最っ高に面白いジャズ漫画がある。それが『BLUE GIANT(ブルージャイアント)』だ。
だが! その作者である石塚真一さんがメディアに出るのは珍しい。
熱心なファンを差し置いて、オーシャンズがズケズケと聞きたいことを聞いてみた。結論から言うと、ジャズも石塚先生も最っ高だ!
ジャズ入門で聴くなら、誰の、どの曲?
──いよいよアメリカ編(『BLUE GIANT EXPLORER』)に突入しましたね!
ついに辿り着きましたね。これまでの日本編、ヨーロッパ編(『BLUE GIANT SUPREME』)は取材ベースだったんで結構キツかったんです。
僕がジャズに出会って、打たれて、夢中になったのはアメリカに留学していたときのこと。ようやく自分の知るジャズの世界を描けるなと。

──アメリカのどこにいたんですか?
カリフォルニア州のサンノゼです。西海岸らしいハッピーな雰囲気。’90年代中頃の当時は、タダで聴けるライブもわりとやってましたね。
──やっぱり主人公の宮本大が演奏するような、激しいジャズでした?
現実のジャズにはいろいろな面があります。大人のムードも、スマートさも。もちろん激しいやつもあります。
漫画でなぜ激しさにフォーカスしたかというと、世界一を目指す若者が主人公だから。ジャズの激しくて、若々しくて、瑞々しい部分がマッチすると考えました。
──ジャズにはいろんな顔があるんですね。石塚先生的に好きなジャンルは?
ハードバップ(’50~’60年代のジャズ黄金期を支えたスタイル)です。アメリカでいちばんよく見ていたスタイルですし。やっぱり(主人公の宮本)大と同じで激しいやつが好きです(笑)。
──ジャズを知らない人にもおすすめの曲ってありますか?
うわ~何だろうな~。ハンク・モブレー「リメンバー」、ジョン・コルトレーン「ジャイアント・ステップス」、ソニー・ロリンズ「セント・トーマス」。3曲とも作品の中にも出てきます。どれも非常にわかりやすい、ジャズの教科書的な曲です。いや~僕も決して詳しくはないんですよ。冷汗が出る質問ですね(笑)。
ジャズの基本は白いシャツ。だからブルックス ブラザーズ!

──主人公の大が初デートのときに言いますよね。「白いシャツはジャズマンの証なんで!」って。なぜジャズマンの証なんですか?
’50年代、’60年代のジャズマンって、ことごとく白シャツなんですよ。ジャケットに、白シャツ、ネクタイでビシッと決めてますよね。主人公が憧れるジャズマン像を、あのセリフで表現したんです。
──なぜ彼らは白シャツを選んだのでしょうか。
なんで……なんで白シャツなんでしょうね?(笑) サロンのようなところで演奏していたから、ちゃんとした服を着なきゃいけなかったのかも。
詳しい理由はわかりませんが、誰もが白シャツを選んでいたことは間違いないですね。ジャズはシャツなんです(笑)。

──そんな白シャツつながりで、ブルックス ブラザーズとのコラボが生まれたんですよね。
そうなんです。
[ブルックス ブラザーズ×BLUE GIANT コラボレーションイベント]

ブルックス ブラザーズ 表参道のオープンと、シリーズ累計650万部を突破した人気ジャズ漫画『BLUE GIANT』のアメリカ編スタートを記念したコラボイベントを開催。石塚先生のオリジナルイラストや原画のほか、さまざまなアーティストとのコラボ作品も展示。さらにブルックス ブラザーズのシャツを購入すると、スペシャルグラフィックをプリントできるシルクスクリーンサービスも用意されている。
開催日時|10月30日~11月15日(日)
場所|ブルックス ブラザーズ 表参道
住所|東京都港区南青山5-7-1 H-CUBE MINAMIAOYAMA
電話番号|03-6803-8401
ジャズ界の洒落者列伝、TOP5は誰だ!?
──ジャズマンって確かにビシッと決めてますけど、スタイルに遊びがありますよね。
服も楽器も見せ方がお洒落。でもこの見せ方ってめちゃくちゃ重要なんです。例えばチャーリー・パーカーは素晴らしい音を出す天才。間違いない。一方トランペッターのディジー・ガレスピーはもちろん技術もあるんですが、楽器の見せ方がうまい。
──どんな見せ方なんですか?
トランペットの朝顔(ベルと呼ばれる先端部)が曲がって上を向いているんですよ! そんなことってあります? 楽器自体を変形させるなんて!
──反則すぎる(笑)。でも、チャーリー・パーカーのほうがテクあるんですよね?
ところが一緒に演奏していると、ディジーのほうばかり目が行っちゃうんです。
──そのほかのお洒落番長もぜひ、教えて下さい。

まずはマイルス・デイヴィスでしょう。何せ当時のブルックス ブラザーズの顧客ですから。それからセロニアス・モンク。この人はピアニストで、ハットと眼鏡が洒落てるんです。凝った竹フレームの眼鏡とか。
──ピアニストで動けないから、顔面回りで勝負したんですかね?
たぶんそうです(笑)。それからロイ・ハーグローヴは服が本当にお洒落。スーツに蝶ネクタイに……ナイキのスニーカーかよ!って。
──ジャズ界の洒落者列伝、調べたら面白そうですね。
やっぱり、服ってパワーがあるんです。僕ですらオーシャンズを読んで服を見ると楽しいし、ときめきます。前に進むための力になりますよね。
楽器は高額だし、どんどん買い換えるわけにはいかないけど、服なら十分アップデートできると思うし。
この先『BLUE GIANT』はどうなっていく?
──改めて石塚先生、ジャズ漫画を描こうと思った理由を教えてください。
何より、アメリカで聴いたジャズがカッコ良すぎたんです。もう、ずっと消えないんですよ、記憶から。

──若いときだと特にそうかもしれないですね。
若者にとってカッコいいって本当に重要。僕にとってのアメリカ生活の大事なお土産が、山とジャズです。『岳』という漫画を描いた理由と同じで、『BLUE GIANT』がジャズの入口になればいいと思ったんです。
──勝算はあったのでしょうか。
いろいろと厳しいご意見もいただきました、ジャズなんて今誰が聴くんだ?みたいな。でも心の底で「絶対イケる」と思っていましたね。

──その理由をぜひ教えてください。
絵として見たときもカッコ良かったからです。ブルーノート・レコードが出してきたアルバムのジャケットもそうです。人だけ、楽器だけ、あるいは弾く姿だけでカッコいい。これを伝えれば勝ちだなと。
──“カッコいい”はすべてに勝るというわけですね。オーシャンズにとっても参考になります。
個人的には、もっと服を描き込まなきゃいかんと思ってます。というのは、大にサックスを持たせないで描くと、なぜかキマらない(笑)。アルバムジャケットは人だけでも成立する写真がある。それってジャズマンがお洒落番長だからなんですよね。これからは服の絵、もっと頑張ります(汗)。
──最初に伺ったように、ついにアメリカ編です。物語の終わり方は見えていますか?
終わり方はまったく見えていません。世界一のジャズプレーヤーを目指している大ですが、何が世界一かはわかっていないと思います。僕もそう。これから大と一緒にアメリカを旅をしながら、答えを探していきます!
『BLUE GIANT』とは?
仙台出身の主人公、宮本大。世界一のジャズプレーヤーを目指して、雨の日も風の日もひとり川原でサックスを吹き続ける大は、高校卒業後に上京。仲間を見つけ成長を重ね、ついに国内最高峰のライブハウス「SO BLUE」のステージに立つ。ヨーロッパ編は『BLUE GIANT SUPREME』、アメリカ編は『BLUE GIANT EXPLORER』。強い意志を持つ青年とジャズマンたちの熱すぎる群像劇だ。
加瀬友重=取材・文