看板娘という名の愉悦 Vol.26
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。
“ハッカー”といえばコンピューターを乗っ取って悪さをする人というイメージがある。しかし、本来は「難しい課題を簡単に解決したり、高い技術力で思い描くことを実現する人」を指す言葉らしい。
そんな心やさしきハッカーがおもてなしをするバーが六本木にある。
飲食店が多数入ったビルの4階に上る。

「ライブプログラミング」とは、ハッカーが客の目の前でコーディングやプログラミングをしてくれるパフォーマンスだ。
内装はオーセンティックなバーだった。しかし、店のスタッフと客の全員がノートパソコンを開いている。

席に着いてドリンクメニューを見ると、ハッカーにちなんだオリジナルカクテルがある。名前の由来がよくわからないまま、「ブルースクリーン」を注文した。


おっと、異例の展開だ。じつはこの男性、看板娘のお知り合いで、「ぜひ撮影を担当したい」と申し出てくれた方である。従って、今回の記事は僕が撮ったこの写真以外は彼の高級ミラーレスカメラによるカットです。
彼の本職はエンジニアだが、「断空我」というペンネームで学生時代からライターとしてパソコン雑誌などで活躍していた、その筋では有名な御人なのだ。

気を取り直して、看板娘にご登場いただこう。

彼女はエンジニアの祥子さん(32歳)。この店の月曜日を担当する“ハッカー”だ。
「ちなみに、『ブルースクリーン』というのはWindowsでOSに異常が発生した時に現れる青い画面のことです」

彼女は、自身も含めてなかなか外に出る機会がないエンジニアの交流の場を作りたいと思っていたが、まさにドンピシャのこの店の存在を知る。悔し紛れに訪れたところ、オーナーから「いつから働きますか?」とスカウトされたそうだ。



なるほど、ハッカー度が異様に高い。
特技を聞くと「ルービックキューブの色を一瞬で揃えること」らしい。


「まあ、マジック的なあれなんですけどね」とのこと。その他の活動としては、仲のいいメンバーで毎年面白い企画にチャレンジしている。
「映画館を貸し切って自分たちで撮った映像を流したりとか。埼玉の桶川でスカイダイビングに挑戦したこともあります」

「私も高い所に行くと発汗や震えがすごいので高所恐怖症っぽいんですけど、これは楽しかったです」
ハッカーは肝が座っている人が多いのだろうか。なお、PCと繋げられる大きなモニターが天井からぶら下がっていて、そこではさまざまなハッカーワークが見学できる。

祥子さんのベストスコアは0.798秒だが、右の店長・緒方さんは0.703秒。上には上がいる。
そして、カウンターのお客さんも全員IT関係の仕事に就いている。看板娘の印象を聞いてみたところ、「気さくで話しやすい」「また来たくなる」「ショートカットがかわいい」など、いずれも高評価。

店内には面白いグッズもたくさんあった。

さらに、壁には夜景の動画が映る最大級のアンドロイド端末が架かっている。

お酒のお代わりを何にしようか迷っていると、祥子さんが「イクスピアリで造っている舞浜の地ビールもありますよ」。おお、それをいただきます。

ところで、ここはハッカーが何でも相談に乗ってくれる店だ。最近、仕事用のPCに届く迷惑メールの量がハンパないので、祥子さんに対策法を聞いてみた。
「集合知を使ったほうがいいですね。GmailやYahoo Mailだとユーザー全員の迷惑メール情報が集まりますから」
でも、結局のところ受信拒否はできないんですよね?
「そうですね。仮に拒否できたとしてもアドレスは無限に増やせるので、あまり意味はないかも」
ハッカーにもできないことはある。そう思っていたら、翌日から迷惑メールの量が激減した。祥子さん、何かしてくれました? ハッカーは人の心までをもハッキングできるのだろうか。

【取材協力】
ハッカーズバー
住所:東京都港区六本木7-12-3 パワーハウスビル4F
電話番号:050-5218-7224
https://hackers.bar
石原たきび=取材・文