「20代から好かれる上司・嫌われる上司」とは……
そもそも「五月病」とは?
もともと「五月病」とは、医学的な病名ではなく、大学生が入試までは気を張り詰めて頑張っていたのに、入学すると早々に無気力になってしまうことを指した言葉でした。
もちろん、「五月病」がひどくなれば、うつ病など本当の病になることもあります。
そして近年では、新卒で入社した社員が入社直後に無気力になることにも使われるようになりました。
さまざまな調査によるとおおよそ4人にひとりは(あくまで主観的にですが)「五月病」らしきものを経験するということで、どんな人でも陥ってしまう可能性のある「病気」です。
皆さんにも経験された方がいらっしゃるかもしれません。
最近でも入社後に無気力になる、という問題は変わっていない
このように、何十年も前から巷間に知られていた「五月病」ですが、その実情は今でも変わっていません。
「オンボーディング」(新入社員の定着を促進する諸施策の総称として最近使われている言葉。もともとは飛行機や船への搭乗などを意味する)などと言って、会社側も意識して新入社員が五月病になって、メンタルヘルスを悪化させたり、ひいては早期退職につながったりしないように努力してきてはいます。
しかし、それでも入社後3カ月以内に新入社員に何らかの精神的問題が起こりやすいという事実はあまり変化していません。
そのせいか、何十年もの間、大卒新入社員の3年以内の離職率は約30%のまま推移しています。
なぜ「五月病」が起こるのか
このように、やっとの思いで採用した新人が潰れたり、早期退職したりと、甚大な問題を起こす「五月病」ですが、なぜ起こるのでしょうか。
大きな原因のひとつと考えられているのは、リアリティショック(入社前に抱いていたイメージと現実とのギャップ)です。
2019年のパーソル総研の「就職活動と入社後の実態に関する定量調査」では8割近くの新入社員がリアリティショックを感じているとのことです。
同調査によれば、最もギャップを感じるのは、給与や昇進スピードなどの「待遇面」ですが、その次がやりがいや達成感などの「仕事面」、そして上司の能力への失望や関係性など「上司との関係面」でした。
「上司」が問題であることも多い
待遇は会社のルールなので、コントロールしにくいところです。しかし、仕事のやりがいや達成感などは、上司が新人に対して、仕事の価値や意義、ゴール設定などをきちんと意味づけができていれば解決できることです。
同じ仕事をしていても、意味づけによってモチベーションは大きく変わります。
仕事で能力を見せつけて「うちの上司はすごい」とリスペクトを獲得できてなかったり、部下と人間関係を作れていなかったりする、いわゆる上司に対するリアリティショックは、言うまでもなく上司が解決すべき問題です。
要は「五月病」は上司が原因の可能性も大きいということです。
「自分がつらいのは、上司のあなたのせいなんですよ!」
それなのに当の上司が、自分が原因であることに全然気がつかずに、落ち込んでいたり無気力になっていたりする新人に対して、「どうした? 大丈夫? それ、五月病なんじゃない?」などと軽口をたたけば、相手は「あなたが原因なんだけどな……」と心の中では思っているかもしれません。
もちろん、人間関係が築けていない上司に、新人がストレートにそんなフィードバックをしてくれるはずがありません。
苦笑いしながら「そ、そうですか……」ぐらいの力無い返事ぐらいが関の山でしょう。
「この人には何を言ってもダメだ」と思われてしまうと、その先はサポートしたくても相手は心を閉ざすばかりです。
新人にではなく、マネジメントに問題がないか振り返る
人は、自分を正当化しがちな存在です。
採用したばかりの新人が仕事や職場に馴染めずにいれば、それを新人本人の問題と思ってしまうことも多いでしょう。
実際、すぐに「あいつは採用ミスだ」と言うような心ない上司たちを何人も見てきました。
もちろん、新人個人に原因があることもあります。しかし先に述べたように、五月病やリアリティショックは多くの人が陥ってしまう現象であり、多くは仕事環境、つまり上司やマネジメントに問題があることは明らかです。
もし自分の職場の新人が五月病的な症状になっていたら、マネジメントに不適切なところがないかを真っ先に疑うべきです。
「できない人を活かし、できる人に変えていく」のがマネジメント
もっと言うと、万が一、新人個人に大きな原因があったとしても、それを「採用ミス」だと言って対処を放棄する人は、上司失格だと私は思います。
「できる人をマネジメントする」ことは誰だって簡単にできます。マネジャーとは「できない人(に現状なってしまっている人)をなんとか活かして、できる人に変えていく」ことではないでしょうか。
それを「採用ミス」だと大声で主張するのは「私にはマネジメント能力はありません」と宣言しているようなものです。
この少子化時代、すなわち人手不足時代は、育成力勝負の時代とも言えます。
五月病に陥った新人を救い出す力は、上司の皆さんには必須の能力なのです。
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「20代から好かれる上司・嫌われる上司」とは……
組織と人事の専門家である曽和利光さんが、アラフォー世代の仕事の悩みについて、同世代だからこその“寄り添った指南”をしていく連載シリーズ。好評だった「職場の20代がわからない」の続編となる今回は、20代の等身大の意識を重視しつつ、職場で求められる成果を出させるために何が大切か、「好かれる上司=成果がでる上司」のマネジメントの極意をお伝えいたします。
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株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。
石井あかね=イラスト