「Mobilityレボリューション」とは……
ソニーが車を作る? そんな驚きのニュースが最初に世界を駆け抜けたのは、2020年1月のこと。
世界最大級の家電見本市「CES 2020」でソニーブースに現れたのは、新型のテレビでもゲーム機でもなく、「VISION-S」と名付けられた車だった。
その2年前。2018年の「CES 2018」ではメルセデス・ベンツが「CASE」という概念を発表した。
「自動車業界は百年に一度の変革期を迎えた」と言われるようになったこの発表が、ソニーが車を作る動機のひとつになったという。
CASEとは「Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared&Services(シェア&サービス)、Electric(電動化)」の頭文字をとった言葉。
「その内のC(コネクテッド)・A(自動運転)・E(電動化)は既にソニーに土壌がある。変革だというなら、自動車業界の外から我々が飛び込むこともまた変革のひとつ」と捉えたのだ。
このわずか2年後の「CES 2020」で、ソニー初の車VISION-Sが発表された。ざっくり言えば、自動運転ができる電気自動車のプロトタイプだ。

同社のカメラでお馴染みの、世界最高峰と言われるイメージング&センシング技術を活用した自動運転技術や、長年培われてきたオーディオ技術などによって作られるエンタメ空間化した車内、さらにはクラウドやAI、ネットワーク技術など、まさにソニーの技術の粋を集めた車なのだ。

最新のVISION-Sは40ものセンサーが搭載され、自動運転レベル2+相当を実現。さらにソフトウェアのアップデートにより、レベル4に相当する自動運転システムを目指しているという。
車の運転からドライバーを解放するだけでなく、表情や仕草を読み取って、集中度や疲労度を判断し、必要に応じてアラートを発する。
「運転」から解放された人間の、車内での過ごし方についても、VISION-Sは解答を示している。
全方位から音に包み込まれるような没入感のある立体的な音場を提供。しかもアーティストや曲目によって自由に「音を配置」することができるので、乗員はアーティストの意図した音楽を鮮烈な臨場感を伴って享受できる。
また車内幅いっぱいに連なるパノラミックスクリーンは映画やゲームなどの映像コンテンツを映し、コントローラーで対戦ゲームに興じることもできる。
さらにVISION-Sが好みの室温や音楽、ルートなどを“学習”することで、いっそう快適な「移動空間」に育っていくのだ。

と、どこもかしこもソニーならではの強みが遺憾なく発揮されているが、この車の製造には、他企業にも協業を仰いだ。
そのひとつ、マグナ・シュタイヤは、車好きなら耳にしたことがあるかも知れない有名な自動車製造企業だ。メルセデス・ベンツ Gクラスや、電気自動車のジャガー Iペース、トヨタのGRスープラなど多くの車の製造を請け負っている。
このことからも、VISION-Sが単なるショーカーではないということが窺える。

そのマグナ・シュタイヤは「ソニーが参入するのはモビリティの未来に大きなインパクトを与えます」と言う。
同じく開発の一端を担った、自動運転技術を持つAlmotiveは「私たちがソニーのビジョンを理解したとき、そして新しいエコシステムの中でモビリティの世界を変えていくということを理解したとき、それこそがモビリティの未来の姿になると考えています」と発表している。
そんなモビリティの未来を変えるかも知れないVISION-S。今年の「CES 2021」では、2020年暮れからオーストリアで公道走行による技術検証の段階に移ったと報告された。
車が“電化”へと急加速しだした今、車の世界でも「It’s a SONY」と言われる日が来るかもしれない。
「Mobilityレボリューション」とは……
コロナ禍による新生活様式。「2030年までに新規発売の車をすべて電動に」という政府発表。2021年は移動手段に革命が起こる年かもしれない。ひとりで、複数人で、街乗りで、遊びで。さまざまなジャンルや場所で登場している“新たな選択肢”を紹介しよう。
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籠島康弘=文