「腕“時”慢」とは……

日本屈指のヴィンテージウォッチ専門店として人気のケアーズ。東京ミッドタウン店の店長兼バイヤーを務める青木 史さんは、この道20年近いキャリアを持つ目利きだ。

青木さんの所有するコレクションから、3本のMy定番を紹介してもらった。

ルクルト・IWC・パテックの大定番をMy定番にする、業界の目...の画像はこちら >>

青木 史●1976年生まれ、東京都出身。関西のセレクトショップで販売を経験したのち、ケアーズに入社。時計のみならず、古着、家具などヴィンテージ全般に精通する。


定番以上の存在感を放つ旧き佳き時代の「レベルソ」

1本目の登場するのは角型時計の代名詞、ジャガー・ルクルト、レベルソだ。

ポロ競技で着用するために開発された反転ケースは時代を越えて愛され続けている。

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青木さん愛用の1本は目立つダメージが見当たらない状態を保っている。

「このレベルソは入社して5年目くらいに買ったもので、スーツを着るときはほぼコレばかり着けていましたね。最近は着用する機会はだいぶ減りましたが」。

時計好きなら誰もが知る定番レベルソも、ヴィンテージを選ぶと表情が別物になる。

ちなみにコチラは1930年代初頭に生まれた初期型にあたる。

「ファーストのわかりやすい特徴として挙がるのは、文字盤にモデル名だけが記された2針の時計であることです。ムーブメントは自社製ではなくタバン社の製品を搭載しています。購入してからだいぶ経ちましたが、今見てもとてもいい時計だと思います」。

知識や経験を重ねるほどシンプルな見た目の良さがわかる。そんな味わいもヴィンテージウォッチの醍醐味なのだろう。


普段使いに最適なIWCのミリタリーウォッチ

IWC、マーク11の民生用モデルは、青木さんの生まれ年にあたる1976年頃に製造されたものだ。

「生まれ年の時計を所有することにまったく興味がなかったのですが、お客さんの時計を探したり、相談に乗っていくうちに少しずつ意識が変わりました」。

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ブロードアローが入らない文字盤はすっきりとした印象。

青木さんはケアーズに入社して以来、購入までのプロセスであったり、その時計が持つヒストリーを大切にしながら収集を続けている。

「公私ともに付き合う、信頼のおけるイタリア人バイヤーから紹介してもらったこともあって、この時計はかなり思い入れがあります。

一説によると、クオーツショックで壊滅的な打撃を受けた1970年代はIWCも経営が苦しく、ミリタリーウォッチ専用に作っていたはずのマーク11でさえも市販せざるを得ないほど追い込まれていたのだと聞いたことがあります」。

所有する時計のなかでもマーク11の着用頻度はダントツらしい。

「飽きのこないデザインに加え、防水機能を備えた堅牢な設計だからとても使いやすいです」。

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服装を選ばずに着用できることもマーク11の大きな魅力。

「僕は洋服も大好きだから、若い頃は時計を着けるときの服装に対してこと細かなルールを設けていましたが、今はあまり気にしなくなりました。

自分が好きだと思える時計を楽しめるかどうか。着こなしよりもそこがいちばん大事だと最近はそう思っています」。

40年以上前に作られた時計が今も現役で活躍する。

マーク11が長年定番として親しまれている理由はそこにある。


とっておきのパテック フィリップ×ティファニーのWネーム

最後を飾るのはパテック フィリップの代表作であり、究極のドレスウォッチと評価される名品カラトラバ。

愛好家の間で“クンロク”と呼ばれる1932年に誕生したRef.96は、カラトラバ始まりの1本である。

「Ref.96はコンスタントに人気があるため、仮にいい個体が見つかったとしても馴染みのお客さんを優先してしまうから、なかなか購入する機会に恵まれませんでした」。

青木さんが2年ほど前に入手した1本は、稀少な1950年代のティファニーとのWネームだ。

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12時位置には、象嵌プリントに記された両社のブランドネームが入る。

「当時のティファニーはものすごく勢いがあって、文字盤にブランドネームをプリントした時計を販売していました。パテック フィリップのRef.96もそのひとつです」。

抜群のコンディションを維持した文字盤には、両社のブランドネームのほか、極太のドルフィン針、バーインデックス、6時位置のスモールセコンドなどが上品に配されている。

「Ref.96はケース径30mmほどの小さな時計ですが、数字以上に大きく感じられる理由は、フラットなベゼルやラグの形状、18mmの太めのベルト幅にあります。

とりわけ1950年代頃は文字盤のレイアウトが素晴らしくて、“あらゆる腕時計の模範”ともいうべきポイントが詰まっています」。

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バウハウスの思想から生まれたカラトラバスタイルの真髄は、時代を超越したデザインにある。

「僕のなかでは、ティファニーとのWネームであること以上に、Ref.96らしい1本を手に入れることを優先していました。

これから年を重ねるにつれて、活躍の場が増えていくと思います」。

三者三様の魅力が感じられる大定番時計は、いずれも青木さんのウォッチライフを充実させる相棒にほかならない。

「腕“時”慢」とは……
腕時計好きが愛用する自慢の1本。なんで好きなの? いつ着けるの? 出会いはいつ? あなたの腕“時”慢なモノ語り、お願いします。
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鳥居健次郎=写真 戸叶庸之=取材・文

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