「時器放談」とは……
さまざまな映画やドラマから“格好いい”を学んできたオーシャンズ世代。主役・脇役を問わず、虜になった登場人物は数知れないはずだ。
今回の放談テーマは「映画と腕時計の親愛関係」について。誰もが知る“あの人”が身に着けた腕時計にフォーカスする。
寅さんに続く2人目は、映画『007』シリーズの主人公、ジェームズ・ボンド。そして彼が愛した“あの時計”である。
>1人目『男はつらいよ』車寅次郎編はこちら
あなたのジェームズ・ボンドは誰だ?
ジェームズ・ボンドといえば誰も知る世界的ヒーロー。英国の情報局秘密情報部(MI6)で国際的に活動する架空のエージェントで、コードナンバーは007。
安藤 ジェームズ・ボンドは「映画と腕時計」を語るうえで、絶対に外せない男です。
広田 映画ではこれまでに6名の俳優が演じてきていますが、その中で誰が最も“ジェームズ・ボンド”であるかは、議論が分かれますよね。

安藤 広田さんにとってのジェームズ・ボンドは誰ですか?
広田 やっぱり初代であるショーン・コネリーです。先日彼の訃報を知り本当に残念ですが。
安藤 そうですよね。彼が演じるジェームズ・ボンドは本当に格好良かった。そんな彼が演じた初期のボンドウォッチといえば、ロレックスのサブマリーナーですね。

広田 ショーン・コネリーモデルとして人気だったのは、サブマリーナー「Ref.6538」ですね。スクリーンに映るあの時計を見て、憧れた人は数知れないでしょう。
安藤 モノ選びはとても正統で、優れた男の持ち物、というイメージです。ただ、皆さんが思い浮かべるボンドウォッチって、ギミックの利いた、いわゆるスパイ機能を備えた時計ではないでしょうか。
広田 “Q”がいつもボンドに託すアレですね(笑)。
安藤 スパイ機能を備えたボンドウォッチ。そのいい意味での“悪ふざけ”が盛り上がってファンを魅了していくのが、1980年代の作品です。そして当時のボンドを演じるのがロジャー・ムーア。
広田 はい。
安藤 ちなみに、『007』シリーズに登場する腕時計を観て楽しむうえで、僕にとっての神回は2回あるんですが、両作品とも彼が主演なんですよ。
ボンドを魅了したハミルトン パルサー
ロジャー・ムーアがジェームズ・ボンドを初めて演じたシリーズ8作目『007/死ぬのは奴らだ』で登場するのは「ハミルトン パルサー」、通称“P1”。1970年にハミルトンから発表された、世界初のLED式デジタルウォッチである。
クッションケースに液晶パネルを備えた近未来顔が当時、大きな話題に。今年6月にはその誕生50周年を記念して、初期モデルをオマージュするゴールドモデル、そして1972年に登場した2代目の通称“P2”と同じSSモデルを復刻した。

安藤 神回のひとつはその『007/死ぬのは奴らだ』。その冒頭シーンでP2が登場するんですが、それがまた最高なんですよ。
ロジャー・ムーア演じるボンドが、朝方のベッドで隣に寝ていた女性から「もう1回♡」とせがまれるんですが、そのときに「P2」で時刻を確認するんですよ。裸でSSケース&ブレスレットの「P2」を着けているのがとても印象的。シビレますね。
広田 当時の最先端とも言えるクオーツ時計を着けていたんですね。
安藤 物語ではそのあと、MI6の長官で、ボンドの上司にあたるMが遣わせた女性が修理に出していたロレックスの「サブマリーナー」を届けにくる。そして、それに着け替える。

広田 ハミルトンの復刻は本当に話題で、ゴールドはあっという間に完売しましたね。
安藤 見た目のみならず、本当によくできていました。
広田 裸にパルサーで、ジェーム・ズボンドを気取る。ご興味ある人はぜひいかがでしょう(笑)。
安藤 そして、もうひとつの神回が1983年公開の『007/オクトパシー』。これも、ロジャー・ムーア主演作品です……。
もうひとつの神回で登場する時計は……?「ボンドウォッチ後編」もお楽しみに!
「時器放談」とは……
マスターピースとされる名作時計の数々。毎回、こだわりの1本を厳選し、そのスゴさを腕時計界の2人の論客、広田雅将と安藤夏樹が言いたい放題、言葉で分解する。上に戻る
鳥居健次郎=写真 安部 毅=文