイレの壁にはオープン時のレポート記事が載っている『日本外食新聞』が貼ってあった。

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
なるほど、いろいろ発見があった。

・ユニークな店名はオーナーである加藤亮さんの「亮」の字を分解したもの
・店舗デザインは上間理央さんらが主宰するネジアーキテクツ
・コンセプトは、器、空間、居心地の良さにこだわった「品のある大衆酒場」

理央さん、高円寺の飲み仲間だ。グッジョブ。

ちなみに、みおさんが看板娘たるゆえんは方々から声がかかること。店内を忙しく飛び回りながら、あちこちで常連と談笑している。皆さんに彼女の魅力について聞いてみた。

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
「日本酒に関する知識が豊富で尊敬する」

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
「全体に目を配っていてお酒が空いたらすぐに来てくれる」

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
「とにかく、いつも明るいのがすごいと思う」

しかし、みおさん曰く「すごい人見知りで、ここ以外ではあんまり話しません」。

常連の「みんなで一杯飲みなよ」という一言で、店長のシオさん(34歳)とアルバイトのユウヤくん(21歳)も参集。

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
シオさんは一瞬たりとも真面目な顔をしない。

彼のエプロンには「MY DOCTOR SAYS I NEED SHOTS(医者が俺には酒が必要だと言っている)」の文字。これ、ほしいな。

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
常連さんのラスベガス土産とのこと。

さて、みおさん。

お代わりは何がいいですかね。

「うちはレモンサワーも美味しいですよ。ちょっと特別なやつです」

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
運ぶ刹那も談笑、談笑。

「はい、どうぞ~」

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
レモンと謎の黄色いエキスが上下を挟む。

黄色いエキスの正体は「奇跡のレモン」という希釈用レモン飲料。瀬戸内産の完熟レモンを幻の蜂蜜といっしょに漬け込んである。

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
美味しい要素しかない。

「品のある大衆酒場」の実力と看板娘の談笑力に恐れ入ったところで、お会計をお願いします。

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
帰り際に入浴剤をくれた。

W杯真っ最中だけに、「最後まで隙がないサッカー」というワードが脳裏に浮かんだ。最後に、若き利き酒師に世界一好きな日本酒を聞いてみた。

「長野県の酒千蔵野という蔵が造っている『幻舞』ですね。これを置いている店がなかなかないんですよ」

力強くメモしました。では、読者へのメッセージを。

江古田のモダン大衆酒場で、談笑力が高すぎる看板娘に恐れ入った
居酒屋のメニューのような達筆さ。

なお、下記のインスタで「フォロー」「いいね」「チェックイン」した方は、来店時に“気持ち”の1品をサービスしてくれるそうですよ。

【取材協力】
居酒屋とろわる
住所:東京都練馬区栄町26-1
電話番号:03-6914-5983
www.instagram.com/izakaya.torowaru/

石原たきび=取材・文

編集部おすすめ