「時器放談」とは……

さまざまな映画やドラマから“格好いい”を学んできたオーシャンズ世代。主役・脇役を問わず、虜になった登場人物は数知れないはずだ。

ロレックス、パルサー。時代を超える“ボンドウォッチ”の魅力を...の画像はこちら >>

今回の放談テーマは「映画と腕時計の親愛関係」について。誰もが知る“あの人”が身に着けた腕時計にフォーカスする。

寅さんに続く2人目は、映画『007』シリーズの主人公、ジェームズ・ボンド。そして彼が愛した“あの時計”である。

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あなたのジェームズ・ボンドは誰だ?

ジェームズ・ボンドといえば誰も知る世界的ヒーロー。英国の情報局秘密情報部(MI6)で国際的に活動する架空のエージェントで、コードナンバーは007。

安藤 ジェームズ・ボンドは「映画と腕時計」を語るうえで、絶対に外せない男です。

広田 映画ではこれまでに6名の俳優が演じてきていますが、その中で誰が最も“ジェームズ・ボンド”であるかは、議論が分かれますよね。

ロレックス、パルサー。時代を超える“ボンドウォッチ”の魅力を言葉で分解
安藤夏樹●1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリーマガジンの編集長を経て、現在はフリーに。「SIHH」や「バーゼルワールド」を毎年取材し、常に自分の買うべき時計を探す。口癖は「散財王に俺はなる!」。

安藤 広田さんにとってのジェームズ・ボンドは誰ですか?

広田 やっぱり初代であるショーン・コネリーです。先日彼の訃報を知り本当に残念ですが。

安藤 そうですよね。彼が演じるジェームズ・ボンドは本当に格好良かった。そんな彼が演じた初期のボンドウォッチといえば、ロレックスのサブマリーナーですね。

ロレックス、パルサー。時代を超える“ボンドウォッチ”の魅力を言葉で分解
白いタキシードにサブマリーナーを合わせた「007」の名コーディネイト。

広田 ショーン・コネリーモデルとして人気だったのは、サブマリーナー「Ref.6538」ですね。スクリーンに映るあの時計を見て、憧れた人は数知れないでしょう。

安藤 モノ選びはとても正統で、優れた男の持ち物、というイメージです。ただ、皆さんが思い浮かべるボンドウォッチって、ギミックの利いた、いわゆるスパイ機能を備えた時計ではないでしょうか。

広田 “Q”がいつもボンドに託すアレですね(笑)。

安藤 スパイ機能を備えたボンドウォッチ。そのいい意味での“悪ふざけ”が盛り上がってファンを魅了していくのが、1980年代の作品です。そして当時のボンドを演じるのがロジャー・ムーア。

広田 はい。

安藤 ちなみに、『007』シリーズに登場する腕時計を観て楽しむうえで、僕にとっての神回は2回あるんですが、両作品とも彼が主演なんですよ。


ボンドを魅了したハミルトン パルサー

ロジャー・ムーアがジェームズ・ボンドを初めて演じたシリーズ8作目『007/死ぬのは奴らだ』で登場するのは「ハミルトン パルサー」、通称“P1”。1970年にハミルトンから発表された、世界初のLED式デジタルウォッチである。

クッションケースに液晶パネルを備えた近未来顔が当時、大きな話題に。今年6月にはその誕生50周年を記念して、初期モデルをオマージュするゴールドモデル、そして1972年に登場した2代目の通称“P2”と同じSSモデルを復刻した。

ロレックス、パルサー。時代を超える“ボンドウォッチ”の魅力を言葉で分解
1970年に発表されたハミルトンパルサーの、左が初期型の「P1」。右が1973年に登場した「P2」。洗練されたデザインは、今なお新鮮。

安藤 神回のひとつはその『007/死ぬのは奴らだ』。その冒頭シーンでP2が登場するんですが、それがまた最高なんですよ。

ロジャー・ムーア演じるボンドが、朝方のベッドで隣に寝ていた女性から「もう1回♡」とせがまれるんですが、そのときに「P2」で時刻を確認するんですよ。裸でSSケース&ブレスレットの「P2」を着けているのがとても印象的。シビレますね。

広田 当時の最先端とも言えるクオーツ時計を着けていたんですね。

安藤 物語ではそのあと、MI6の長官で、ボンドの上司にあたるMが遣わせた女性が修理に出していたロレックスの「サブマリーナー」を届けにくる。そして、それに着け替える。

ロレックス、パルサー。時代を超える“ボンドウォッチ”の魅力を言葉で分解
広田雅将●1974年、大阪府生まれ。腕時計専門誌「クロノス」編集長。腕時計ブランドや専門店で講演会なども行う業界のご意見番である。その知識の豊富さから、付いたあだ名は「ハカセ」。

広田 ハミルトンの復刻は本当に話題で、ゴールドはあっという間に完売しましたね。

安藤 見た目のみならず、本当によくできていました。

’70年代の時計の復刻というのはこれまでにもよくありましたが、それら特有の安っぽさのようなものがなく、一からしっかり作り込んでいることがよくわかる出来栄えでした。

広田 裸にパルサーで、ジェーム・ズボンドを気取る。ご興味ある人はぜひいかがでしょう(笑)。

安藤 そして、もうひとつの神回が1983年公開の『007/オクトパシー』。これも、ロジャー・ムーア主演作品です……。

 

もうひとつの神回で登場する時計は……?「ボンドウォッチ後編」もお楽しみに!

「時器放談」とは……
マスターピースとされる名作時計の数々。毎回、こだわりの1本を厳選し、そのスゴさを腕時計界の2人の論客、広田雅将と安藤夏樹が言いたい放題、言葉で分解する。上に戻る

鳥居健次郎=写真 安部 毅=文

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