「まずは最高のタオルを作りたいというのが出発点でした」。
素材への飽くなき追求で知られる「エイトン」の久崎康晴さんは、新ブランド「エシャペ」を手掛けた理由をこう語る。
久﨑康晴さん
カットソーやパーカなどで定評のある「エイトン」のディレクター。そのスピンオフとも言える「エシャペ」はオンラインを中心に、エイトンの店舗でも展開する。
「エイトンで作っているのはベーシックな服ばかりですが、それでもファッション界の消費サイクルの速さにどこかしんどさを感じていました。
ならばタオルやパジャマ、ベッドリネンといった、パーソナルな安息の時間に添い遂げるアイテムを、一生レベルの定番になり得るものを数型だけ作り続けるのはどうだろうと考えました」。

きっかけは自宅用のタオルを探していて、欲しいクオリティのものが市場にまったくなかったこと。
「一般に高級とされるタオルは綿素材のフワフワなものです。でも、20数年前にイタリアのとあるホテルで使ったタオルが僕の理想。それはリネン素材の一枚で、ひと拭きしただけで体の水気をすっかり吸い取ってくれたんです。まるで乾布摩擦したみたいに。
その話を今治の職人さんにぶつけてみたら、タオル談義で盛り上がって……」。

リネンは繊維に「伸び」がない。ヘタりにくい半面、その糸を高密度に、しかもタオル地にするためにパイルのループを織り上げるのは至難の業だ。
それをクリアし、使い込んでも毛羽立ちしない品質を実現したのがエシャペのリネンタオルになる。

「部屋で常に目に触れるものなので、やっぱり美しいものがいい。そこで、従来の草木染めとは一線を画する手法のボタニカルカラーを取り入れました。詳細は企業秘密になってしまうのですが、環境汚染を排除しつつ、最低限の植物原料だけで鮮やかかつ深みのある表情になるんです。
ブラウンは黒松、グリーンは熊笹と、日本に昔から自生している植物から抽出しています。パジャマやボクサーショーツはマシンでなく手摘みで収穫された細番手のスヴィン綿を採用していますが、こちらもボタニカルカラーで染め、佇まいの美しさにこだわりました」。

どのアイテムも久崎さんが自身で試し、ときには数年間使い込んで、品質を確認している。
「前回の自粛期間中は、少しずつ織り方を変えたタオルのサンプルをひたすら洗濯しまくっていました。リネンは綿の3~4倍も吸水率が高く、大人ひとりなら小サイズのタオルでも体の水滴をぬぐいきれますし、ひと拭きしたあとの肌の濡れ残り感も皆無。速乾性も高く部屋干しでちゃんと乾きます。
このタオルがあれば、普段のおうち時間がちょっと『いいもの』に変わると自負しています」。
鈴木泰之=写真 来田拓也=スタイリング 髙村将司、安部 毅、増山直樹、磯村慎介(100miler)=文