看板娘という名の愉悦 Vol.29
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。

雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。

お洒落タウン恵比寿には名店が山ほどある。そのひとつが、Subrideo Restaurare(スブリデオ レストラーレ)だ。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけたの画像はこちら >>

ちなみに、スブリデオはラテン語で「笑顔」という意味らしい。小粋な店名です。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
左の看板を書いたのが今回の看板娘。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
なるほど、シックな内装です。

メニューを見ると、自然派ワインと熟成チーズが売りのようだ。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
すべてのフードメニューに、もれなくチーズが添えられる。

さて、看板娘がオススメのワインを3本持ってきてくれた。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
村上香織さん(33歳)。

「左はフランスのスパークリングで、酸味が効いていてフルーティーな味わい。

真ん中はフランスの地ぶどうで作ったワインで、チーズとの相性がバッチリです。右はポルトガルのドウロ地方で作られたワインで、とくに夏にオススメしています」

決めた。「どれを選んだと思いますか?」と聞くと、即答で「これでしょう?」(上の写真)。正解です。ラベルがかわいいから。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
完璧な解説は日々の勉強から生まれる。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
テラス席に移動して……。

香織さんが「白ワイン特有の濁りがまったくなくて澄んでいます」というワインをいただくことにする。グラス1杯900円。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
はい、どうぞ〜。

これは美味しい。すっきりとした飲み口で、何杯でもイケそうだ。ここで、「明日からメニューに乗せるフードがあるんですが、召し上がりますか?」というご提案。おお、ぜひ。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
絶対に美味しいやつだ。

「『スブリデオオムレツ&ラクレット』です。

ラクレットはフランス人のエルベさんが作った熟成チーズで、こういう風に切り口を温めてから削いでお料理に乗せます」

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
お値段1600円。

「2018年で一番美味しい」。思わず、最高の賛辞が口から飛び出した。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
オムレツの中はふわっふわのスフレ。

大袈裟ではなく本気で美味しい。「シェフを呼んでくれ」とは言わず、自分で感想を伝えに行った。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
大いに喜んでくれたオーナーシェフの吉田健志さん(48歳)。

ついでに、香織さんの魅力も聞いてみよう。

「とにかく、人間が好きで好きでたまらない子。人を笑顔にさせる天才だし、お客さんの好みもすぐに覚えるのでフロアは任せっぱなしです」

こちらも、かなりの高評価だ。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
イタリアから直輸入したというチーズ専用の熟成庫。

そうだ、香織さんイチ推しのチーズは何だろう。

「あー、超いっぱいあるから難しい! 強いて言えば、イギリス産の『スティルトン』でしょうか。熟成が進んで凝縮された旨味がやばいです。よかったら、ひと口どうぞ」

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
確かに「旨味がやばい」という表現がぴったりでした。

香織さんがチーズの勉強を始めたきっかけは、「4年ほど前に交際していた彼が酪農家を目指していたから」という、なかなかにピュアなものだった。

「結局別れたんですが、それとは関係なくチーズの面白さ、奥深さにハマっちゃいました」

一方で、インドヨガのインストラクターを目指していたという意外な一面もある。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
2回目のインド旅行で知り合ったインド人の家族。

「ちょうどこの村でヤギ肉のお祭りがあって、ヤギを一頭買い付ける現場にも連れて行ってもらいました。帰国時は家族みんなが泣いちゃって、バイバイするのがすごく辛かったのを覚えています」

旅の思い出は聴く者をも旅人にさせる。つまり、ワインのお代わりをします。再び、3本のボトルを持ってくる香織さん。ひと通り説明を聞いたのちに、「どれにしたと思います?」「これでしょう」。正解です。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
「Ondine」というフランスのオレンジワイン(1100円)。

「ぶどうの房ごとタンクに入れて密閉したのちに、ぶどうの自重で潰れていくのを待ちます。白ぶどうを使って赤ワインの製法で作るワインですね」

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
リンゴの蜜やメープルの甘い香りも漂う至福の1杯。

壁には店を訪れたワインやチーズの生産者が書いたサインもあった。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
滋賀や那須高原からも。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
こちらはテイクアウト用のショーケース。

香織さんに今の仕事について聞いてみた。

「シェフの料理が大好きだし、お客さんもみんな大好き。人生を捧げられる職場ですね。今まで、仕事に行きたくないと思ったことは1度もありません」

さっきのチーズのようにとろけそうな回答だ。

しかし、ワインを2杯しか飲んでいないのになんだか頭がぽわわんとする。良質なお酒は酔いの回りも早いのだろうか。あるいは、看板娘の神接客に酔ったのかもしれない。

ごちそうさまでした。最後に読者へのメッセージを。

恵比寿のワイン&チーズビストロで、看板娘の神接客にとろけた
人との交流スキル同様、絶妙なバランス感覚である。

【取材協力】
スブリデオ レストラーレ
住所:東京都渋谷区恵比寿4-11-9 クオーレエビス103
電話番号:03-6721-7847
www.facebook.com/SubrideoRestaurare/

石原たきび=取材・文

編集部おすすめ