「偏愛スニーカー三番勝負」とは……
格好いいから、楽だから、機能的だから――いろいろ理由はあるけれど、スニーカーにかける深い愛はそれだけでは語れない。
業界屈指の古着好きで、過去には古着店のスタッフ経験もある人気お笑いコンビ・ロッチのコカドさんの場合は?
①先鋒 ’70年代のコンバース「チャックテイラー」
17歳のときにお笑いの世界に足を踏み入れ、売れることを夢見て腕を磨いてきた。と同時に、コカドさんにはもうひとつの夢があった。
「’90年代のヴィンテージブームのときは大阪のアメリカ村がもう古着店だらけ。“デカグツデカシャン”といって、めっちゃデカいスニーカーにデカいシャンブレーシャツを合わせる着こなしが流行ったんです。
スニーカーのシューレースをマックスに縛るのがお決まりで、中学のときはその姿に憧れましたね。お洒落に興味を持ち出したのはその頃からです」。
以降、古着にどっぷりハマる。20歳のときには好きが高じて古着店で働いたこともある。
店内には数十万円はくだらない憧れのアイテムがズラリ。当時はお金もなくただ指をくわえて見ているしかなかったが、今では芸人としてもブレイクを果たし、晴れて購入できるようになった。
その象徴ともいえるのがこちらのチャックテイラーである。
「中学、高校時代は古着ブームが直撃し、ヴィンテージ品が欲しくて欲しくてたまりませんでした。でも値段的に買えなかったので、いつか入手することを夢見てお笑い芸人として頑張っていたんです。
2009年頃ですかね。やっとお笑いで食べていけるようになったときに、まずこのチャックテイラーを買いました」。
昔の名残からか、今でも大きめの靴しか履かないとコカドさん。こちらもご多分に洩れずで、やや大きめなうえ真っ赤なカラーが印象的だ。
その道を志して13年。30歳で手にした一足は、達成感を思い起こさせ自然とテンションもアガる。と同時に、まだ道半ばと自らを戒める原点回帰の一足でもある。
「今でも、ここぞの場面で履くことが多いスニーカーです。不思議とスイッチが入るんですよね」。
②中堅 ’80年代のコンバース「オールスター」
ここ最近、古着の価格が高騰傾向にある。コンバースも然りで、弾数が少なくジワジワと価値も高まりつつある。
USメイドとなればなおさらで、その上がり具合はブームだった’90年代当時のようである。コカドさんの2足目はそんなアイテムだ。
「USA製の’80年代オールスターです。デッドストックをいくつか持っているんですけど、普段は一足ずつおろしながら履いています。チャックテイラーよりもこちらのほうが履きやすくて好きなんですよね。
リーバイスのジーンズもそう。“XX(ダブルエックス)”よりは“ビッグE”のほうがはきやすいんです」。
しかも“銀箱”付きというのがまたいいのだが、実はこちら、銀箱だけでなくハートフルなエピソードまで付いているという。
「下北沢のスニーカーショップに、僕の好きなものを知ってくれている店員さんがいるんです。で、下北でよくお世話になっている焼肉店さんがあって、その女将さんが毎年、誕生日プレゼントを僕にくれるんです。
女将さんがそのスニーカーショップへ行って『僕に何かプレゼントをしたい』と相談したら、その店員さんがこれなら絶対に喜んでくれると言って推薦したらしく。それでプレゼントしてくれました」。
“東京の母”からの贈り物。これを見ながら日々、コカドさんはお笑いと向き合っている。
③大将 ’90年代のヴァンズ「エラ」
コンバースを中心に紹介してきたが、日頃からよく履くスニーカーが実はもうひとつ。それがヴァンズで、現行品からヴィンテージまでコカドさんの下駄箱の4割ほどを占めている。
「だいたい多いのはオーセンティックのブラック。スリッポンのチェッカーフラッグもよく履きますね。僕の好きな洋服にも合うので、ヘビロテしてます。めちゃくちゃ持っていますが、これは今までに見たことがなかったんです」。
こちらもまた、“東京の母”からの贈り物。よく見るとサイドとシュータン部分に自由の女神と“NEW YORK”の文字がプリントされている。
「これは’90年代のエラ。よく行くスニーカーショップのショーケースにずっと入っていてめっちゃ欲しかったんです。
でも、デッドストックでめっちゃ高い……。だから、行っても見るだけでした。
こんなお宝との出会いこそ古着店巡りの醍醐味で、今でもトレジャーハントは欠かせないとか。
「営業で地方に行ったりするんですけど、名古屋にめっちゃいい店が一軒あるんです。この前も、たまたま行ったらレジの脇にリーバイス 502のビッグEのデッドストックがあったんですよ。
サイズも僕にぴったりなんですけど価格は17万円ほど。もう悩みすぎて、その日は仕事でもないのに名古屋に泊まっちゃいましたもん(笑)。一回寝て起きて、まだ欲しかったら買おうと決めて。結局、行っちゃいましたけど(笑)」。
◇
古着にハマり出して25年以上経た現在もその愛を持ち続け、シュークローゼットもヴィンテージのコンバースやヴァンズが大半。しかも、入手しづらい稀少品まである。
その一途な想いに共感する大人は多いのでは?
「偏愛スニーカー三番勝負」とは……外に出られずとも眺めているだけでアガる、それがスニーカー。
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菊地 亮=取材・文