今注目の人に人生を楽しむためのヒントを聞くインタビュー、お相手は歌舞伎俳優の六代目 中村勘九郎さんだ。
アニメ好きでポケモンが大好きな中村さんだけに、インタビューは笑顔の絶えない賑やかなものに。
漫画、アニメ、ゲーム、アイドル……すべて歌舞伎にとって必要なもの
「え、動いていいんですか!? ブレちゃいますよね?」。
レトロなフィルムカメラのレンズを、興味津々に覗き込む。フォトグラファーが、動いても大丈夫ですよと言うと「本当かなぁ(笑)」と訝りつつ、ぎこちなくカラダを動かす。よほど気になったのか、撮影を終えると再びカメラを不思議そうに眺める。
気になることは突き詰めたくなる性分は昔から変わらない。好きなものはアニメ、ゲーム、アイドル……。言葉だけなぞらえたら、まるで子供みたいだ。
「子供が親から禁止されているものばかりですよね」。自嘲気味に語るそばから「ただ、どれも歌舞伎につながる部分があるんですよ」と続ける。
「漫画やアニメのキャラクターが見せる表情や仕草は、芝居の参考になることがありますし、アイドルがライブなどで叫ぶ“コール”は、“中村屋!”という歌舞伎の『大向こう(おおむこう)』とつながっていますし。ちょっと言い訳がましいかもしれませんが(笑)」。
六代目 中村勘九郎のインタビューは笑顔が絶えない。

「僕にとってのFUN-TIMEは、漫画を読んでいるときです。多いときは週刊の漫画誌だけでも10冊くらい並行して読んでいました。今はマストで読んでいるのが週3誌で、これにイレギュラーで何冊か加わります。読んでいる時間は何もかも忘れて、ただただ漫画の世界に浸っています。
特に印象に残っているのが学生時代に読んだ『スラムダンク』です。その当時、駅でジャンプを買って電車の中で読んでいたんですが、感動的なシーンがあって号泣してしまったんです。ふと周りを見渡したらなんと、同じ漫画を読んでいる人が同じように泣いていて……。
そのときに漫画の素晴らしさみたいなものを改めて感じました」。
最近の漫画は紙ではなくデジタルで読むことができるが、勘九郎は「絶対に紙ですね」と即答。
「例えば格闘漫画の戦闘シーンや、スポーツものの駆け引きの描写などもそうなのですが、ページをめくった瞬間に次の展開が急転していたり、逆に時が止まったように静寂に包まれていたりするじゃないですか。あの感じがたまらなく好きなんですよね。
“自分で紙をめくって見る”という行為も含めて漫画が好きなんです」。
サトシが話しかけ、ピカチュウが叫ぶ。声優という夢がかなった瞬間は感無量

『劇場版ポケットモンスター ココ』では、幻のポケモン・ザルードの声を担当している。アニメ好きで、しかも高校時代『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』(’98 年公開)を映画館で観て、昨年公開した『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』も、親子で観たという、ある意味筋金入りのポケモンマスター。
その喜びはいかばかりかとたずねると、ここでも子供のように破顔し、気色満面に答える。
「漫画と同じくアニメも昔から大好きで、声優をすることが夢だったんです。そのデビュー作が長年にわたりみんなから愛されるポケモンシリーズで、しかもポケモン役をいただけたわけですから、心の底からうれしかったです。
収録のタイミング的に僕は終盤で、すでにほかの声優さんの声が入っている状態だったのですが、それがまたすごく感動しました。だってサトシ(『ポケットモンスター』シリーズの主人公の少年)が耳元で話しかけてきて、ピカチュウがピカピカ言っているんですよ!」。
親子の絆を描いた物語を通じ、自身も思うところがあったそう。
「両親からは当たり前のように愛情を注いでもらいましたが、それが当たり前ではなかったということですね。今回作品に携わったことで、改めて両親からの愛の深さを感じました。
子供たちに対しては、自分が親からそうしてもらったように、選択のできる環境をつくってあげたいと思いました。役者業は嫌ならやらなくてもいいし、やりたいことを見つけたらそれをやりなさいって言う。
あとサトシのように、諦めない心を持ってほしいとか、優しい人になってほしいとか、強くなってほしいとかいろんな想いが生まれました」。
強くて優しい、人間力の塊のような父親は、一生追いつけない「憧れの存在」

今作で自身が演じたポケモン・ザルードを通じ、格好いいお父さんを演じた勘九郎にとって、自身が抱く“格好いいお父さん像”とはどんなものなのだろうか。
「そうなると父親(十八代目 中村 勘三郎)になってしまいますね。まず言ったことは必ず実現する有言実行の人で、これはすごいですよね。
あと言い方として間違っているかもしれませんが掃除機のような人で、周囲の話はもちろん、面白いことはすべて吸い込んで発信をするという、バイタリティの塊のような人だったんです。とにかく周囲を巻き込む力というのがすごくて。僕はああいう人間にはなれませんが、憧れますね」。
漫画やアニメなどのほかに、最近新たに気になっていることがあるそう。超インドア派を自称する勘九郎からすると実に意外なものだった。
「家族でキャンプに行ったのですが、すごく楽しかったんです。ただ、セッティングとかは全然できないので、おまかせしてしまったのですが(笑)。
そのキャンプ場はピザ窯を貸してくれるところだったので、ピザを自分で焼きました。美味しくできたこともそうですが、焼くこと自体がすごく楽しくて。気付いたら1時間以上、ずっと窯の前にいたんです」。
今はソロキャンプも流行っているという旨を伝えると、「僕にはレベルが高すぎますね」とひと言。その直後、何かを思い出したらしく「あ、そういえば……」と、いたずら交じりの笑顔でこう続けた。
「あつ森(『あつまれ どうぶつの森』)」ならやっていますよ。最初の頃は子供たちと一緒に始めたんですけど、今ではやっているのは僕だけ(苦笑)。そういった意味ではソロキャンプを楽しんでいますね、ゲームの中だけですが(笑)。
あ、でもいつかゲームではない実際のキャンプを、他の人におまかせするのではなく、自分の手で実現させたいです(笑)!」。
最後の最後に歌舞伎俳優然と、自信満々に大見得を切った勘九郎。この言葉を聞いた瞬間、心の中で大向こうを張らずにはいられなかった。「いよっ! 中村屋!!」。
赤木雄一(eight peace)=写真 寺田邦子=スタイリング 宮藤 誠=ヘアメイク オオサワ系=文