「看板娘という名の愉悦」とは……

時の鐘、菓子屋横丁、蔵造りの町並みなどが有名な埼玉県の川越。城下町の風情を色濃く残すことから「小江戸」と呼ばれる。

そんな川越のご当地ビールといえば、その名もずばり「COEDOビール」。醸造元のコエドブルワリーは今年7月、川越駅の目と鼻の先に新業態となる醸造所併設型レストランをオープンさせた。

店名は「コエドブルワリー・ザ・レストラン(COEDOBREWERY THE RESTAURANT)」。コンセプトは“ブルワリーのある街づくりの共創”だ。

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ほかにも、ビストロやスタンディングバー、ベーカリーなどのテナントが並ぶ。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
店内には看板娘の姿。

シックで落ち着いた店舗デザインは気鋭の建築家、中山英之氏が手掛けた。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
客席の背後には醸造タンク。

日本は欧米と比べて酒税法の規制が厳しいため、このような都市型立地にビール工場を作るのはかなり難しいという。

ドリンクメニューを見るとワインやカクテルも充実しているが、ここは「COEDOビール」一択だろう。何しろ、醸造仕立ての樽生が飲めるのだ。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
ラインナップは全6種類。

「毬花(まりはな)」、「瑠璃(るり)」、「白(しろ)」、「伽羅(きゃら)」、「漆黒(しっこく)」、「紅赤(べにあか)」。名称には日本の色名を冠している。

看板娘に好きな色を聞くと「赤が好きです」。

よし、「紅赤」のMサイズ(650円)をお願いします。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
熟練のスタッフが丁寧に注ぐ。

泡の黄金比率は7:3だが、客席への距離によって微妙に変えているそうだ。すごい。


看板娘、登場

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
「お待たせしました〜」。

こちらは看護系の大学に通う莉子さん(20歳)。「何となく川越で働きたいと思っていた」のと、「COEDO」のロゴが気に入って応募したそうだ。

「お客さんからこのTシャツが欲しいとよく言われるんですが、『非売品なので、ここでバイトしていただくしかないですね』と言うと笑いが取れます」。

フードメニューも拝見。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
中華料理をベースにさまざまなアレンジを施す。

「『紅赤』なら海老マヨが合いますよ」とのことで、「海老のマヨネーズ和え」(1200円)、「小松菜焼売」(400円)、「青ザーサイのナムル」(380円)に決めた。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
じつにいいねえ。

「紅赤」は川越産のサツマイモ、「小松菜焼売」も同じく川越産の小松菜を使用している。「海老のマヨネーズ和え」の赤いソースはビーツとハチミツで作ったもので、ピンクペッパーが爽やかさに華を添える。

さて、莉子さんが生まれたのは山梨県の富士吉田市。幼い頃から富士山を見上げて育った。

「もう、あって当たり前の存在。一緒に成長してきたと言っても過言じゃないです。久しぶりに帰省して眺めると、とんでもないものの近くに住んでいたんだなと思います(笑)」。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
新倉山浅間公園は五重塔越しに富士山を拝む人気の撮影スポット。

小学校の頃は図書室で本を読むのが好きな静かな子供だった。

「『妖怪レストラン』っていうすごい長いシリーズの本があって、休み時間はひたすらそれを読んでいました」。

ピアノは幼稚園から高校受験の前までずっと習っていた。趣味を聞かれると「ピアノと絵を描くこと」と答える。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
ギターはコロナの自粛期間で「何かに挑戦したい」と思って購入したもの。

しかし、富士吉田は想像以上にのどかな町らしく、近くの山からサル、シカ、クマ、イノシシなどが下りてくるそうだ。

「中学の登校時にはサルに追いかけられたんですよ。焦って鉄のフェンスに突っ込んだらすごい音がしてサルは逃げて行きました」。

様子を見ていたお祖父ちゃんが心配して救急車を手配。病院に行ってレントゲンを撮ったが無傷で気まずい思いをしたらしい。

そう、莉子さんはお祖父ちゃんっ子、お祖母ちゃんっ子なのだ。先日、帰省した際に「なんかいいな」と思って撮った2人の写真が下。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
無口なお祖父ちゃんと話好きのお祖母ちゃん。

この写真を元に描いたスケッチはLINEのトップ画像にしている。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
表情に雰囲気が出てますね。

祖父母は大掛かりな家庭菜園もやっており、野菜には困らないという。先日も新鮮な詰め合わせセットが送られてきた。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
莉子さんが大好きなナスもこの下に。

高校では茶道部に所属。稽古の前後には全員で「この道に入らんと思う心こそ我が身ながらの師匠なりけれ」といった言葉を唱和する。侘び寂びの精神を3年間みっちり学んだ。

「所作の中では、お湯を入れてお茶碗を温める作業が好きでした。お湯のサラサラしてる感じがいいんですよ」。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
立派な茶室がある学校でした。

温泉も愛している。一昨年の冬には高校時代に仲が良かった友人3人で草津温泉を訪れた。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
大雪注意報が出ていたが生脚で気合い十分。

マネージャーの西山晃弘さん(31歳)は、そんな莉子さんを陰に陽に見守ってきた。

「面接もしましたが、『看護師になる』という将来の目標を語るのを見て仕事を任せられそうだなと。実際、そつなく働いてくれています。ミスしたときのリアクションがやたら大きいのは、もう少し何とかしてほしいですが(笑)」。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
面接の様子を再現してもらいました。

莉子さんは子供の頃に病気で通院していたとき、精神的にも肉体的にも支えてくれる看護師の優しさに触れた。これが将来の目標にするきっかけだという。卒業は来年。ぜひ、「リアクションが大きい看護師」として患者さんから愛されてほしい。

さて、お会計をして店の外に出たが、最後のミッションがある。「COEDOKIOSK」と名付けられたお隣の直売所で、樽生をテイクアウトできるのだ。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
川越マダムもビールがお好き。

貼り出されたメニューを見ると「人生醸造craft」という変わった名前の銘柄を発見。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
「その色彩は、新たな世代への誘い」とある。

聞けば、最先端のAIで年代別の特徴を分析し、そのデータを元に職人が醸造したビールとのこと。

オーシャンズ的には「30’BLUE」(700円)をいただきましょう。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
今後はオリジナルグロウラー(炭酸と冷たさをキープする容器)も販売予定。

最後に読者へのメッセージをお願いします。

川越のビール醸造所併設レストランで、看板娘が祖父母への愛を語ってくれた
リアクションが大きいナスも描いてくれました。

 

【取材協力】
COEDOBREWERY THE RESTAURANT(コエドブルワリー・ザ・レストラン)
住所:埼玉県川越市脇田本町8番地1 U_PLACE 1F
電話番号:049-265-7857
www.coedobrewery.com/

「看板娘という名の愉悦」Vol.128
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文

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