「君には新しい風を期待している」と言う上司は20代から疎まれ...の画像はこちら >>

「20代から好かれる上司・嫌われる上司」とは……


採用にはいろいろな目的がある

企業は何のために新しい人を採用するのでしょうか。

「そこにある仕事をやってくれる人を探すために決まっているじゃないか」と言われそうです。それはもちろんそうとして、実は、採用という行為にはさまざまな目的があります。

例えば、事業の方針や内容の変更によって、これまで社内にいる人では適任者がいない仕事が生じたり、これまでの組織文化がフィットしないので変革を起こす必要性が生じる場合があります。

特に、まだ固定的な組織観のない新卒や若手の採用においては、後者の組織文化を変えることを目標としていることが多いですね。

 


組織文化を変えるために新しい人を採る

事業戦略や商品・サービスは、変える決断を経営者が行えば、極端な話、次の日からすぐに実施することができます。

ところが、それに伴う組織文化の変革はそうはいきません。人の頭の中にある考え方や価値観を変えなければならないからです。

アメリカの企業であれば、そんなときにはダイナミックに人を入れ替えたりもするのでしょうが、日本ではそうはいきません。そのため、なかなか変わらない人の頭の中を、じっくり時間をかけて変えていかねばならないのです。

しかし、若い人は「真っ白なキャンバス」ですから、いきなり新しい文化に適応してもらうことも可能で、組織文化の変革を促進する人材になりうるのです。

 


しかし、いちばん弱い人を変革の先頭に立たせるな

このことを指して、いろいろな会社で新入社員に対して「新しい風を期待している」などと言うわけです。

ところが、ここに大きな落とし穴があります。若い新入社員は確かに新しい文化を身につけやすい人ではありますが、会社の中では弱者中の弱者であるということです。

もし、彼ら「だけ」を新しい文化に染めて、旧態依然とした組織に放り込んだとしたら、どうなるでしょうか。

きっと、すぐに摩擦を起こしてしまい、結局、力関係で新人たちは折れて降参するか、辞めていってしまうことでしょう。

いくら指示しやすいからと言って、新人たちを変革の先頭に立たせて戦わせるのは無謀というものです。


組織変革は非常に難しいチャレンジ

そもそも、一旦根付いた組織文化を変革することは非常に難しいことです。

企業変革についての第一人者、ハーバードビジネススクールのジョン・P・コッターによれば、企業をある状態から別の状態に変革させるためには、8つもの段階があるとのことです。

それは以下の通りです。

1) 危機意識を高める
2) 変革推進のための連帯チームを築く
3) ビジョンと戦略を生み出す
4) 変革のためのビジョンを周知徹底する
5) 従業員の自発を促す
6) 短期的成果を実現する
7) 成果を生かして、さらなる変革を推進する
8) 新しい方法を企業文化に定着させる
(出典:ジョン・P・コッター『企業変革力』日経BP社)

詳細説明は書籍に譲りますが、これだけのステップを踏まなければ変革は成功しないとコッターは言います。

しかも、コッターはこの8段階について、第1段階から順を追って進めることが重要で、途中のプロセスを飛ばしてはいけないと強調しています。

 


まず組織内で十分な準備をしてから新人を受け入れる

この理論で言えば、新しい文化に適した人を採用して変革を促進するというのは7段階目以降のことです。それまでに多くのことを社内でやっておかなければ組織文化変革は成功しないのです。

それなのに、6段階目までの組織内での準備ができていないのに、「いちばん手軽にできるから」ということで、まず採用から始めてしまうところが、残念ながらよくあります。

なんでもそうですが、「やりやすいところから始める」ではなく、順序が大事なのです。若い新人たちを組織変革の犠牲にしてはなりません。

そうでなければ、いざ、社内の準備が整って、新しい文化に適した人をいよいよ本格的に採用しようというとき、先人たちの死屍累々を見て、「こんな会社には入らないようにしよう」と有望な若手たちは思うことでしょう。ぜひご注意を!

連載「20代から好かれる上司・嫌われる上司」一覧へ

「20代から好かれる上司・嫌われる上司」とは……
組織と人事の専門家である曽和利光さんが、アラフォー世代の仕事の悩みについて、同世代だからこその“寄り添った指南”をしていく連載シリーズ。好評だった「職場の20代がわからない」の続編となる今回は、20代の等身大の意識を重視しつつ、職場で求められる成果を出させるために何が大切か、「好かれる上司=成果がでる上司」のマネジメントの極意をお伝えいたします。


上に戻る

「君には新しい風を期待している」と言う上司は20代から疎まれる
『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(ソシム)

曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。

 
石井あかね=イラスト

編集部おすすめ